ヨーロッパを旅する前に知っておくべき西洋建築の知識として、今回は新古典主義建築について説明します。
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※明言しますが、西洋建築の勉強をしてからヨーロッパに行けば無学で行くより100倍楽しめます。
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本記事は「新古典主義建築が排除した要素」を解説しています。
新古典主義建築が排除した要素
この章の特に重要な点を挙げると以下の3点になります↓
➀ギリシャ建築の発見と新古典主義建築の誕生
②新古典主義建築が排除した要素
それぞれ解説します。
➀ギリシャ建築の発見
18世紀中頃以降、考古学によってギリシア建築のオーダーが明らかにされ、それがローマ建築よりも純粋であるという認識が高まり、イギリスとドイツでは簡素にして厳格なギリシャ建築を復興する方向に進みました。
逆に19世紀初期のフランスは、ナポレオンが古代ローマに心酔したこともあり、豪華壮麗なローマ的なものを好みました。
イギリス&ドイツ「え、ローマ建築の遥か前にギリシャ建築ってのがあったの!!?なら本家本元のギリシャ建築こそ復活させるべきじゃん!」
フランス「ギリシャ建築?ふん、別に興味なし。それにしても古代ローマかっこよすぎるんですけど・・・。」
つまり、18世紀中頃まではギリシャ建築の存在がほぼ知られていなかったのです!!!
考古学研究によってギリシア建築がローマ建築の基であるということが判明しました。
それまでの古典系建築では「ローマ建築をお手本に」されてきました。
そもそもオーダーの造形原理は、エンタブラチュア(=梁)とそれを支える円柱という単純な構造方式を芸術的に洗練することでしたよね?
考古学研究が進むにつれ、ギリシャ建築のオーダーこそが構造方式が純粋かつ理に適っている(合理的)と再評価され、ローマ建築及びそれ以降の古典系建築の合理的ではない用法や要素が全て見直されました!
と同時に、新古典主義のうちには、考古学的正確さよりも建築の原理的な面に強い関心をもつ動きがみられました。
その合理的ではない用法や要素を次項で説明します。
②新古典主義建築が排除した要素
では、ローマ建築ですら「合理的でない」とした新古典主義建築家が、非合理的として排除した要素を11個紹介します。
「ギリシャ建築まぢ神」という思考で読み進めてください。
➀オーダーを浮き彫りのように壁に貼り付ける方法
(ローマ以降)
ローマのコロッセオ↓
円柱が独立しておらず、壁に埋まっています。
合理的に考えれば「円柱を付ける意味がない」ですよね、何かを支えているわけじゃないので。
排除要素1つ目です。
②オーダーを上下に重ねる方法
(ローマ以降:ギリシア建築にもあるが神殿外観にはみられない)
例えばこんなん↓
オーダーが上下に重なっています。
「どうしても円柱を上下に重ねる必要があったから重ねた」のではなく、ただ「新しいから」とか「斬新だから」といった理由に思えます。
これも合理的に考えれば必要ないですね。
排除要素2つ目です。
例えばコロッセオの場合↓
これは各階を支えるためにオーダーが必要なので上下に重なっていても合理的だと思います。
しかし、上述したように何も支えていないので壁に埋まっているのは非合理的です。
③双柱
(ルネサンス以降)
例えばイタリアのヴィチェンツァ↓
そこに数多く使われている「双柱」の存在です↓
「合理的に考えて、双柱を使う意味はなに?(´・ω・`)」
「別に一本の柱で支えれるのにわざわざ双柱にした理由は?」
なんて声が聞こえてきそうですよね。
排除要素3つ目です!
④大オーダーと小オーダーの併用
(後期ルネサンス以降)
カピトリーノ美術館↓
うーむ、一見するとこれはこれで成立しているように見えますが。
あ、大オーダーと小オーダーの併用が合理的ではないってことですね。
本来は大オーダーだけで建物を支えれるのに、なぜ小オーダーも追加したのか…。
排除要素4つ目です。
⑤パラディアン・モチーフ
再びイタリアのヴィチェンツァ↓
大オーダーでは無い大小二種類のオーダーの併用をパラディオに因んで、パラディアン・モチーフと呼びます。
これもまた壁面に埋め込まれた半円柱なので何も支えておらず、
「だーかーらー、大小二種類のオーダーを併用する意味がどこにあんねん(; ・`д・´)」
って声が聞こえてきそうです。
排除要素5つ目です。
⑥円柱の不均等な配列
(バロック)
サンタ・スザンナ聖堂↓
もう円柱の配列(間隔)がバラバラ
均等でも何でもないですね。
バロック建築では中央への収斂を意識したのでわざとこのように幅を変えていますが、これも不合理です。
ギリシャ建築では柱どうしの間隔や円柱の直径、高さ、エンタブラチュアの幅など全ての要素が比例で繋がっていましたから。
古代ギリシャの数学者ピタゴラスが「万物の根源は数である」と言ったように、ギリシャ建築の最大のテーマは「見た目が美しい建物は数学的にも調和している」ということでした、よね?(←復習ww)
つまり、これはアウトですね。
排除要素6つ目です。
⑦ピラスター、1/2円柱、3/4円柱、完全円柱などの混用
(バロック)
再びサンタ・スザンナ聖堂↓
ピラスター、1/2円柱、3/4円柱、完全円柱などが混用されています↓
ローマ時代のコロッセオと同様に、
「円柱を壁に埋めて何の意味があるの?なにも支えないのに…」
なんていう声が聞こえてきそうです。
排除要素7つ目です。
⑧円柱の前後の重層化
(バロック)
またもやサンタ・スザンナ聖堂↓
バロック建築では中央を強調するために円柱が前後に重層されているケースが非常に多いです。
「中央を強調したいから」という目的それ自体は意味は分かりますが、合理的では無いですね。
排除要素8つ目です。
⑨エンタブラチュアやペディメントの湾曲と屈折
(バロック)
サン・カルロ・アレ・カトロ・フォンターネ聖堂↓
エンタブラチュアがグニャグニャです・・・
新古典主義建築家が最も嫌う部分かな、と個人的には思います。
排除要素9つ目です。
⑩アティックやエディキュラの付加
(ローマ以降)
アティックとはいわゆる「ロフト」とか「屋根裏部屋」のことです。
ローマの凱旋門↓
エディキュラとは「小祠」を表し、壁面から張り出すようにして造られた石造の飾壇で、中央の凹部には彫像などが置かれます。
ローマのパンテオン内部↓
もう少し拡大するとこうなります↓
ギリシャ建築に無い余計な装飾は全てアウトっぽいですね。
別に屋根裏部屋とかエディキュラはあってもいいと思いますが、筆者は(笑)
排除要素10個目です。
⑪弓形のペディメント
(ローマ以降)
ペディメントとは屋根の上に載っている三角形の壁面です↓
この三角形です、が、ペディメント自体はギリシャ建築の時からありました。
しかしローマ建築時代から、この三角形が弓形に変化します。
ローマのパンテオン内部↓
これも余計なアドリブとみなされてアウトなんですね。
ギリシャ建築時代にペディメントを弓形に造ってたら、新古典主義時代には三角形のペディメントが排除されていたのかなーなんて、個人的には思いました(笑)
排除要素11個目です。
ってことで、これまで11個の排除要素を見てきたわけですが…。
これらの用法や要素を最も駆使したのはバロック建築で、新古典主義はそのようなバロックに対する反動という側面を強く持っています。
意味わかりますか?
つまりバロック建築時代に様々なアドリブを付加して教会を建てすぎたために、
「いや、Simple is the bestやん」
という大きな反動が生まれたということですね。
そして最も純粋である古代ギリシアの神殿建築を理想とし、上記の用法や要素を可能な限り排除した表現を目指したのです。
では次に、フランス・バロックの代表作「ルーヴル宮殿」についてお話したいと思います。
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