世界遺産登録の流れ
では世界遺産登録の流れをまずはフローチャートを用いて説明していきます。
(↓クリックで拡大できます)
では詳しく見ていきましょう!
①各国政府の役割
自国の文化財や自然の世界遺産登録を目指す国は、まず世界遺産条約を批准し、暫定リストを作成してユネスコの世界遺産センターに提出します。
この暫定リストに記載された遺産のなかから、推薦への要件が整ったものを1年に上限2件(文化遺産・自然遺産それぞれ上限1件)まで世界遺産センターに推薦します。
推薦の際には、2月1日までに遺産の顕著な普遍的価値を証明する書類や遺産の保全体制などが記載された推薦書を世界遺産センターに提出しなければなりません。
各国政府がすることは以上です。
②世界遺産センターの役割
さて、各国政府の推薦書を受理すると、世界遺産センターは㋐文化遺産であればICOMOSに、㋑自然遺産であればIUCNに専門調査を依頼します。
ICOMOSとIUCNはその年の夏頃に現地調査を行い、年内を目処に推薦書の内容が検討されて、追加報告書や改善の必要な箇所があれば世界遺産センターを通して遺産保有国に連絡します。
そうして最終的な審査結果と提言を含む評価報告書は、推薦書提出期限翌年に開催される世界遺産委員会の6週間前までに世界遺産センターに提出されます。
複合遺産の場合は、ICOMOSとIUCNがそれぞれ調査を行い、それぞれ評価報告書を提出します。
その評価報告書をもとに世界遺産委員会で審議が行われ、
㋐ 登録
㋑ 情報照会
㋒ 登録延期
㋽ 不登録
の4段階で決議されます。
推薦書の提出から世界遺産リスト記載までの流れは、1年半程度の期間を要します。
2020年の第44回世界遺産委員会の開催国
2020年の第44回世界遺産委員会の開催国は、世界遺産の数がイタリアと並び世界一になった中国の福州市(福建省)で開催されます。
2021年2月の時点ではイタリアと中国がともに55件で一位タイでしたが、2022年5月現在ではイタリア58件、中国56件とイタリアが世界一の世界遺産保有国に返り咲きました。
世界遺産の最新情報は、「キッズ外務省」という子どもでもわかるようにデザインされた、
「うむ、確かにわかりやすい」と思えた外務省のHPに載っています↓
世界遺産登録の概念の変化
(フランスのモン・サン・ミッシェル)
1978年の世界遺産登録開始から1990年代初頭までは、記念物や建造物が造られた当時のまま残されていることが重視されたため、ヨーロッパの教会や中世の城など、風化しにくい石の文化に属する遺産が多く登録されていました。
しかしそれでは世界遺産リストに不均衡が生じ、リストへの信頼性が損なわれるため、不均衡是正のために様々な方策が採られ、世界遺産登録の概念も変化していきました。
1992年に採択された「文化的景観」は、人間が自然と共に作り上げた景観を指す概念で、文化遺産に分類されるものの、文化遺産と自然遺産の境界に位置する遺産と言えます。
これにより、従来の西欧的な考え方よりも柔軟に文化遺産を捉えることが可能になりました。
1993年にニュージーランドの「トンガリロ国立公園」で初めて、文化的景観の概念が適用されました。
文化的景観は下の3つのカテゴリーに分けられます。
» 文化的景観の3つのカテゴリ
意匠された空間:庭園や公園、宗教的空間など、人間によって意図的に設計され創造された景観。
有機的に進化する景観:社会や経済、政治、宗教などの要求によって生まれ、自然環境に対応して形成された景観。農林水産業などの産業とも関連している。すでに発展過程が終了している「残存する景観」と、現在も伝統的な社会のなかで進化する「継続する景観」に分けられます。
関連する景観:自然の要素がその地の民族に大きな影響を与え、宗教的、芸術的、文学的な要素と強く関連する景観。
» 折りたたむ
トンガリロ国立公園
ニュージーランドの「トンガリロ国立公園」は、1894年に初めて国立公園に指定され、3つの活火山が点在しています。
エメラルド色のカルデラ湖や溶岩に覆われた荒野など、火山地帯特有の景観を見せるこの一帯は、ニュージーランドの先住民マオリの聖地として、長年にわたって守られてきました。
キウイをはじめ60種以上の鳥類の楽園としても知られ、当初は自然遺産として登録されましたが、マオリとの文化的なつながりが認められ、1993年に複合遺産となりました。
グローバル・ストラテジー
グローバル・ストラテジーとは正式名称「世界遺産リストにおける不均衡の是正及び代表性、信用性確保のためのグローバル・ストラテジー」の略で、1994年に採択されました。
世界遺産リストの不均衡を是正するための戦略で、選考基準の見直しや世界遺産をもたない国からの登録強化、産業に関係する遺産の登録強化、先史時代や現代の遺産の登録強化などを挙げています。
グローバル・ストラテジーでは、既に世界遺産リストに複数の遺産が記載されている国に対し、推薦の間隔を自発的にあけることや、登録の少ない分野の遺産を推薦すること、世界遺産をもたない国の推薦と連携することなどが求められています。
世界遺産基金
(チリのモアイ像)
世界遺産条約では、世界遺産の価値を守り伝えてゆくために、ユネスコの財政規則に基づく信託基金である世界遺産基金を設立し、世界遺産条約締約国の拠出金(ユネスコ分担金の1%)や政府間機関、団体、個人などからの寄付金をもとに運営しています。
世界遺産基金は、世界遺産委員会が決定する目的にのみ使用することができ、大規模な災害や紛争による被害への緊急援助や、推薦書や暫定リストなどを作成するための準備援助、専門家や技術者の派遣や保全に関する技術提供のための保全・管理援助などがそれにあたります。
世界遺産基金の援助に対する5つの基準
世界遺産基金の財源は潤沢とは言えないので、世界遺産委員会では以下の5つの基準を設けています。
事前調査に対する援助
物件を世界遺産に推薦するための準備や調査のための費用
緊急援助
大規模な災害や不慮の事故、武力紛争などによって損害を受けた遺産を修復するための費用
技術者の研修
世界遺産の保存に携わる管理者や専門家を育成するための費用
技術援助
専門家や技術者の派遣及び必要な機材を購入するための費用
広報活動への支援
国際協力を促進し、世界遺産の理念を広めるための費用
日本と世界遺産
(日本の熊野古道)
日本が世界遺産条約を批准したのは1992年と遅く、125番目の締約国でした。
しかし1951年、日本が第二次世界大戦後最初に加盟した国際機関はユネスコであり、1972年に世界遺産条約がユネスコで採択されたときの議長国は日本でした。
また、日本はアメリカ合衆国に次ぐユネスコ分担金拠出国であり、アメリカ合衆国が拠出金支払いを停止している現在、日本が実質的に最大のユネスコ分担金拠出国として世界遺産条約を陰から支えています。
世界遺産登録を目指す物件の決定
世界遺産登録を目指す物件は一体どの省庁が決めているのか?
文化遺産
文化財保護法などの保護下にあるもの:文化庁が決定
稼働中の産業遺産などを含むもの:内閣官房の有識者会議が決定
自然遺産
環境省と林野庁が協議して推薦候補を決定
それぞれの推薦候補の中から、毎年9月に開催される世界遺産条約関係省庁連絡会議で最終的な推薦候補が決定します。
では次ページでは「人間と生物圏計画」についてお話していきます!