
アメリカのドナルド・トランプ大統領が「ノーベル平和賞を自分に与えるべきだ」と繰り返し示唆・要求してきた発言やSNS投稿は、断続的ではあるが一貫したテーマとして続いている。
本記事では主な流れを時系列で整理してみた。
ノーベル平和賞とは

ノーベル賞は、「人類に最大の貢献をもたらした人々」に贈られる賞で、授賞分野は以下の六つである。
- 物理学
- 化学
- 生理学・医学
- 文学
- 平和
- 経済学
スウェーデン・ストックホルムで授賞式を行う他の五部門とは異なり、ノーベル平和賞だけはノルウェーの首都オスロで授与される。
(わたしも2018年1月にストックホルムのノーベル賞博物館には行ったことがある)
これは、ノーベル賞の創設者アルフレッド・ノーベル氏が遺言で、平和賞のみはノルウェー議会が審査・授与を行うよう定めたためだ。
(なのでトランプ大統領はノルウェー首相にノーベル平和賞を強くおねだりしている)

ノーベル平和賞は、
- 紛争解決
- 和平交渉
- 国際協調
を強く評価する賞で、ノーベル平和賞の受賞者を選定するノーベル委員会は、ノルウェー議会が指名した5人で構成されており、委員には最終決定の過程で独立した判断が保障されている。
ノーベル賞の選考過程は、以下のようなスケジュールで進む。
前年9月:推薦状の発送時期。各分野の専門家や過去の受賞者により、受賞候補者となる科学者たちが推薦される
翌年1月末:推薦状の締切
2月~:推薦された候補者の絞り込みがスタートする。当初は数百人規模の候補者が推薦されるが、数段階の選考を経て最終的に数人に絞られる。
10月:最終候補者の中から多数決により受賞者が決定される
ノーベル平和賞受賞=平和的な人ではない

ノーベル平和賞の受賞者と聞くと、聖人君子のような人間を思い描くかもしれないが、実際は全くそんなことはない。
平和主義者でもなんでもない人間が賞を受賞していることも数多く、もはやノーベル平和賞は政治的であり形骸化している側面もある。
以下に、平和賞受賞に疑問が呈される人物の中からわたしが知っている3人を紹介する。
キッシンジャー(アメリカ)
1973年にベトナム戦争の休戦に尽力したとして平和賞を受賞したヘンリー・キッシンジャー元米国務長官は、同時にカンボジアへの秘密爆撃を主導したり、第三次印パ紛争ではパキスタンを支援し、300万人とも見積もられるバングラデシュ人の大虐殺をもたらしている。(その他多数の残虐行為あり)
このため、ノーベル委員会の委員二人が抗議の意を示して辞任している。
アウンサンスーチー(ミャンマー)

(出典:cportal.jp)
ミャンマーの軍事独裁に非暴力で抵抗したことを受け、1991年に平和賞を受賞したアウンサンスーチー氏も、ムスリム系少数民族ロヒンギャの虐殺に沈黙したことで批判を招いている。
佐藤栄作(日本)

(出典:wikipedia)
日本でも、非核三原則を提唱した佐藤栄作元首相が1974年に日本人で初めてノーベル平和賞を受賞した。
受賞したのだが、実際はベトナム戦争を支持していたり、米国との間では沖縄には核の持ち込みを認めるという密約を結んだりもしていた。
(ただし、これが明らかになったのは彼の死後のこと)
これに伴い、佐藤氏の平和賞受賞には当時かなりの批判があった。
① 2018〜2020年(受賞への“当然視”発言)
トランプ大統領は、2018年4月のFOX Newsインタビューにて、
と発言している。
これは、金正恩との首脳会談(いわゆる米朝首脳会談)を控えた文脈での発言だった。

イメージ
また、
- アブラハム合意
- イスラエルとアラブ諸国の国交正常化
の文脈において、
だが、これだけのことをやっているのに、ノーベル賞はもらえないだろう。
とも複数回発言している。
2019年2月、米国のトランプ大統領が、
と発言した。

だが衆院予算委員会で本件について質問された安倍首相は、否定派しなかったものの、実際に推薦したかどうかについてはコメントを避けた。
2020年には実際に、中東問題の功績でノルウェー議員から「ノーベル平和賞候補」にノミネートされている。
The far-right MP says Trump should be considered because of …
② 2020年代前半(不満・被害者意識の強まり)
2020年、エリトリアとの戦争終結に尽力した功績が評価されエチオピア首相のアビィ・アハメドがノーベル平和賞を受賞。

これに対しトランプ大統領がその後の発言で、
と不満を示した。
また、トランプ大統領はノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領(政敵)を引合いに出すことが多く、
自分のほうがはるかに実績がある。
と、主張するようになった。

受賞者発表を翌日に控えた9月9日、取材陣に対し
とも発言している。
③ 2025年(ノーベル平和賞催促が顕在化)
2025年6月、記者団に対し、
と発言し、ここで初めて”should give me(与えるべき)”という義務表現が明確に登場する。

この発言の背景には、
- 中東の国交正常化(いわゆるアブラハム合意)
- 北朝鮮との対話
- 国際紛争の抑止
という実績があり、「平和を作った=受賞は当然」というロジックが存在する。
2025年9月、ついに国連関連の場で、
と発言し、“everyone says…”で正当化をし始め、「自分の主張ではなく世論の総意ですよ」という表現にすり替えた。

また、トランプ大統領は
とし、ナショナリズムを意識した発言をした。
2025年10月の受賞発表直前には、
- 中東外交の成果を強調
- 「戦争を防いだ」「和平を実現した」と繰り返し発信
し、意図的な世論形成を画策するも、結局受賞者には選ばれなかった。

2025年10月の受賞逃し後には、本人・ホワイトハウス・家族が一斉に反応し、「彼こそ最もふさわしい」「彼こそ受賞すべきだった」と公に主張し始める。
④ 2025年後半(外交とノーベル賞狙いの連動)
2025年後半の特徴は、扱うテーマがかなり絞られている。
- 中東(特にイスラエル周辺)
- 停戦・仲介型の外交
- 「戦争を止めた」と言いやすい案件
ばかりに注力しており、完全に「ノーベル平和賞を受賞しやすいジャンル」に集中している。

また、
- 停戦が一時的
- 水面下交渉の寄与が不明確
- 他国・他組織の関与が大きい
などの問題を抱えながらも、
と声高に主張している。

トランプ大統領は受賞者発表直前の演説で、世界各地の紛争解決に尽力してきたことを自賛し、その上で
と指摘した。
⑤ 2026年(強硬・半ば圧力的な言動へ)
2026年1月、トランプ大統領がノルウェー首相に対し
と発言した。

(そもそも「純粋に平和について考えた」ことが今まで一度でもあるのかが気になるが。)
平和賞の受賞を逃したことに改めて不満を示し、ノルウェー首相に八つ当たりした格好だ。
これに対し、ノルウェー首相は「平和賞の授与を決めるのは独立したノーベル賞委員会であり、ノルウェー政府ではないとトランプ氏にも明確に説明してきた」と強調した。
2026年1月15日、2025年にヴェネズエラの反体制派指導者としてノーベル平和賞を受賞したマチャド氏からメダルが贈られたことをSNSで強調し、

(出典:BBC NEWS JAPAN)
と投稿した。
これに対しノーベル委員会は、実際の栄誉は「取り消し、共有、または他者への譲渡はできない」との公式声明を発表した。

2026年1月18日、ホワイトハウスの公式コメントとして、報道官が
と発言する。
通常、ノーベル賞は政治から距離を置くべき賞であるため、政府が評価を要求するという構図自体が異例である。
2026年以降、「8つ以上の戦争を止めた」「10件の戦争を終わらせた」など、やや曖昧で誇張的な実績を強調し、ノーベル賞受賞の正当性を繰り返し主張している。
おわりに

ここまで見てきたように、トランプ大統領は、自身のレガシーとしてノーベル平和賞の受賞を強く望んでいるように見える。
もし受賞すれば実績が正当に評価されたとして大きく歓喜し、逆に受賞を逃せば不満をあらわにして騒ぎ立てる――その振る舞いには、どこか幼稚で一貫性を欠く印象も否めない。
主権国家への爆撃や、指導者の拘束・排除といった強硬な手段を取っている人物が、果たして「平和」を象徴する賞にふさわしいのか。
この点については、冷静に考える必要があるだろう。
仮にトランプ大統領がノーベル平和賞を受賞するようなことがあれば、その選考の正当性に疑問を抱く人は少なくないはずだ。
だからこそ、同委員会には、その名にふさわしい判断が下されることを期待したい。
せめてもの良心が、そこに残されていることを願うばかりである。
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