世界遺産登録の条件
日本の白川郷
世界遺産リストに記載されるためには、いくつかの前提条件が必要です。
それが以下の5項目です↓
- 遺産を保有する国が世界遺産条約の締約国であること
- 遺産があらかじめ各国の暫定リストに記載されていること
- 遺産を保有する締約国自身からの推薦であること
- 遺産が不動産であること
- 遺産が保有国の法律などで保護されていること
まあ、世界遺産検定を受けるのであれば上の5つは必ず覚えておいてください。
じゃあ簡単に説明していきます↓
➀遺産を保有する国が世界遺産条約の締約国であること
自国の遺産を世界遺産登録するためには、世界遺産条約を批准し、締約国となる必要があります。
ただし、ユネスコの加盟国である必要はなく、かつてユネスコ脱退中のアメリカ合衆国から世界遺産が登録されたこともあります。
世界遺産として認めて欲しければ、ちゃんと世界遺産条約の下でそれなりの努力をしなければならない、ということですね。
②遺産があらかじめ各国の暫定リストに記載されていること
締約国は、世界遺産登録を目指す遺産を記載した「暫定リスト」を作成し、ユネスコの世界遺産センターに提出しなければならない。
なのでいきなり「あーこれ世界遺産登録したいなー」と思っても、暫定リストに載せてから数々の国際的な調査をクリアする必要があるので、簡単に世界遺産登録はできませんよ、ということですね。
③遺産を保有する締約国自身からの推薦であること
顕著な普遍的価値が明らかな遺産であっても、遺産保有国以外が推薦することはできません。
唯一の例外は、国際状況を考慮しヨルダンが申請した「エルサレムの旧市街とその城壁群」のみです。
「あの国の〇〇はすごい価値があるからー」という意見は認めません。あくまで自国からの推薦のみです。
④遺産が不動産であること
世界遺産登録を目指す遺産は、土地や建物などの不動産でなければなりません。
どんなに価値があっても動産であれば世界遺産には登録されません。
なので「絵画」や「音楽」は世界遺産にはなりません。
奈良、東大寺の「大仏」のように巨大なものや、イタリア、ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラーツィエ修道院の「最後の晩餐」のように壁に直接描かれているものなどは例外的に世界遺産と認められる場合もあります。
⑤遺産が保有国の法律などで保護されていること
遺産を保護・保全する義務と責任は遺産保有国にあるため、世界遺産登録を目指す遺産は各国の法律で守られていなければなりません。
当然ですが、保護・保全を怠れば世界遺産リストから削除され世界遺産では無くなります。
以上の前提条件を備えた遺産で、「顕著な普遍的価値」があり、真正性や完全性が明らかで「世界遺産条約履行のための作業指針」で定められた10項目(後述します)の登録基準の一つ以上に当てはまるものが、世界遺産に登録されます。
さて、先ほど勉強した「真正性」の他に新たに「完全性」という言葉も出てきましたね。
意味不明な人は、一応その違いを確認しておきましょう!
» 真正性と完全性?
真正性
真正性とは、主に文化遺産に求められる概念で、建造物や景観などがそれぞれの文化的背景の独自性や伝統を継承していることが求められる概念。
なので修復の際には特に創建時の素材や工法、構造などが可能な限り保たれている必要がある。
例えば大地震でピラミッドが崩れ、修復の際に二度と崩れないように石同士を近代的な樹脂で固めたとします。
これは外見上世界遺産を保護していますが、修復方法は建設当時とは遥かに異なりますので、真正性はありませんね。
完全性
完全性とは、保全計画や法体制、充分な広さ、予算、人員など、世界遺産の顕著な普遍的価値を構成するために必要な要素が全て揃っていることが求められる概念。
例えばピラミッド周辺の土地を法律で保護せずに世界遺産登録してしまうと、観光客はピラミッドに登ったり、極端な話ピラミッドの石のかけらを記念に持って帰ろうとして、ハンマーでピラミッドを壊す人まで出てくるかもしれませんよね。
なので世界遺産を保護するために「一般人はピラミッドに登ることはできない」とか「ピラミッドの石を持ち帰ったら処罰される」といった法体制が必要なんですね。
» 折りたたむ
登録基準
日本の厳島神社
顕著な普遍的価値の評価基準として、10項目の登録基準が「世界遺産条約のための作業指針」で定められています。
登録基準ははじめ、文化遺産と自然遺産で別々でしたが、2005年の第6回世界遺産委員会特別会合にて作業指針が改定され、文化遺産・自然遺産共通の登録基準(ⅰ)~(ⅹ)にまとめられました。
共通の登録基準ですが、
登録基準(ⅰ)~(ⅵ)を認められたものが文化遺産
(ⅶ)~(ⅹ)を認められたものが自然遺産
両方の登録基準にまたがるものが複合遺産
となっています。
以下、太字の部分がテキストの正式な登録基準ですが、覚える必要はありません(一級目指す人は覚えましょう)
» 10項目を詳しく確認する(クリック!)
(ⅰ)人類の創造的資質を示す遺産
人類の創造的資質を示す傑作
要するに人間がつくった傑作のことで、例えば姫路城がそれにあたります↓
姫路城は現存する日本木造城郭建築の最高傑作とされる建造物で、後世にも残していかなければならない立派な世界遺産です。
(ⅱ)文化交流を証明する遺産
建築や技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展において、ある期間または世界の文化圏内での重要な価値観の交流を示すもの
要するに文化交流の証のことで、例えば古都京都の文化財がそれにあたります↓
794年の遷都から1000年以上日本の首都として栄えた京都は、日本の伝統文化を世界に発信する古都です。
(ⅲ)文明や時代の証拠を示す遺産
現存する、あるいは消滅した文化的伝統または文明の存在に関する独特な証拠を伝えるもの
要するに文明の存在の証拠のことで、例えば富士山がそれにあたります↓
富士山は古くから噴火を繰り返す火山として恐れられ、また富士山に住まうとされていた神仏への信仰から多くの人々に敬われてきました。
また葛飾北斎の「富嶽三十六景」や歌川広重の「不二三十六景」などの浮世絵も富士山を題材にして描かれてきました。
(ⅳ)建築技術や科学技術の発展を証明する遺産
人類の歴史上において代表的な段階を示す、建築様式、建築技術、または科学技術の総合体、もしくは景観の顕著な見本
要するに優れた建築技術のことで、例えば古都奈良の文化財がそれにあたります↓
五重塔は711年に完成したとされ、世界最古の木造の塔と言われます。
五重塔は阪神大震災においても無事であり、東京スカイツリーの建築に際して五重塔の建築技術を真似したと言われるほど高度な建築技術を駆使して建てられました。
(ⅴ)独自の伝統的集落や、人類と環境の交流を示す遺産
ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落や土地・海上利用の顕著な見本。
または、取り返しのつかない変化の影響により危機にさらされている、人類と環境との交流を示す顕著な見本
要するに伝統的集落の文化のことで、例えば白川郷・五箇山の合掌造り集落がそれにあたります↓
岐阜県の白川郷と富山県の五箇山は、伝統的な合掌造り家屋が多く残る集落です。
この地域は日本有数の豪雪地帯なので、周辺地域と隔絶されており、そのため家屋の建築様式から産業、家族制度に至るまで独自の生活文化が育まれました。
合掌造り家屋の最大の特徴である茅葺き(かやぶき)の大屋根は、
➀積雪を防ぐため45~60度の傾斜をもち、
➁部材の結合には釘などの金属は一切使用せず、
③縄で縛って固定する工法が用いられるなど、
厳しい自然環境から家屋を守る工夫が随所に施されています。
(ⅵ)人類の歴史上の出来事や伝統、宗教、芸術と関係する遺産
顕著な普遍的価値をもつ出来事もしくは生きた伝統、または思想、信仰、芸術的・文学的所産と、直接または実質的関連のあるもの。
(※この基準は、他の基準とあわせて用いられることが望ましい)
要するに歴史上の重要な出来事に関する遺産のことで、例えば原爆ドームがそれにあたります↓
「広島平和記念碑(原爆ドーム)」は、人類史上初の原子爆弾投下がもたらした未曽有の惨禍を後世に伝える「負の遺産」です。
原子力をもって争う世界戦争は人類の破滅と文明の終末を意味する、という真実を世界の人々に明白に認識させます。
(ⅶ)自然美や景観美、独特な自然現象を示す遺産
ひときわ優れた自然美や美的重要性をもつ、類まれな自然現象や地域
要するに自然の景観美のことで、例えば屋久島がそれにあたります↓
屋久島では幅広い植物分布が見られ、海岸線から山頂まで標高が上がるごとに亜熱帯から亜寒帯まで植生が移り変わります。
また、樹齢1000年を超える屋久島固有のスギ「屋久杉」もあり、この垂直分布が屋久島の大きな特徴の一つです。
(ⅷ)地球の歴史の主要段階を証明する遺産
生命の進化の記録や地形形成における重要な地質学的過程、または地形学的・自然地理学的特徴を含む、地球の歴史の主要段階を示す顕著な見本
唯一、日本で登録されていないのがこの登録基準です(2022年7月現在)
要するに地球の歴史のことで、例えばナミブ砂漠がこれにあたります↓
ナミビアのナミブ砂漠は、川や海流、風によって数千kmの距離を運ばれてきた砂塵によって形成されています。
砂の平原や海岸線の平地、岩山、砂海にできる島、干潟、一時的に現れる川など、多様な景観美が見られます。
(ⅸ)動植物の進化や発展の過程、独自の生態系を示す遺産
陸上や淡水域、沿岸、海洋の生態系、また動植物群集の進化、発展において重要な、現在進行中の生態学的・生物学的過程を代表する顕著な見本
要するにその土地固有の生態系のことで、例えば白神山地がこれにあたります↓
青森県と秋田県をまたぐ白神山地には、約8,000年前に現在の姿になったとされるブナをはじめとする落葉広葉樹林が比較的原生的な状態で残されています。
ブナ以外にも、固有種アオモリマンテマをはじめ約500種類の植物が存在し、とくに希少な108種の植物は「保護すべき動物」として採取や損傷が禁じられています。
特別天然記念物のニホンカモシカやツキノワグマなど14種類の哺乳類、さらに絶滅危惧種のクマゲラやイヌワシなど84種の鳥類が生息しています。
(ⅹ)絶滅危惧種の生息域で、生物多様性を示す遺産
絶滅の恐れのある、学術上・保全上顕著な普遍的価値をもつ野生種の生息域を含む、生物多様性の保全のために最も重要かつ代表的な自然生息域
要するに絶滅危惧種のことで、例えば知床がそれにあたります↓
北海道北東端にある「知床」は細長い半島で、その中央を知床連山が貫いています。
この山々を挟んでオホーツク海に面したウトロ側と、根室海峡に面した羅臼側では、気候や地形が大きく異なります。
また生物多様性について、知床には絶滅危惧種のシマフクロウやオジロワシが生息し、天然記念物のオオワシの越冬地でもあります。
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負の遺産
日本の原爆ドーム
世界遺産には戦争や紛争、人種差別や奴隷貿易など、人類が歴史上で犯してきた過ちを記憶にとどめ繰り返さないよう教訓とするための「負の遺産」と呼ばれる遺産があります。
世界遺産条約で定義されているものではありませんが、世界遺産条約の理念の中では重要です。
核爆弾の無残さを伝える原爆ドームや奴隷貿易の象徴となったゴレ島などが「負の遺産」と考えられており、登録(ⅵ)のみで登録されることがあるのも負の遺産の特徴です。
では次ページでは「世界遺産登録の流れ」についてお話していきます!