【訪問記】初めてのロンドンにして、最後のロンドン。

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さて、時は2025年2月上旬。

トルコのイスタンブール空港を後にし、筆者は単身ロンドンへと飛び立った。

トルコはというと、とにかくカオスが詰まった街だった…。

ルールがあってないような世界、それがイスタンブール。

とにかく自由。

詳しくはこちらの記事で。

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2025年2月4日から7日まで4日間トルコの首都いや最大都市イスタンブールに行ってきたのでその時の体験をシェアしたい。 ※トルコの首都はイスタンブールではなくアンカラである、筆者は盛大に勘違いをしていた。 「オーストラリアの首都[…]

そしてようやくイギリスである。

初めてのイギリス。

初めてのロンドン。

初めてのEnglish本場の国である。

「イギリス英語って私たちが学ぶアメリカ英語と違って癖があるから~」と、イキってくる奴らに対し、

「イギリス英語知ってます自慢、おつwww」

と心の中で静かに処理してきた筆者。

そんな筆者にもついに、「イギリス英語ってさ~」とイキれる時が来たのである。

とうとう「語れる側」に昇格する。

これは楽しみだ。

人生初のロンドン、期待値フルチャージでいざ突入する。

イギリス入国にはビザ申請が必須になった

まずは何よりも重要な話をしよう。

笑い話の前に、ガチの大事なお知らせだ。

2024年9月10日(火)、イギリス政府は突如、電子渡航認証「ETA」の導入スケジュールを発表した。

ETA(電子渡航認証)──つまり「ちょっとイギリス行ってくるわ」と軽いノリで行けてた時代は終わった、というお知らせである。

これにより我々日本人は、2025年1月8日(水)以降にイギリスに入国する場合はビザの申請が必須になった。

※2025年5月現在、飛行機の乗継でのイギリス入国はビザ不要
(当初は乗継客にもビザ申請必須にしていたが、内外からの猛烈な反対を受けて現在は免除中)

ビザの申請は"UK  ETA"アプリから可能。

ビザの申請手数料は10ポンド(約1,900円)、ビザの有効期間は2年である。

2025年5月現在、信じられないことに申請手数料は早速16ポンド(3,040円)にまで値上げされている。

3,040円、はっきり言ってめちゃくちゃボッタクリである。

イギリスはこれを当初、観光予定のない素通り乗継客にも適用しようとしていたのか?
がめつ過ぎる。

だが、ここで驚いてはいけない。

この「3,040円 ✕ 観光客数」のインパクト、計算してみたらもっと恐ろしい。

こちらによると、イギリスの年間の観光客数はコロナ前の2019年で約4,100万人弱、コロナ期にドーンと落ち込むも、それから徐々に回復し2025年現在ではほぼ元の水準に戻っている。

つまり今、観光客から得られるETA申請料収入は…

ざっくり計算で6.56億ポンド(約1,246億円)

ちなみに日本の観光客数も2024年は約3,600万人となっており、ビザの申請手数料で仮に3,000円徴収したとすれば、収入が約1,080億円も増えることになる。

日本政府も、訪日外国人から収入を得るこのようなシステムを積極的に導入して欲しいものだ。

とにかく、イギリスに行く予定の人は気をつけてくれ。

行くだけで3,000円取られる国に、あなたは今向かおうとしているのだから。

気遣い0点のイギリス人 at Info

ロンドン・ガトウィック国際空港に到着した。

「めんどくさい入国審査が始まりやがる…」と思いきや、その予感はあっさり裏切られる。

パスポートを機械に置いて、ピッ。

静かにゲートが開く。

はい、終了。


(出典;英国の空港にパスポート電子ゲートがオープン: 知っておくべきことすべて

拍子抜けするほどスムーズに入国してしまった。

これには思わず「え、もうイギリス入国完了した?」と自問するレベル。

しかし全乗客がこのシステムを利用できるわけではない。

一部の信頼された特別な国のパスポート保持者だけに許される、合法な裏口入国である。

さて、筆者は預け荷物もない軽装。

サッと到着ゲートを抜けて、次はロンドン市内への切符を購入すべく行動開始。

事前に「ロンドン ガトウィック 空港 市内 最安」といった、いかにも旅慣れてます風の検索をしてみたものの、結論としては…

よくわからなかった。

なので、いちばんオーソドックスな電車移動を選択。

早速、info(インフォメーション)と書かれた窓口に座っていた女性に、「大英博物館まで行きたいんですが」と聞いてみた。

※ホステルは大英博物館のすぐ隣

すると彼女の返答はこうだった。

「それ、駅の券売機のところにいる人に聞いてくれる?」

…。

ふむ、ではお前はなぜそこに座っているのだ?

その看板、飾り?それともファッション?

infoと言いながら交通情報は扱っていないのか?

それとも、おまえの気分か?

しかもその言い方が、妙に上から目線で尊大だったこともあり、筆者の中の怒りゲージが一瞬でググッと上昇。

だが、筆者は良識ある大人である。

アンガーマネジメントの基本、「怒りのピークは6秒」を知っている。

ということで、深呼吸。

スゥゥゥーーーーー……

ハァァァーーーーー……

(6秒後)

「チッ…あいつなんやねん…。」

まあ、多少はスッキリした。

そして筆者は券売機へと向かうのであった。

ちなみに筆者は渡英3日前に『イギリス人はおかしい』という本を読み終えており、イギリス人の国民性についてはある程度知識があったつもりだった。

だが、まさかいきなりその洗礼を浴びるとは思っていなかった。

この本の著者は最後に「それでも私はイギリスが大好きだ」みたいな薄っぺらなフォローをしていたが、筆者にはただただイギリス国民をディスりまくった本としか思えなかった。

気遣い0点のイギリス人 at 券売機

さて。

券売機に着いた。


そう、まさにここ。

気を取り直して券売機の前に立った筆者の目に飛び込んできたのは──

どこか未来感漂うタッチパネル式の券売機。

見た目は近代的でスタイリッシュ。

言うなれば、ちょっと強そうな家電。

しかもその券売機、20台ほどが横一列にズラーッと並んでいる。

圧巻の物量。なんだこの列。軍隊か?

だが、こいつがとんでもないクセモノだった。

まず、画面をポチポチ操作しながら目的地の駅名「Bloomsbury Square (Stop B)」と入力。

すると、

「その目的地には行けません」

は?

思わず画面を二度見。

何度試しても同じ画面が出てくる。

完全にRPGの迷宮ダンジョンをさまよっている気分。

周囲の空気もどんどん冷えていく。

いや、これは表現するのがマジで難しいのだが、ロンドンの土地勘が無い人間にはもうマジでどの切符を買えばいいかが意味不明だった。

そもそもヨーロッパの鉄道切符には様々な種類がある。

  1. 距離によって金額が変わる。
  2. 一定時間なんでも乗り放題。
  3. 一定区間&一定時間乗り放題。

などだ。

また地下鉄とバスとトラムによってもシステムが違うことも多々ある。

筆者のリサーチ不足と言われればそれまでなのだが、皆さんにはマジで事前に徹底的にリサーチしたうえでロンドンを訪れて頂きたい。

結局"City Thameslink"という謎の駅より先に進むことができなかったため、「最悪歩くしかない」と覚悟して意味不明のままその切符を買った。

また、筆者は明らかに困っている様子で券売機の前で15分以上も格闘していたが、周りのスタッフは談笑こそしていたが、筆者に救いの手を差し伸べる人間は誰もいなかった。

筆者がまるで透明人間かのような扱いである。

スウゥゥゥーーーーー…
ハアァァァーーーーー…
6秒…6秒…(ブツブツ)

ところで、おまえらの仕事はなんだ?

困っている観光客に救いの手を差し伸べるのがおまえらの仕事じゃないのか?

この時点で筆者はイギリス人がどういう国民性なのかがよくわかった。

だが大丈夫!

怒りのピークはたったの6秒。

ここで感情を爆発させたら、イギリス入国早々、何かの規約に引っかかりかねない。

筆者は深呼吸を繰り返しながら、まるで修行僧のように静かにホームへ向かって歩き出した。

それでも、脳裏には本のとある一文がずっと浮かんでいた。

イギリス人は、自己の権利は主張するが、義務は果たさない。

まさに、実感。

観光客の悲鳴は、この国の空港スタッフには届かないのか。

それでも、旅は始まったばかり。

筆者のロンドン戦記は、まだ一章目である。

電車代が高過ぎる

さて、切符を買ったはいいが…

その額面を見た瞬間、筆者は再び静かにブチ切れることになる。

ロンドン・ガトウィック空港からロンドン市内まで、(高いとは聞いていたが)なんと片道14.4ポンド!!!

日本円にすると、約2,750円である!!!

……え、なにそれ。

これ新幹線?
フェリー?
それともヘリ?

いや違う。

乗車時間37分のふっつーーの電車である。

座席もごく普通、車窓もごく普通、駅名もごく普通、走り方もごく普通。

何一つとして特別感ゼロの、日常感あふれる列車。


ロンドン・ガトウィック空港駅

しかも乗車時間、たったの37分。

しかもしかも、ホステルの最寄り駅までどころか、"City Thameslink"という謎の駅までだ。

「誰?」「どこ?」とツッコミたくなるような、よくわからん駅までのチケット。

もう一度言うが、ホステルの最寄り駅にすら届いていない。

ゴールにすら着いてないのに、もう2,750円飛んでいった。

現在18時、筆者はこれから一泊して明日の夕方の便でイタリア・トリノへ向かう。

つまり、ロンドンに滞在するのはたったの一日。

その一日のために、

往復の電車賃:5,500円以上

ビザ申請費:約3,000円

合計:約8,500円

…これが交通費と入国料だけという事実。

いやちょっと待ってくれ。

「観光してないのに、財布だけはめっちゃ旅してるやんけ」

スウゥゥゥーーーーー…
ハアァァァーーーーー…
6秒…6秒…(ブツブツ)

狂っている、ロンドンの物価は狂っている。

まともな精神では財布が持たない。

いや、財布どころか心が砕ける。

ロンドン、恐ろしい街だ。

いざホステルへ

さて、City Thameslink駅に到着。

ここからホステルまでは徒歩移動だ。

筆者は

知らない街の近距離移動において、筆者は常に「徒歩最強説」を唱えている。

慣れない土地で無理にピンポイント下車を狙ってバスやトラムを使ったりすると、
「方向ミスって逆走」とか、「降りた場所が思ってたんと違う」事件が発生する。

その点、歩きなら絶対に間違えない。

仮に道を間違えても、気づいた時点ですぐ修正が効く。

時間はかかるが、金はかからない。

歩けばだいたい解決する。

というわけで、駅を出た筆者。

そこで目にしたのは──

雨。

ぽつぽつと一生降ってんじゃねえのかって思うくらいぽつぽつ…。

空はロンドンのテンプレのようなどんより雲。

太陽どころか、空のやる気すら感じられない。

雨、あめ、そしてアメ。

筆者の気持ちもどんよりと沈む。

スウゥゥゥーーーーー…
ハアァァァーーーーー…
6秒…6秒…(ブツブツ)

傘はない。気力も薄い。

だがGoogleマップだけは裏切らないと信じて、
筆者は濡れた路面をひたすら歩いた。

右折、左折、直進──

雨に濡れながら、石畳を踏みしめながら、ときどきスマホの画面をのぞきこみながら。

もはや旅というより修行に近い。

「旅は足で感じろ」とはよく言うが、これは感じすぎである。

そして30分後──

ようやく見えてきた、目的の建物。

ホステルの名は、アスターミュージアムホステル

名前からして高貴な香りがするが、れっきとしたホステルである。

だが何より驚くべきはその立地。

ガチで大英博物館の隣という奇跡のロケーション。

どうだろうか、予想以上に真横だっただろう?

ロンドン一発目の宿としては、まさに100点。

雨の中を耐えて歩いた価値があったというものだ。

建物の入口に近づき、扉の横にあるインターフォンをポチッ。

すると、「カチャッ」と控えめな機械音とともに電子ロックが解錠。

筆者は雨に濡れた服をゆっくりと脱ぎ捨てるような気持ちで、静かに扉を開け、ようやく屋根のある世界へと足を踏み入れた。

言語の壁

受付には、やたらとテンションの高い若い女性がおり、筆者にホステルのルールや設備を説明してくれた。

この子やたらとテンションが高く、まるで長年の友人かのように筆者に愛嬌よく優しく丁寧に接してくれる。

「ん、まさかおれに惚れたのか?」

いや、待てよ、冷静に考えろ。

このノリの良さは日本じゃ考えられないが、欧米では意外とよくあるやつだ。

ホステル界隈では、テンション高めなスタッフがフレンドリーに接してくれるのは完全にあるあるである。

そして彼女が発した一言を筆者は聞き逃していなかった。

「地下のキッチン&ダイニングスペースにフリードリンクが置いてあるから遠慮なく楽しんでね。ココアなんかもう最高よ♡」

ココア、か。

ふむ、悪くはない。

案内が終わり、筆者は荷物を部屋に置くより前にまずはホットココアでホッと一息つこうと決めた。

ん?ナチュラルに親父ギャグをかましてしまったが、筆者はまだ32歳の若者である。
ホットいてくれ!

地下へ降りると、キッチン&ダイニングには白人のバックパッカーたちが楽しそうにおしゃべりしながら料理している。

筆者は黙ってその輪の中をつっきり、キッチンに置いてある電気ケトルや冷蔵庫を探したが、ココアがどこにあるかわからない。

「ココアハ ドコデスカ?」

誰かに訊こうかと思ったが、みんな英語がペラペラ過ぎる。

この瞬間、筆者は直感した。

この英語ネイティブの輪に入ったらヤバい

と。

おそらくみんな筆者を温かく迎え入れてくれるだろう。

そして日本から来た筆者のことが珍しく、しばらくはみんなの「珍しがられる存在」として注目されるだろう。

しかし、しかしだ。

その後どうなるか考えたことはあるか?

経験者は語る。

「そうですね、あの輪の中に入ったらまずは注目を浴びます。
そらそうですよ、みんなにとって『ジャポン』の人間はある意味エキゾチックですから。
その後はみんなで食事しながら色んな話をするでしょう。
しかし英語力がダントツ最底辺なわたしは意味も分からず笑顔のまま雰囲気でAhaaとかoh yeahなどの相槌を打つマシーンになリます。
スラング入りの会話の意味がほぼ分からず、ちょっとした会話でも実は全くついていけない自分がいることに気づくのです。」

経験者は続ける。

「たまに自分に話が振られても大した返答はできません。
その後みんなは"今夜パブに行こうぜ"とか"明日はどこどこに"などという話になるがそこにわたしはいないのです。
気まずすぎて、『どこでこの輪から抜け出そうか』ということしか考えられなくなります。
そしてさよならも言わず自然とフェードアウトするのです。」

これはもう人見知りとか内気とかシャイなどといった筆者の内面の問題ではない。

これこそが言語の壁なのだ。

結局、筆者はその後、ココアを探すことよりも一刻も早くこのキッチン&ダイニングから逃げ出すことに全力を注いだ。

あまり長時間ウロウロしていると誰かに「ヘーイ、ハワユードゥーイン?」と声をかけられる可能性があるからだ。

どう考えても、今ここで輪に加わったら、筆者の心は見事に粉々になりそうだったからだ。

言語の壁とはかくも大きいものなのだ。

カラオケに…

ホットココアの夢を断念した筆者は、とりあえず2階の自分の部屋へと足を踏み入れた。

扉を開けると、目の前に広がるのは3段ベッドが5台置かれている15人部屋。

まるでこれからお互いを殺し合うバトルロワイアルの舞台みたいだ。

筆者のベッドを探すと、まさかの3段ベッドの最上段。

ハシゴを上り、一度ベッドに横になったものの、その高さがあまりにも不便すぎて耐えられなかった。

「トイレや歯磨きの度にハシゴをギシギシ降りて上らなければいけないのか?」

一度荷物を広げたが、「さすがにここは嫌だな…」ということで筆者のネームプレートを最下段の人のと取り替えた。


ネームプレートを交換するだけで移動できた

晴れて筆者は最下段になった。

やはり最下段はいい。

ククク、それにもともと最下段だった人もすり替えられているとは気づくまい。

相手にも配慮し自分の利益も最大化する、この世の理不尽に立ち向かうその姿勢、我ながら称賛に値する!

さて、やるべきことは山積みだ。

まず、ほとんどの荷物がびしょ濡れ。

小雨とはいえ30分も打たれ続けたら、土砂降りの3分間に相当するのは常識だ。

これを放置するわけにはいかない。

必死に乾かすべくベッドの上に広げていく。

水も買ってなかったので、再びフロントに向かい近くのスーパーマーケットと格安レストランの情報を入手する。

筆者のことが大好きなそのフロントの女性は親切に店名や道順も教えてくれ、しかもカラオケパーティーのお誘いまでされてしまった。

「金晩は毎週近くのバーでカラオケパーティーをやってるの。20時からだから暇なら是非来てね!参加費はバーで頼むドリンク代だけよ♡」

バーのドリンク代だけとはかなり良心的ではないか。


看板の中にKARAOKEと書いてあるのがわかる

だが、参加するかどうかは微妙なところ。

「この美声、そろそろ世界に解き放つ時が来たのでは…?」

筆者の甘い歌声を披露したい気持ちもあるが、イギリスのパブのカラオケに筆者が歌える曲があるとは思えない。

確かに筆者のレパートリーの中には英語の曲もあるが、ネイティブの前で英語の歌を熱唱するのはさすがに恥ずかしい。

未だに意識しないと「BとV」「RとL」の発音も怪しい筆者だ。

下手したら途中で「…それ、英語じゃないよ」なんて言われそうでもある。

そう、筆者は傷つきやすい繊細なハートの持ち主なのだ。

「お誘いありがと!まあ考えとく~」

と曖昧な返事をし、まずはスタッフおススメの格安レストランへ向かった。

ついでに奥様に「カラオケに誘われたわ、まあ行かんけど(笑)」と報告しておいた。

Shakespeare’s Head – JD Wetherspoon

スタッフにおススメされたのは、"Shakespeare’s Head – JD Wetherspoon"というパプだった。

J D Wetherspoon

「パブ」と聞くと、ちょっと敷居が高いイメージがある。

ビクビクして「すませーん…」と小声で呟きながら入店してみた。

さて、パブでの立ち居振る舞いも知らないまま筆者は入店したわけだが。

店内に入ると、まず誰も筆者に声をかけに来ない。

普通ならウェイトレスが
「何名様ですか?」
「喫煙されますか?」
「ではこちらにどうぞ」
などと案内してくれるはずなのだが。

誰も筆者に話しかけに来ない。

「え、おれ嫌われてる?」
「もしくはアジア人だから無視されてる?」

「お客さん来ましたよ~」と知らしめるために、わざと店内をウロウロするが誰一人として筆者に接客しようとする人間がいない。

不安で爆発しそうになりながら、入り口近くのゴツい黒人バウンサー(←入場制限やトラブル対応を行う人)に話しかけてみた。

「……あの、どこに座ればいいですか……?」

するとバウンサーは笑って答えた。

「まずは席に座れ。話はそれからだ。」

それだけ言ってバウンサーは来店客の対応に戻った。

「え……(´・ω・`)」

席を探すと言っても、空いてる席などまるでない。

見渡す限り、完全に満席。
詰んだ…。

仕方がない。

ふぅ。

4人席に一人で座っているOpen AIのサム・アルトマン似の男性に近付いてこう言った。

"Do you mind if I sit here?"
(ここに座ってもいいですか?)

…決まった。

高校英語で習った"Do you mind if ~?"構文である。

この表現は非常に汎用性が高く、筆者にとっては"Can I ~?/May I ~?"よりもよりネイティブっぽい表現である!!

筆者の必殺技が決まり、アルトマンは「Sure, go ahead!」と返事しくれた。

「うわ~、おれ英語話せてます感めっちゃある~」と感動しながらありがたく席に着いた。

4人席を知らない人間二人でシェアする気まずさ…かと思いきやアルトマンは全く気にしていない様子、おがけで筆者もリラックスすることができた。

ありがとう、アルトマン!

ちなみにメニューの注文方法は、

  1. スマホアプリで注文する
  2. バーカウンターまで言いに行く

と2つあるらしい。

メニューは当然、全て英語である。

なにを頼めばいいのか、正直よくわからん。

とりあえず外せないのはハンバーガー🍔か。

じゃあソフトドリンク込みで9.64£(約1,840円)の"Double beef burgers"を一つ!

1,840円のバーガーか、きっとトンデモナイ巨大なサイズが来るはずだ。


筆者の脳内イメージ

うむ、これなら1,840円払う価値がある(納得)。

とりあえずバーカウンターに行き、店員の女性に声をかけた。

筆者「ハロー」

女性「Hello sir, what can I get you?」

筆者「ワッキャナイゲッチュー?」

(これがモノホンのネイティブ英語か…)
(筆者が店員ならWhat do you want?と訊いてしまいそうだ…)
(とりあえず注文を訊いているのだな?)

筆者「ワン、ダブル ビーフ バーガー、プリーズ!」

女性「OK」

(つ、通じた…)
(英語の本場「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」(略してイギリス)でもおれの英語は通じた。)

女性「Any drink with that??」

(ぬぁっっっ!!??)
(ドリンク選ぶの忘れてた!!)
(おれならWhat do you want for a drink?と訊いてしまいそうだ)
(この5単語で全てを済ませようとしてくる感じ、さすがネイティブである。)
(えーと、落ち着け……後ろの壁に見えるドリンクマシンの絵……あそこにヒントがあるはず!)

筆者「ペプシ プリーズ!」

女性「Sure, what’s your table number?」

(ん?テーブルナンバー?)
(なにそれ。初めて聞いたけど)

筆者「ワット イズ ア テーブルナンバー?」

女性「The table you’re sitting at should have a number on it.
We need that number when you order, otherwise we won’t know where to bring your food.
Could you check the number and come back, please?」

(急に長文でしかも早口過ぎてよくわからんが、どうやらテーブルに番号が振られているらしい。)
(それを確認してから戻って来いってか)

筆者「Oh yeah」

こうして、テーブルの番号を女性に伝えて支払いを済ませ、待つこと5分ほど。

その間にアルトマンは食事を終えて帰ってしまった。

去り際に筆者になにか「食事楽しんでね」的なネイティブフレーズをぶち込んできたがあまり聞き取れず、筆者は反射的に「オーイェー センキュー」と言ってしまった。

テーブルの上を見ると、まさかの日本語が。

スリ・置き引きが発生しています。
バッグや携帯電話などお手回り品にご注意ください。

「ん、まさかあのアルトマン!!!??」

筆者が注文のために席を立った隙になにか盗られたのでは?と思ったが、全て無事だった。

さすがに貴重品を置いて席を立つほど筆者はマヌケではない。

また店内は非常にガヤガヤしており、シーンとしているよりはどこか安心する。

その後、お楽しみのダブルビーフバーガーが届いた。

ん、なんだこれ?
近くのマクドで買ってきたハンバーガーか?

確かにダブルビーフではあるけども。

一口食べたが、確かに不味くはない。
いや、むしろ美味しい。
美味しいが…

この値段はボッタくり過ぎである。

これなら同じ値段でマクドかKFCで腹いっぱい食べる方がよっぽど良い。

一瞬で完食。

まるで何も食べていないかのような空腹感。

仕方ない、もう一つ4.98£(約950円)のラップを頼むとするか。

テーブル番号を覚えてさっきの女性店員のところに行き、「ワン スモール ブランチ ラップ、プリーズ!」と追加注文した。

5分後。

そう、これが約950円のラップである。

これ一個の値段でやよい軒なら「から揚げ定食+ご飯おかわり自由」が可能な価格。

クソッ、これは詐欺だ。
ボッタくりだ。
おまわりさーん。

イギリス、それはみるみるうちに金が飛んでいく魔性の国である。

一つ詩が浮かんできた。

イギリス──

飲み物ひとつでランチ価格。
水すらも、ちょっと高貴。

「おごるよ」なんて、二度と言えない。

筆者、涙で視界が歪む中、そっと店を後にした。

「そんな時代もあったね」といつか笑って言える日は、たぶん来ない。

カラオケに参加…のはずが。

パブを出て、少し歩くとスーパーマーケットがあった。

もはや信じられるのは水だけ。

無言でペットボトルを一本購入。

すると、ちょうど奥様からメッセージが。

「いい機会だからカラオケ行ってきなよ」

温かいお言葉。

その言葉に背中を押され、カラオケが開催されるというパブ「THE OLD CROWN」に向かう。

別にパーティーに参加したからといって、必ずしもなにか歌わなければならないわけではない。

宿のすぐ近くなこともあり、スーパーマーケットからの帰り道に寄り道した。

到着!

現在19時45分、カラオケ開始は20時からと聞いている。

まずは店の前で仲間の出現を待つ。

5分後、まだ誰も来ない。

雨は相変わらずぽつぽつと降っており、傘も持たない筆者は狭い屋根の下で孤独に雨宿りをしながら皆を待つ。

さらに10分後、まだ誰も来ない。

一応開始時間になったのだが…?

カラオケの情報が書かれた看板(スマホの写真)を改めて確認する。

確かに書かれている。

“FRIDAY”

“20:00”

“AT THE OLD CROWN”

間違いない、たしかに書いてある。

それに1~2時間ほど前に、受付女性にお誘いを受けたばかりだ。

間違っているわけがない。

……。

ん、待てよ。

もしや、もうみんな中に入って始めているのでは!!?

そうして20時5分、筆者はドキドキしながらパブに突入した。

店内は少しザワザワしているが、カラオケパーティーが行われている様子はない。

筆者が扉を開けた瞬間、なぜか皆が一斉に筆者に注目し、一瞬だが騒がしかった店内がシーンとなった。

筆者はそのままバーカウンターの近くまで歩き、なにも頼まず窓から誰か来ないかだけを眺めるロボットと化していた。

注文なしでパブに座る気まずさ、プライスレス。

そのまま店内にいること5分。

あまりの気まずさに耐えきれず、ついにゴツめのマイク・タイソン似の店員に声をかける。

筆者「あのー、今晩20時からこの店でカラオケパーティーをやるって聞いたんですけど。」

店員「え、どちらさん?」

筆者「あ、ぼくはAstor museum hostelに泊まってる者なんですけど…」

店員「あー、確かに20時から予約は入ってるね。」

(ヨシッ!正式な情報確認完了!

筆者「あ、じゃあみんなが来るまでここで待たせてもらっていいですか?」
「ドリンクはその後注文しますので」

店員「あ、全然いいよ!」

筆者「ありがとうございますm(__)m」

そしてそのまま待つこと10分。

現在20時15分。

世界で最も時刻表に厳しい国ジャポンから来た、さらにその中でも時間に厳しめな筆者を15分も待たすとは。

スウゥゥゥーーーーー…
ハアァァァーーーーー…
6秒…6秒…(ブツブツ)

スウゥゥゥーーーーー…
ハアァァァーーーーー…
6秒…6秒…(ブツブツ)

筆者は自問する。

「チッ、ちょっとみんな遅くない?なにしてんだよ。こちとらもう30分以上待っているんだが?あぁ?」

筆者はここでアンガーマネジメントの限界を知った。

怒りのピークは確かに6秒だけかもしれない、だがその怒りが鬼舞辻無惨のごとく1秒間隔で再生される場合はどうすればいい?

深呼吸が、怒りの波に全く追いつかない。

まるで初めから存在しなかったかのように、筆者は黙って雨の中に戻っていった。

恋愛ドラマでよくある、

「君を待つことも、君を想うことも、ぜんぶ嬉しかったよ。
でも今夜、20時を超えても君が来なかったら──
この恋は、僕ひとりで終わらせるね。」

みたいな状況だ。

言葉にできない切なさである。

雨がぽつぽつと降る中、一人寂しくパブを去りホステルに向かう筆者。

ふと振り返る。

待ち人、来ず。

あるのは湿ったアスファルトと筆者の虚無だけ。

ロンドンはどこまでも筆者を心身共に削ってくる。

アスターミュージアムホステル

アスターミュージアムホステル。

大英博物館の真横にあり、ロンドンの中心地に位置する。

なのに一泊3,774円と破格の料金。

ある程度の「覚悟」はしていた──
だが、現実はその斜め上を行く汚さだった。

シャワー室は各階1つしかなく、常に埋まっている。

自分のタイミングでシャワーを浴びれないのも腹が立つ。

なので筆者は地下にある隠れシャワールームを使ったのだが…

一畳ほどのスペースを無理やり「脱衣所」と「シャワールーム」に仕切っており、立ったまま服を脱ぐと肘が壁にゴン、しゃがむと膝がドアにゴン。

もはや動きが将棋の桂馬レベルで制限される。

壁にはしっかりと黒カビが根付き、「お願いだから触れないで」とカビのほうから頼んできそうな状態だ。

ただ一応、お湯は出た。

えらい。そこは褒めてあげたい。

※筆者は2015年にパリのとあるホテルに泊まった際、途中からお湯が出なくなり極寒の2月初旬だというのに半泣きでコールドシャワーを浴びた経験がある。

トイレも同様だ。

まあ部屋が不潔でなかったことは不幸中の幸いだったが、次回も泊まりたいかと言われれば…

きっと他の宿を探すだろう。

スタンステッド空港行きのバスを予約

さて、翌夕のためにバスの予約をしなければ。

ロンドン・ガトウィック空港から市内へは30分の徒歩移動含めて14.4£(約2,750円)だった。

明日はガトウィック空港ではなくロンドン・スタンステッド空港に向かわなければならない。

今回はしっかりと格安バスを予約しよう。

「London Stansted Airport bus」

ポチっとにゃ。

ポチポチ…
サッサッ…
ポチ…
ポン!

結果、リバプール駅12時35分出発のバスを予約した。

料金は15£(約2,860円)

もっと安いチケットもあったかもしれないが、飛行機に乗り遅れることが最大のリスクだと考えると良い選択だったと思う。

バスなら一度乗ってしまえば寝ていても空港に到着する、乗換えもない。

ということで、明日の12時35分でロンドン観光は終わりである。

とりあえずバスも予約できて一安心の中、午前7時にアラームをセットして耳栓とアイマスクを装着して筆者は眠りについた。

※ドミトリーで耳栓・アイマスクを付けないことは、手ぶらで戦場に行くようなものである。

つまり、致命的なミスであり命取りになる。

イスタンブールの宿で「隣のやつのいびきがうるさくて全く寝れなかった」と筆者にぶちギレてきた白人男性をふと思い出す。

詳しくはこちらで。

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ドミトリーには色んな人間が集まる

午前7時。

スマホのアラームが鳴るやいなや、枕の下から光の速さサッと取り出し、左から右へスワイプ!ササッ

ふぅ。
体感時間…1秒。

なんせここは男女混合の15人部屋。

常識的に考えれば、まだアラームを鳴らしてはいけない時間だ。

音を立てる者は、無言の圧力で社会的に粛清される。

シーツの音すら憚られつつ、そっと荷物を整理し、そっと服を着て、そっと歯を磨いて、そっと靴を履いた。

すると隣のベッドの最上段から、寝起きの女性がなにやら小声で筆者に話しかけてきた。

が、全く聞き取れない。

「……time……」しかわからなかった。

小声のネイティブ英語はマジでわからん。

とりあえず筆者も小声で「Ahaa…」と適当な笑みでやり過ごすと、彼女は再び眠りに落ちた。

安堵。

その後もコソコソと仕度をしていた筆者。

すると5分後くらいに突然、ちょっとセクシーなパジャマ姿+ボサボサヘアの30歳くらいのその女性が急にハシゴを降りてきて筆者に小声でぶちギレてきた。

「ちょっとあなた、さっきからゴソゴソとうるさいのよ。」

「みんなまだ寝てるのよ!」

「それにこんな時間になんてマジであり得ないわ!!!」

なるほど、なかなかに怒っておられる。

筆者は「え、そんなにうるさかった?ごめんなさい」ととりあえず謝っておいた。

しかしタイムリミットは12時35分、あまりのんびりとはしていられない。

筆者はさらに無音モードで荷物をまとめていた。

すると一旦怒りが収まったその女性は、最上段のベッドには戻らず、自分のスマホを充電しようとコンセントに充電器を差し込もうとしていた。

筆者の近くで「カチャカチャ」「カチャカチャ」という音が聞こえる。

「それも十分うるさいやろ」

と内心思ってはいたが、とりあえず無視。

彼女が持っていたその充電器は変形型の多機能アダプターで、それ一つで様々なコンセント形状に対応できるやつだ。


まさにこれ

どうやら変形の仕方が分からず、悪戦苦闘しているようだ。

ちなみに正解はこちらだ。

その後20秒ほどカチャカチャやっていたようだが、イライラしたのだろう。

突然、

"FUUUUCKK!!!!!!!"

と、めちゃくちゃ大きな声で叫んだのだ。

えぇぇぇぇ(;゚Д゚)

驚きを隠せない筆者。

そしてそのまま彼女が筆者のとこに来て「ねぇ、これの使い方わかる?」と訊いてきた。

奇跡的に筆者が持っている充電器と同じものだったので一応説明してあげると、無事に通電完了。

どうやら無事にスマホを充電できたようだ。

すると、彼女はちょっと照れくさそうにこう言った。


画像はイメージ

「コーヒーでも飲みに行く?」

一応感謝のつもりなのだろうが、今日は時間が無いので丁重に断った。

その直後、別の女性二人も起きて荷物の整理を始めた。

※まだほとんどの人は寝ている

彼女はその女性二人にも「みんな起きちゃうから静かにしようよ」と謎の正義感を出して注意したが、逆に彼女らは「大丈夫よ、みんなグッスリだから」と反論してそのまま片付けを始めた。

なんでもまず謝るのは日本人の悪い癖なのかもしれない。

よく見ると、新たに起きた女性二人も「薄着のタンクトップ&ショートパンツ姿」で筆者の周りをウロウロしている。


画像はイメージ(実際はもう少しセクシーな格好をしている)

うっかり視線を合わせないよう努力しつつも、心拍数は倍速に。

やめろ、ドキドキしてしまうだろ。

筆者は欧米人女性との恋愛経験も多少あるが、未だにこの生粋の自然体セクシーには慣れない。

そんなこんなで、朝8時。

筆者は静かに、宿を後にした。

イングリッシュ・ブレックファースト

さて、宿を出た。

空模様は相変わらずロンドンらしいグズグズっぷり。

小雨がぱらぱら、晴れ間なんぞ都市伝説かと思うくらい、影も形もない。

そして、気分も湿気てる。

とりあえず、観光名所の大英博物館に足を運んでみた。

あの映画『ナイト・ミュージアム』(第3作目)で展示物たちが夜な夜な大暴れしていた、あの場所である。


画像生成AIにて作成

一応写真をパシャリ。さらにもう一枚パシャリ。

まだ誰もおらず、シャッター音だけが静かに響く。

見た目は立派。

歴史の厚みも感じる。

しかし、まだ開館前だった。

警備員に「もうちょい近寄って見たいんだけど」と言うと「10時開館だからそれ以降に来てくれ」と言われた。

まあ当然か。

じゃあ諦める、今日は時間がない。

次の目的地へ向かう。

昨晩訪れたパブへ。

カラオケパーティーをぶっちされたあのパブではなく、サム・アルトマンと同席したあっちのパブである。

実は昨晩、メニューにこっそり書かれていた「Traditional Breakfast £5.99」がずっと気になっていたのだ。

徒歩10分で到着、今回はもう迷わない。

店内はガラガラ。

まるで貸し切り。

席について、スマホアプリでサクッと注文。

席番号とクレカ番号を打ち込み、「ポチッ」とすれば完了。

文明の力、ありがとう。

5分後、料理が到着。

これが典型的なイングリッシュ・ブレックファーストってやつか。

  • 目玉焼き
  • ソーセージ
  • ベーコン
  • ハッシュドポテト
  • ビーンズ
  • トースト

朝から肉と豆のフルパンチ。

ロンドン中心部で1,140円(5.99ポンド)は、わりと優しめな価格設定。

では、実食。

パクッ……モグモグ……ゴックン。

……うん。
うまい!!
まごうことなき「うまい」。

見た目も味も裏切らない。

朝から口福に包まれるとは、さすが大英帝国の伝統。

ちなみにイギリス人の父親を持つスペイン人の友人は、

「ロンドンでは、シェパーズパイとインド料理は絶対食べた方がいいわ」

と教えてくれた。

が、今回は無理そうだ。

次回の宿題にしよう(次回があればの話だが)

通称ビッグベンへ

朝食を済まし、ビッグベンへ向かう。

ビッグベンへは約2.4km、徒歩で約35分である。

ロンドン市内の移動はすべて徒歩。

観光客の財布を狙うバスにも電車にも乗らない。

雨の中を、ただ、歩く。
自分で決めたんだから仕方ない。

本来なら「うわ〜憧れのロンドン♡」とキャッキャ言いながら歩くべきなのだろうが、ロンドンはずっと雨、そして筆者のテンションは大型低気圧。

通りには赤い公衆電話ボックス。
赤いオープントップバス。
赤い傘。
赤い顔の酔っ払い。

特に感動ナシ。

なぜだ。
全然ワクワクしない。

ロンドンの街中をビッグベンに向かってひたすら歩き、テムズ川を渡りながら自問する。


テムズ川

「おれにはロンドンは合わないのかもしれない…」

うっすらそう思い始める。

橋の途中で落書きに目が止まる。


キャッシュレス化反対の落書き


ベジタリアンの落書き


イスラエルへの抗議

横断歩道には、それだけで絵になるカッコいい押しボタンが。

感動ってのは、どこにでも転がってるもんじゃないんだなと再認識した頃、40分歩いてようやくビッグベンが見えてきた。

ビッグベンとは通称で、正式名称はエリザベスタワーと呼ぶ。

ちなみに小雨の40分は土砂降りの4分間に相当する。

筆者、びしょ濡れ。

奥にはウェストミンスター寺院も見える。

壮大さには多少心が動いたものの、感動とまではいかない。

街全体から滲み出る「見て見て、すごいでしょ?」感が鼻につき、思わず心の中で中2時代の反抗期が爆発する。

「べつに…おれ、感動とかしてないし?」みたいな。

その後、ウェストミンスター橋を渡りエリザベスタワーの足元へ。

特に感動ナシ。

ふーん。

西洋建築の勉強をし過ぎたせいか、もう目新しい発見がほとんどない。

なんと言うか、街全体が自分の美しさに酔ってるタイプで、目の前でひとり舞台を始めた女優のようである。

それを客席で腕組みしながら見てるこっちは、「はいはい、すごいね〜」と完全に引き気味で見ている気分だ。

また、そんな大都市ロンドンで過ごしている人間たちの偉そうな息遣いも正直腹が立つ。

テムズ川沿いの「コロナ追悼の壁」

テムズ川沿いにある「コロナ追悼の壁」も紹介しておこう。

Google mapsでは"Memorial wall"と検索すれば出てくる。

なんだこの落書きは?と遠くから見て思ったが、近づいてみると…

come on come on don’t leave me like this
(お願いだ、やめてくれ。こんな別れ方は嫌だ……)

壁一面にびっしりと書かれた遺族のメッセージ。

ここは本当に静かだった。

ここだけは、さすがに胸にくる。

筆者の周りにもコロナ時期に生死をさまよった人間がいるので、胸がグッとなった。

バッキンガム宮殿へ

次はバッキンガム宮殿。

エリザベスタワーから約1.3km、徒歩で約20分の距離である。

再び雨の中をトボトボ歩き、途中でセント・ジェームズ・パーク(St. Jame’s Park)に差し掛かると、人だかりが。

なにやら騒がしい。

スマホを構え、わあわあと騒ぐテンション高めの観光客たち。

なにかと思って見てみたら、リス。

リス、か。

筆者は10年以上前にアメリカのコロラド州デンバーでファーストリスを奪われており、野生のリス歴は10年以上である。


アメリカのコロラド州デンバーにて

それに一週間ほど前にもアルメニアの首都エレバンの公園でリスを発見している。

一緒にいたアルメニア人のリリーちゃんは、人生初リスだったらしく、かなり驚いていた。


アルメニア人のリリーちゃん、かわいい♡

ちなみにアルメニアでの話はこちらで紹介している。

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筆者はイギリスのリスちゃんには目もくれず、バッキンガム宮殿を目指した。

小雨が降る中、約20分後にバッキンガム宮殿に到着した。

バッキンガム宮殿はイギリス国王のロンドンでの公邸、および王室の主要な公式行事の場である。

特に感動ナシ。

外観は立派。
門はでかい。
衛兵は無表情。
観光客はパシャパシャ。

しかし、筆者の心は無風。

ここまで風が吹かない旅もなかなかレアである。

なぜだ。

なぜロンドンの全てにおいてこんなにも心が動かされないのだ。

何もかもに、全く感動しない。

リバプール駅へ

小雨の20分は土砂降りの2分に相当する、朝から合わせると徒歩時間1時間、つまり土砂降りの6分間に相当する。

つまり筆者はとっくにびしょ濡れを超えて「水」そのものになっていた。

バッキンガム宮殿の見学もそこそこに、もはや耐えきれずリバプール駅へ向かうことを決意。

【距離】約5.5km

【所要時間】徒歩で約1時間20分。

【天気】ずっと雨

雨がずっと降っている中をひたすら歩く。

ずっと歩く。

言葉をなくして歩く。

もう何も考えず、ただ存在として歩く。

途中の風景?

そんなものは雨とともに脳内メモリから自動消去された。

が、カメラのメモリには残っている。

さて、朝から約10km歩いてようやくリバプール駅に到着した。

小雨の1時間20分は…(以下略)

とにかくびしょ濡れだ。

現在時刻11時45分。

文明の香りがする。

屋根がある。

ありがとう、屋根。

スタンステッド空港へ

さて、出発まであと50分あるわけだ。

とりあえずお昼ご飯を食べるとするか。

リバプール駅の周囲には食事処が大量に並んでいる。

イタリアン、パブ、マクドナルド、寿司――

選び放題。どこにしようか、迷うぜ。

さて、どうするか。

……と思ったのも束の間。

財布の中の現実が、静かにKFCを指差していた。


店内に入り、列に並び、インド系のお姉さんに注文を聞かれる。

気合いを入れて、

「ワン チーズチキンフィレバーガーセット プリーズ!」

通じた。

発音はまあ、魂で補った。

本日最後の贅沢として、9.99ポンド(約1,900円)のセットを頼んだつもりだった。

が――

店員「「Alright, that’s a Cheese Chicken Fillet Burger set, yeah?」」

店員「What drink d’you want with that?」

筆者「ワン ジンジャーエール プリーズ」

店員「Cool. Anything else for you?」

筆者「ノー フィニッシュ」

店員「Right, that’ll be £10.99 then.」

(え? なぜ1£増えている?計算ミスか?気のせいか?それとも罠か?)

筆者「アー プライス イズ ディファレント. ノー 9.99£?」

店員「You added a drink, didn’t you? Ginger ale’s an extra quid.」

(……え?セットにドリンク付いてるんじゃないのか?
イラストにも描いてあるけど?)

筆者「ノーノー ドリンク インクルーディッド ね?」

店員「Nah, drinks aren’t included in that one. It’s a quid more, yeah. Want to cancel or keep it?」

(うるせえ、こっちは時間がねえんだ!!!)

筆者「もうそれでオッケーすわ、早くして」

店員「Alright, sorted.」

ネイティブ特有のスラングが多く、正直あまり理解はできていなかった。

こうして筆者は謎に1£(約190円)多めに支払いをした。

ありがとう、追加190円のジンジャーエール。

この後、空港まで雨の中で人生を見つめ直す私に、少しの炭酸をくれたよね。

時間があればもう少し騒いだと思うが、もう既に12時近い。

10分前集合と考えると、25分後にはバス停に行かなければならない。

今日の筆者はマジで時間が無いのだ!!

そして2階に上がり、ロンドンの街並みや道行く人を見ながら完食。

少しゆっくりしてから再び雨の中へ。

するとーー

もうバスが来てた!!!

ずぶ濡れで乗り込むと、車内はガラガラ。

一応座席は指定されていたが、自由席状態。

発車!

「勝った…」とゆったり構えていると、途中の駅でまさかの乗客が続々と乗車してきた。

まさか来るか?俺の指定席、奪還されるか?

しかし、乗客たちも別に自分の座席なんて気にせずに空いてる席に座っていっている模様。

さすがロンドン、ルールより実利。生き方がフリーダム。

助かった。

そして無事にロンドン・スタンステッド空港へ到着。

スタンステッド空港のWi-Fi使用可能は、2時間である。

もしくはデータ量2GBまでだ。

では、LCCのRYAN AIRでトリノまでちょっくら行ってくる!

おわりに

さて、こうして筆者の十日間の独り旅は終わった。

このあと筆者は、イタリア・トリノで待つ妻と、生後5か月の娘のもとへ帰還する。

きっと、ロンドンの雨とジンジャーエールの物語は娘にとって一生忘れられない子守歌になるだろう。

わずか一日だけの滞在だったが、胸に残った感想はただひとつ。

「ロンドンなんて二度と行くか! ボケ!!」

ちなみにこのフレーズは、さくら剛著「インドなんて二度と行くか!ボケ!!」をもじっている。

なかなかおもしろい本なので是非読んで頂きたい。

ブックオフにも100円で置いてあることがあるので是非探して頂きたい。


漠然と抱いていたロンドンへの憧れは脆くも崩れ去った。

筆者には、どうやらスイスやオーストリアのような、自然に包まれたのどかな国の方が性に合っていたらしい。

……そう気づかせてくれたという意味では、ロンドン、ありがとう。

雨と混雑と観光地価格、それ全部含めて、ひとつの「学び」として記憶に残すことにする。

また、どこかの国で。
いや、別の街で。
いや、なるべく別の天気で――

それでは皆さま、旅の続きをどこかで。

チャオ!!

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