【ヨーロッパ旅行記】シャモニーモンブラン【11/12】

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3度目のヨーロッパ、2度目の独り旅(2016年)の思い出を振り返る。

今回はフランスのシャモニーモンブランでの滞在をサクッと要約し、印象的な出来事をシェアしようと思う。

筆者が初めてヨーロッパを独りで旅したのは2014年の初旬。あの時の驚きや発見は今でも鮮明に覚えている。

今回の旅では、ヨーロッパの面白さや基礎知識に絞ってお届けする。無駄な話は極力省いて、ガイドブックには載っていないこと、実際に見たものや感じたことに焦点を当てる。

前回の記事はこちら。

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スイス ツェルマット マッターホルン 旅行記

モンブラン山の玄関口、シャモニーモンブラン滞在記

マッターホルンの麓、ツェルマットという美の箱庭を後にし、次なる目的地はシャモニー・モンブランである。

「ツェルマットからシャモニーへ」

たしかにそれも正しい。

だが、どうもしっくりこない。

しっくり指数でいえば65くらいだ。

なぜなら、この旅の主役はどう考えても「町」ではなく「山」だからである。

マッターホルンからモンブランへ。

うむ、こっちの方が断然山岳ファンタジー感があるではないか。

もはや我々は鉄道の旅人というより、アルプスの神々に導かれる巡礼者である。

さて、ツェルマットからはまずマルティニ駅へ。

ここで乗り換えてシャモニー方面へと向かうのだが、このルート、鉄道ファンでなくともテンションが上がる。

オシャレな車両

車両に乗り込んだ瞬間、「おや、これは?」と思わず目を見張った。

ヨーロッパの電車は、どうしてこうも洒落ているのか。

内装はカフェのようで、座席はまるで色鉛筆で塗ったようにポップ。

車内のどこかに絵本作家が潜んでいるのではないかと疑いたくなる。

にもかかわらず、乗客がほぼいない。

貸し切り状態である。

これはこれで贅沢だが、ちょっと不安にもなる。

「まさかこの電車、シャモニーに着かないのでは……?」

いや、行く。行ってくれ、どうか。

外の景色はというと、あいにくの曇天。

雲が空を覆い尽くし、太陽の存在などとうに忘れ去られたかのよう。

だが不思議なことに、そんな灰色の車窓にもヨーロッパの旅情というものはしっかりと宿っている。

天気が悪かろうが、車内がオシャレで、かつ人が少なければ、それはもう静寂の美なのである。

そういえば、ヨーロッパの電車というのは、なぜか全体的に遊び心に満ちている。

バスもそうだ。

色がカラフルだったり、意味があるようなないようなイラストが描かれていたり、ちょっとしたジョークみたいな案内表示があったりする。

これぞ「ヨーロッパ交通機関あるある」だ。

日本なら「落ち着きなさい」と注意されそうなデザインも、こちらでは「ほら、楽しいでしょ?」と微笑みかけてくる。

車内に響くのは静寂と、電車の律動。

がたんごとん、がたんごとん。

気づけばいつしか、うとうとしていた。

夢と現のはざまに浮かぶのは、白き峰、モンブランの影。

ヨーロッパでは日曜日が定休日

シャモニーーーーとうちゃーーーーーーく!

テンションが無駄に高いのは、理由がある。

町に降り立った瞬間、視界に飛び込んでくるのは……山である。

山が見えるのだ、町の中から!

これが何を意味するかというと…感動である。

町から山が見える町。

それだけで、人間は幸せになれるらしい。

いや、少なくとも私はなれる。

なぜなら、「山が見えるだけでテンションが上がる病」を患っているからだ。

正式名称はまだないが、重症である。

さて、スイスの絶景田舎町ツェルマットを離れ、ここフランスのシャモニーにやってきた筆者。

文化も言語も、なんとなく空気感までもが変わった。

そうなると、やるべきことは一つ。

スーパーマーケットである。

ヨーロッパ旅人あるあるの第一歩、「とりあえずスーパーに行ってみる」。

地元民の生活感を味わいつつ、物価を調査し、旅の食糧を確保する。

これぞバックパッカーの通過儀礼である。

筆者は思った。

「スイスに比べれば、フランスの物価など可愛いものである。ふっ」

そしてスーパーへ。

……あれ? 閉まっている?

……うそん。

……もしかして……。

そうか、今日は日曜日である。

個人商店の定休日じゃなく、割と大きなスーパーマーケットまで日曜日は閉まる。

この事実が持つ破壊力たるや、アルプスの吹雪に匹敵する。

ヨーロッパでは「日曜=閉店」という不文律が、わりとガチで存在しているのだ。

しかもそれは、町のパン屋さんやカフェだけでなく、ふつうに大きなスーパーマーケットまでもが適用対象。

想像してほしい。

東京でイオンモールが日曜閉店するようなものである。カオスだ。

旅人は学ぶ。
ヨーロッパにおいて、日曜日は補給不能デーである。

必要なものは土曜のうちに買っておくべし。

さもなくば、三食レストランで散財確定という悪夢が待っている。

ということで、スーパーの自動ドアの前で3秒フリーズした後、あきらめて宿へ向かうことにした。

くっ、明日になったら絶対買いだめしてやるからな……!

しかしシャモニーは、そんな些細なトラブルすらも帳消しにしてくれる町である。

なぜなら、歩いているだけで山が見えるからだ。

町の端から端まで絶景保証。

これぞ自然のテーマパーク。

食べるものは宿の非常食で何とかなる。

でも、この風景は今しか見られない。

……と、自分に言い聞かせてみたが、やっぱり腹は減る。

安定のマクドナルド

基本的に、フランスの物価、特にリゾート地のそれは、笑えるくらい高い。

どれくらい高いかというと、「あれ? ここ空港内のお洒落なバーだったっけ?」と一瞬錯覚するレベルである。

そしてここ、シャモニーは言わずと知れた世界的な山岳リゾート。

つまり、値札に「観光地プレミアム」という見えない税が上乗せされている。

カフェでコーヒーを頼んだだけで、財布の奥から小銭が泣き声を上げる始末である。

だが、そんな中でも救世主は存在する。

そう、我らが世界のマクドナルドである。

フランスの山奥でも、マクドナルドは裏切らない。

特に「1ユーロメニュー」の存在は、旅行者にとってオアシスのようなものだ。

かつては1ユーロ(当時のレートで約130円)で、ハンバーガーを握りしめることができた。

世界がどう変わろうと、ユーロ高が進もうと、あの看板の「M」は希望の灯なのである。

もちろん、現在の価格がどうなっているかは分からない。

物価上昇という名の怪物が暴れ回っているこの世界で、果たして今も1ユーロで何か買えるのかは定かではない。

だが、ここで重要なのは価格ではない。

マクドナルドという存在が持つ「庶民の味方」というアイデンティティである。

高級レストランが肩をいからせる中、堂々と「どうも、いつものやつです」と微笑みかけてくるその姿勢。

実に尊い。

というわけで、筆者は今日もフレンチアルプスの片隅で、世界共通のバンズにかぶりついたのであった。

日本料理店【たんぽぽ】

翌朝(月曜日)。

朝食付きの宿に泊まっているという安心感から、目覚ましに追われることなく、適当な時間に起床。

目をこすりながら食堂へ向かい、のんびりと朝食をいただく。

パン、ハム、チーズ、ココア、シリアル、そしてゆで卵。

至ってシンプル、だがこれが良い。

フランスの山の朝にふさわしい、質素で清潔な一皿。

宿は安価でありながら朝食付き。

これはもう、旅人にとって理想形といえる。
非常におすすめである。

一応泊まったホステルはこちら。

さて、腹ごしらえも済ませたところで、問題がひとつ。

「で、この町で何をしたらいいのか、全然わからん」

完全に無計画である。

だが、旅においてわからなさは時に最高のスパイスとなる。

ということで、とりあえず支度を整え、町をぶらぶらと歩いてみることにした。

空気は澄んでいる。さすがは山岳リゾート。

もし晴れたら、これはもう天上の世界である。

肺が喜び、目が輝き、足取りも自然と軽くなる。シャモニーの町は小さいが、どこを見ても絵になる。

山がある。

それだけで、この町は無敵である。

ふと足を止めた先に、看板があった。

そこには、世界の8000m級の山々で亡くなった登山者の数が刻まれている。

数字は無言で語る。

美しさの裏に潜む、厳しさと死。

アルピニズムの影を垣間見た気がして、しばし黙る。

山はただ、そこにあるだけなのに、人はなぜ登るのか。
その問いが胸をよぎった。

この2年後に、筆者の一番の親友が日本の残雪期の南アルプスで行方不明になった。

と、思ったのも束の間。

「お、日本料理店発見!」

その名も『たんぽぽ』。

なんと愛らしい。

アルプスの町に咲く一輪の和。
癒される名前である。

テンションが上がる。

これはもう、昼にでも突撃だ。

味噌汁とか出てきたら泣くぞ。

……と思って近づく。

ん?

や、す、み……?

定休日:月曜・火曜

……今日と明日やんけ。

なんという絶妙なタイミング。
二日連続で「たんぽぽ」おあずけという悲劇に、ひとり歩道でしゃがみ込みそうになる。

だが仕方ない。
定休日は定休日だ。

むしろ律儀で好感が持てる。

問題は、自分の運である。

そこで一応メニュを確認する。

豚ラーメン 10€(1,300円くらい)

生姜ラーメン 11€(1,430円くらい)

わかめラーメン 11€(")

海苔ラーメン 11€(")

ネギラーメン 11€(")

値段はそこそこ良心的。

もちろん、日本で食べるよりは高めだが、ここはアルプスの観光地シャモニーである。

富士山の8合目でカレーライスが1500円するようなものだと思えば、むしろ安い部類だ。

決してぼったくりではない。

これだけは強調しておきたい。

というわけで、本日の昼食は「たんぽぽ」ではなく、近くのパン屋になりそうである。

が、そのパンもうまいのがフランスのすごいところだ。

「エギュイーユ・ドゥ・ミディ」まで行けるゴンドラが高い!!

さて、シャモニーに来たからには、やはりここには行かねばなるまい。

「エギュイーユ・ドゥ・ミディ」

……と書いてみたが、この名称、なかなかにクセが強い。

L’Aiguille du Midi

読めと言われて即答できる人間がいたら、フランス語検定の受験をおすすめする。

ちなみにこの「L」は定冠詞であるため、呼び方としては「エギュイーユ・ドゥ・ミディ」が通例のようだ(たぶん)。

「エギュイーユ」は“針”を意味し、「ミディ」は“正午”。

つまり、合わせて「正午の針」

なんとも詩的なネーミングである。
時計の針に例えられるほどに、真っ直ぐに空を突き刺すような山の姿が想像される。

そんなロマンチックな由来を持つこの山、実は観光客でも手軽にアクセスできてしまうのがすごい。

というのも、シャモニーの町からロープウェイに乗れば、あっという間に標高3,842mの展望台に到達するのだ。

3,842メートル

それは富士山よりも高く、想像以上に本気の標高である。

ということで、意気揚々とロープウェイ乗り場へ向かう。

……あった。

では、気になる往復料金は……

58.50ユーロ。

約8,000円。

た、たかっっっ!!!!!!!

山ひとつ登るだけで8,000円……

財布が標高の低酸素に悲鳴を上げている。

これぞリゾート地価格。

山の名前が「正午の針」なら、こちらは「急所を突かれたような値段」である。

というわけで、一旦引き上げる。

いや、冷静に考えるとこれは筆者の下調べ不足。

こういう時こそネットがある。

シャモニーの公式ホームページには、現地展望台の気温、風速、天気などがリアルタイムで掲載されているので、先に確認しておくのが得策だ。

この情報をもとに、登る日を選定し、天気が良い日に合わせて一気に攻めるべし。

なにせ8,000円である。

雲の中では、もはやシャモニーの白い壁しか見えない可能性もある。

だからこそ、万全の準備をして、晴天のチャンスを狙い撃つのだ。

作戦は練り直し。

絶景は、まだ先に取っておく。

シャモニー周るならシャモニーパス

以下、当時のメモ。

(前略)

【AIGUILLE DU MIDI – 3842 m】
パス買って明日からロープウェイで山登りまくるぜぃ!
エギィユ・ドゥ・ミディは標高3842mでモンブランその他4000m峰を間近で見れる展望台。さすがに登山は無理

気温が午前10時30分現在-20℃
とうとう人生最高到達点へ…
しかもめっちゃええ部屋♪♪

Apr 25, 2016, 5:33 PM

シャモニーに滞在するなら、何やら「シャモニーパス」なるお得なチケットがあるらしい。

ということで、とりあえず町のインフォメーションセンターを探すことにした。

地図は見ない。感覚に任せる。

そんな気ままな散歩の途中、視界に飛び込んできたのはあのロゴ——

SuperdryStore(極度乾燥しなさい)

チェコ、プラハ チェコ、プラハ チェコ、プラハ

出た、イギリス発の逆輸入系アパレルブランド。

日本語なのに日本語っぽくない。

もはや海外で日本語を見ると、このブランドか中国人がやってるニセ日本料理屋かの二択である。

しかしながら、この小さな山岳リゾートには、想像以上に多くのショップが並んでいる。

特に面白いのがアウトドア用品店。

日本では見たこともない登山ギア、謎の形状をしたヘッドランプ、色とりどりのカラビナたちが整然と並び、ギア好きにはたまらない空間が広がっている。

正直、一日中いても飽きない。
下手すればテント買ってしまいそうになる勢いである。

だが我に返る。

テントを買っても帰国後に庭がないのだ。

理性、ありがとう。

で、目的の「シャモニーパス」だが、正式には Mont Blanc Multi Pass(モンブラン・マルチパス) というらしい。

なんとも強そうな名前である。

「パス」というより「パワーアップアイテム」みたいな響きだ。

価格は約100ユーロで3日間有効。

※当時のレートで約13,000円、2025年4月現在のレートなら約16,000円

Vallorcine la naturelle : Vallorcine, un véritable havre de …

高いように見えるが、これがあればほぼすべてのアクティビティが無料になる。

あのロープウェイで標高3842mの「エギュイーユ・ドゥ・ミディ」へ行くのも、氷の洞窟も、さらには町のバスや電車などの公共交通機関も全てタダになる。

まさに観光版フリーダム。

つまり、こうだ。

「これ一枚で、君はシャモニーを支配できる」

……とまでは言わないが、財布と相談しながらアクティビティに怯える必要はなくなる。

観光に全力投球できる、心強い味方である。

というわけで、パスを握りしめた筆者は、明日からのシャモニー攻めに向けて、静かに士気を高めるのであった。

ヨーロッパの中華料理はやはり美味い!!

日本から1週間以上離れて生活していると、じわじわと発症するものがある。

それが「日本食シック」である。

これは筆者が長年のバックパッカー経験において導き出した、日本人に共通するであろう食文化的ホームシック現象であり、個人的にはもはや学説の域に達していると確信している。

さて、そんな状態でシャモニーの町を歩いていたところ、例の「シャモニーパス」を求めてインフォメーションセンターを探していたはずが……

気がつけば中華料理屋の前で立ち止まっていた。

この衝動、止められない。

「これはもう、入るしかない」と謎の使命感に背中を押されて突入。

……が、店内は無人。

静まり返った空間に、店員の気配と筆者の空腹だけが響く。

やや不安を感じつつも、炒飯と鶏肉・きくらげ・玉ねぎの炒め物を注文。

すると、出てきた料理は——

うん、普通に美味い。
そして、会計は余裕で2,000円超え。

この瞬間、財布の中のユーロたちが一斉に震えた。

さすがはリゾート地価格。
たとえアジア料理であっても、山を背負えば値段は登山する。

「もう一品は無理だな……」と思った、その時。

気がつけば、焼きそばまで注文していた。

無意識のうちに。

完全に日本食シックの症状が深刻化している証拠である。

もはや味ではない。
これは癒しであり、儀式なのだ。

ということで、昼から中華三昧。
シャモニーの山々に囲まれながら、胃袋だけは完全にアジアに帰還した筆者であった。

当時のメモがこちら。

(前略)

流石に今日は中華を。。
・広東炒飯
・野菜焼きそば
・鶏肉とキノコとたけのこの炒め物

しめて3,000円。

この前のSunnega展望台までの2往復登山でケーブルカー代4,200円ほど浮いた計算やし良しとする。

ヨーロッパの中華料理屋はほんまに美味い!!!

この3年間で10軒近く行ってるけど、日本と格が違ううまさ!!!
醤油の味に泣きそうなった。

国際結婚できても、俺は日本から離れられへん。

Apr 26, 2016, 2:10 AM

やはり、いつでも思うことは一緒である。

ヨーロッパの中華料理屋は、美味い。

これはもう旅人あるある、いや日本人あるあるであり、筆者も例外ではない。

完全に、日本食シックである。

これはもう明らかに病名ついてていいレベル。
「醤油の味に泣きそうになった」と記録に残しておく。
異論は認めない。

ここでひとつ冷静に分析しておこう。

「ヨーロッパの中華料理屋が美味しい」のではない。

久しぶりに食べる慣れ親しんだ料理が美味しいのである。

……知らんけど。

雪山は危険です

さて、午後。

空模様がどうも怪しい。

雲が低く垂れ込めてきているので、アクティビティはまた明日。

ということで、運動でもして帰るとしよう。

シャモニーのとある公園で、ちょうど良い鉄棒を発見。

これが実にありがたい。

もう覚えている人は少ないと思うが、実は筆者、「毎日50回懸垂する」という謎の目標を掲げていたのだ。

やらない日もあった。
普通にサボった日も多々あった。
それでもマッスルアップ(懸垂からそのまま体を上に押し上げる技)だけは、地道に練習し続けていたのだ。

「旅先で筋トレ」とか、完全に変なやつである。

……だが、旅も残すところあと5日。

もうじき「ヨーロッパばいばい」なのだ。

そんな中、夜スマホに届いたLINEニュースに、衝撃を受けた。

「スノーボード世界女王、雪崩で死亡 スイスのアルプス」

……え?

まじか。

21歳の若さで…

エステル・バレ

正直、名前は初めて聞いた。
けれどニュースに載っていた彼女の写真は、美しく、力強く、まさに世界女王の風格をたたえていた。

あまりにも突然で、あまりにも悲しい。

改めて、雪山の厳しさを思い知らされた。

「雪山は、軽い気持ちで入ってはいけない」

南アルプス縦走登山中に消息を絶った筆者の親友のこともある。

スリルや絶景の裏側には、いつだって自然の猛威が潜んでいる。

それを忘れたとき、人は一瞬で飲み込まれてしまうのだ。

黙祷。

静かに、空を見上げた。
怪しい雲が、何も語らず、そこに浮かんでいた。

モンブラン山を見に3842mの展望台へ

翌朝7時、Facebookに投稿してからの出発。

午前7時、只今から標高3842mに行ってきます。

日本にいたら絶対に到達できない高さ…よっしゃーーー

とりあえず史上最高の装備(左からヒートテック→極暖ヒートテック→シャツ→Marmot 1000Fill→The North Faceのジャケット)

Apr 27, 2016, 1:59 PM

史上最高の装備を携えて、いざ標高3842mへ。

目的地は「エギュイーユ・ドゥ・ミディ」、シャモニーが誇る天空の展望台である。

気温、マイナス21℃

風速、時速80キロの暴風

よくわからんが、4000mはトンデモナイ環境らしい。

モンブランの気温や天候は"chamonix.com"でいつでも確認できる。

旅の基本である。

今でもその朝の光景ははっきり覚えている。

駅前の通りをまっすぐ。
途中で左折。
すぐに右折。

しばらく歩くと、見えてくる。

そう、あの場所が――。

晴天。人の気配も多い。

「これはいける」と誰もが信じていた、そのとき。

(。´・ω・)ん?

……続々と帰ってくる人々。

「え、ちょ待って…」

電光掲示板に、無慈悲な文字が現れる。

電光掲示板「展望台は爆風過ぎて運行休止中です」

うそやん。
心の中でツッコミを入れつつ、100%無理だと思いながらもダメ元でスタッフに交渉。

「ぼくを、ぼくを山頂に連れて行ってください!!!!」

10秒後――

あっさり玉砕。

帰ろ……と思ったその時、近くにいた黒人の家族に話しかけられる。

ぼくたちは南アフリカ共和国から来たんだ。

雪なんて人生で一度も見たことが無いよ。

今日、とっても楽しみにしていたのになぁ(-_-メ)

ああ、胸に刺さる。

しかし、自然はいつも気まぐれである。

我々にできるのは、じっと待つことだけだ。

スタッフ曰く「運行再開したらすぐに我々のホームページに載せるので、逐一確認してください」と。

チッ!!

──そして、4時間後。

来たぞ。

プラン・ドゥ・エギュイーユ(標高2317m)まで運行再開!!

ここでロープウェイを乗り換え、いよいよ最終ステージへ。

目指すは、3842mの世界。

当然ながら、最後は自分の足で登るしかない。

見上げれば、一面の白銀。

歩けば、ギシギシと音を立てる雪。

あの黒人の家族もきっと今頃、同じ感動に包まれていることだろう。

一面白銀の世界である。

めっちゃ気持ちいい。

そして、めっちゃ寒い。

どれだけ着込んでも寒い。

この寒さは、もう笑うしかない。

人生最高到達点、達成。

写真?いっぱい撮った。

けどあまりの寒さに言葉が出ない。

ひたすら「寒い!」ってつぶやいていた。

あんま凄さが伝わらんが、昼はラーメンにするか

とにかく凍える

Apr 27, 2016, 7:12 PM

滞在時間、およそ1時間半。

もう限界!とばかりに下界へと撤退。

でもいいんだ。シャモニーパスがあるから。

明日も来れる。もし天気が良ければ、またあの世界に行ける。

今日のところは、とりあえず、

「寒いけど、最高でした」

ってことで、幕。

Mont Blanc(モンブラン)

ちなみに。

「ここまで来たからにはモンブランを一目見たい」、と誰もが思うだろう。

しかし正直に言うと……

モンブラン 山 ケーキ

「あれこそモンブランだ!」と誰もが指させるような山ではない。

例えば、マッターホルン。

スイス ツェルマット

あのシンボリックな三角形の頂を見れば、誰だって「あれや!!」ってなる。

ところがモンブランさん、見栄えという点ではちょっと地味。

遠近感もバグってくるし、周りに山がありすぎて

「あー……たぶん、あれがモンブランなんやろな……」

みたいな、なんともふんわりした感想になること請け合いである。

あまり過度な期待はしないようにしましょう。

しかしまあ、西ヨーロッパ最高峰であることには違いないし、3842mの展望台から見る景色そのものがすでに絶景なのだ。

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モンブラン ケーキ 山

凍えた体でラーメン屋へ

目的地は、シャモニー滞在初日に発見したラーメン屋「タンポポ」。

このネーミングだけで、日本人の心をがっつり掴みに来ている。

店に入ると、まず「ボンジュール♪」と陽気にフランス語で挨拶。

この時点で筆者、謎の演技モードに突入している。

店主は明らかに日本人。
だが、こちらを一瞥した後、

「あれ、日本人……か……?いや、ちが……ん?」

といった戸惑いの表情を見せ、華麗にスルー。

筆者はそのまま空いている席に静かに着席。なお芝居は継続中。

ここでさらに調子に乗り、用意されている日本語・英語・フランス語の3種のメニューから、わざとフランス語版を選択。

「あー、これは…日系フランス人か?」

と店主に思わせる、意味不明な陽動作戦である。

もちろん、ラーメンの説明なんぞフランス語では理解不能であるが、そこはフィーリングでどうにかなる(と思いたい)。

しばらくすると、店主が慎重な面持ちで近づいてきて、こう尋ねた。

「日本語……大丈夫ですか?日本人の方……ですか?」

ここでようやくカミングアウト。

「そうです、日本人です」

と、普通に会話スタート。

「おー、卒業旅行なんですね!おめでとうございます!」と祝福され、なんとビールをご馳走してくれることに。

ありがたや。

そのビールの名は「COEDOビール」。

コエドビール、説明聞いているとどうやら日本の長野県産らしい(埼玉県でした笑)

長野でも埼玉でもどっちでもいい、うまけりゃそれでいい。

ありがとうCOEDO、ありがとうタンポポ。

気取って入って、気取らず出る。

旅先のラーメン屋は、どこか人生そのものである(かもしれない)。

星空撮影は事前に練習しておきましょう

そしてこの日も、シャモニー名物「公園筋トレ」をきっちりこなし、宿に戻った。

が、夜になってふと外に出てみると……そこには、とんでもない星空が広がっていた。

これは…ちょっと待て、凄いぞ!!

筆者、目を疑った。
いや、星を疑った。

「こんな星空、日本で見たことあったか……?」

否。ない。完全に感動案件である。

興奮のあまり、カメラを持って部屋を飛び出す。

なおこの時点で、部屋の鍵を閉め忘れている可能性が高い。

だが星には勝てぬ。

しかし、ここで痛感することになる。

星空撮影というやつは、事前に練習しておかねばならぬと。

ということで、記念すべき1枚目がこれである。

1、2、3、ポチッ

ド素人か!!??

(´◉◞౪◟◉) ←こんな顔でしか見られぬクオリティ。

「スマホでは仕方ないよ」と思った方、いや違うんだ。

筆者はしっかりとミラーレス一眼カメラで撮ったのだ。

手ブレ、ピント迷子、光量ゼロ。
これが星空だったという証拠すら、もはや怪しい。

Googleにアップしたら「靴下」と自動タグ付けされても文句は言えないレベル。

ちなみにこの撮影、場所は森の中。

当然、外灯など一切なく、真っ暗闇である。

まさに自ら選んだ修羅の道。

そして筆者、子供の頃のトラウマをここで思い出す。

あのゲーム、「ゼルダの伝説 時のオカリナ」……迷いの森で出てきた、あの不気味なスタルキッド。

シャモニーモンブラン

そう、あの存在だけは今でも忘れられぬ。

夜の森+星空=ロマン……とは限らない。

怖さ8割、星空2割、撮れ高0。

そんな夜だった。

氷の洞窟へ~Mer De Glace~

明日、いよいよシャモニーを離れる。

つまり、今日が最後のシャモニーパス全力活用DAYというわけである。

目指すは「Mer De Glace(メール・ド・グラス)」——

氷の洞窟と氷河、どちらも一度に拝める夢のダブルスポットである。

さっそく登山鉄道に乗り込む。たしか30分ほどの小旅行だったと記憶している。

ここで声を大にして言っておきたい。

すべてシャモニーパスでタダである!!!!!!

これは本当に偉大。

パス考えた人にノーベル観光賞をあげたい。

そして、目的地に到着したら、今度は崖に沿って造られた階段を延々と下る。

登山ではなく下山からスタートという、逆転の発想。
息を切らしながら降りていくと——

そこに広がるは、氷の世界。

うおおおぉぉぉぉぉっっ!!!

めっっちゃくちゃキレイである。

光を反射する青白い氷壁、その静寂、まるで別世界!!(語彙力、ここで終了)

さらに、駅の方へ戻れば、もうひとつの見どころが——

全長7km、深さ200mの大氷河である。

圧巻。

まさに自然の偉大さをひしひしと感じる瞬間。

本当はもっと長居したかった。

しかし今日は「シャモニー全制覇の日」である。

余韻に浸るのはまた今度。(とは言いつつ、しっかり1時間はいた)

下界に戻り、次なるスポットを目指す。

ヨーロッパのアイスクリームは何であんなに美味いのだ

これはもはや、永遠のテーマである。

ヨーロッパのアイスクリームは美味い。

なぜ美味いのかは、明確な根拠があるわけではない。

たぶん水が良いのだろう。
空気も澄んでいる。
乳牛の気合も違うのかもしれない。

知らんけど。

ひと口食べれば「あっ…これは…帰国しても一生忘れられんやつや」と確信する。

…そう、アイスクリームにしてアイスクリームにあらず。

これは、ヨーロッパの魔法である。

シャモニー市内に建てられた銅像の謎

1786年8月8日、水晶取りのジャック・バルマ(英語版)ミッシェル=ガブリエル・パッカール(英語版)が、初めてモンブランの登頂に成功した。

この登山は近代登山の創始者といわれるオラス=ベネディクト・ド・ソシュールの主導のもとに行なわれ、これが成功した要因の一つであるとされる。

(wikipediaより)

シャモニーモンブランの市内には、ひときわ目を引く銅像が建っている。

登場人物は3人。

登山家のバルマ、パッカール、そしてスポンサーのソシュール。

さて、ここで問題である。

この銅像に実際に登場している2人は、誰と誰でしょう?

……そう、普通に考えれば、

「モンブランを初登頂したバルマとパッカールだろう」と。

誰もがそう思うはずである。

だが、正解はバルマとソシュール。

まさかのスポンサー枠、堂々の銅像出演。

「いや、ちょっと待て」とツッコミを入れたくなるが、これは事実である。

もちろん、背景にはいろいろある。
偉業の裏には、必ず人間関係のゴタゴタが付きまとう。
功績の分配、名声の取り合い、嫉妬、政治的判断……

このあたりを掘ると面白いのだが、詳しくはご自身でお調べください(※歴史の深淵にご注意を)。

シャモニのスキー、モンブランの初登攀などについて。バルマ、パカーの歴史的初登攀とその後のごたごた話、氷河の性質などモンブ…

シャモニーの美しい景色に抱かれながら、人間の美しくない一面も、そっと見せてくれる銅像であった。

再びエギュイーユ・ドゥ・ミディへ

再びエギュイーユ・ドゥ・ミディへ向かうことにした。

いや、だってタダだし(笑)

展望台に到着。

ここからモンブラン山頂へのアタックを試みる冒険者たちが見えます。
いいなー

あ、下りはスキーですか。
もっといいなー

エステル・バレのようにならないことをそっと心の中で祈る筆者。

それにしてもエギュイーユ・ドゥ・ミディの冷たさに耐えるのは、ちょっと辛いなあ。

なんせ晴れていてもマイナス21℃近い極寒環境である。

ペンギンでも寒くておしくらまんじゅうしてしまうほどの寒さだ。

というわけで、プラン・ドゥ・エギュイーユ(2317mの中間地点)まで降りて、ちょっと休憩を取ることにした。

岩の上で寝転んでいたのだが、日差しが強すぎて、(黒い服を着ていたせいで)思わず汗が吹き出した。

寒いのに暑い…

でも、なんて気持ちがいいんだろう。

山は本当に最高です!

山はほんっと最高です!

大自然の中で、ただ寝転んでいるだけでリフレッシュできるって、もう贅沢な体験そのもの。

その後はシャモニーからバスで別のスキーリゾートの町へ向かったのだが……

残念ながら写真は残っていないので、ここで割愛する。

サラミは生で食べる・・・もの?

シャモニー最終日の晩、とうとう食べるものもユーロも尽きた。

いや、最初から分かっていた。

「いつかこうなるんだろうな」とは思っていたが。

まるで海賊船が沈んでいくラストシーンみたいに、筆者の財布も重力に逆らえず、とうとう深海に向かって沈み始めた。

で、どうしたかというと…後輩のお土産用に買ったサラミを食べることに決めた(笑)

いや、ちょっと待てよ。

サラミってこんなに生ぽかったか!!???

まるで未完成の芸術作品みたいな色合いと、ちょっと怖いテクスチャ。

これ、食べるの、ちょっと勇気が要る。

まさに「不安と戦いながら食べる、サバイバルゲーム」状態。

「さあ、いけるか?」

と自問自答していると、悪魔のささやきが耳元まで聞こえた気がした。

「お前、これ食べて、ほんとに大丈夫か?」
「絶対に腹壊すぞ、捨てちゃえば?」
「今からでもユーロ引き出してたんぽぽ行って来いよ」

帰国も近いし、今さら一食のためにユーロを引き出して手数料払うのも馬鹿らしい。

クレジットカードも持ってないし、明日向かうスイスはCHF(スイス・フラン)だし、本当にこのままサラミだけで命をつなぐ覚悟を決める時が来たわけだ。

やるしかない…まさに「最後の晩餐」的な運命。

心の中で、『最悪、お腹が壊れてもいい!』と念じながら、一気に噛みついた。

正直美味しくはなかった、が 何事も起こらなかった。

体調も問題なし。

まるでサバイバル映画のエンディングで、主人公が無事に生還した瞬間みたいな、ちょっとした英雄感を味わった。

まさに、Dead or Aliveの精神で乗り切った一夜。

これも旅人なら誰もが経験することである。

まさかこんな形で、自分の食べ物に命をかける日が来るなんて。

ジュネーブに帰ります

さて、最終日の朝がやってきた。

シャモニーパスのおかげで、隣町への電車やバスなど、全てタダ。

まさに、「買わないという選択肢は無いやろ」という気分。

さようなら、安宿よ。

最初は「こんな安宿でいいのか?」と心配していたが、4日もいるともうすっかり慣れてしまった。

なのでちょっと寂しい気もする。

写真を見れば分かる通り、晴れると日差しが猛烈に強い。

まるで日焼けマシンの中にいるかのようだ。
いや、むしろ日焼けマシンのほうが優しいくらいかも。

日焼け止めクリームを忘れずに!

宿の目の前からもう、あまりに美しい景色が広がっている。

あれ?ここどこだ?と一瞬自分を疑うほど。

シャモニーの鉄道駅の目の前に広がる景色も、まさに絵葉書の中の世界。

こんな景色、ただの背景じゃない、背景が主役みたいなもんだ。

ほんまに、なんて綺麗なんだ!!

これぞ、シャモニーの真髄。

「この風景はもう見れないのか」と、ちょっと泣いてしまう自分がいた。

ヨーロッパは人情に厚い

駅名はもう覚えていないが、ジュネーブ行きのバスは少し離れた町から出発する。

バス停に到着。

そして、バスがやって来た。

まさに「ここで合ってる?」という筆者の不安を払拭するかのようなタイミングだ。

ドアが開いて運転手が無言で手招き。

これ、フランス式の「お前、乗るのか?」という問いかけだ。

ネットで事前に調べたバス代、確かに少し曖昧な情報があった。

「安い方を信じる」というポジティブな思考でバスに乗り込む。

結果がこちら。

さよならシャモニー
ヨーロッパトップクラスのスキーリゾートでした。

そして、ChamonixからGenèveのバス代が思ったより高く3€足りなかった

が、運転手の優しさで乗せてくれたー
ユーロの残金こんだけ…

Apr 29, 2016, 11:44 PM

バスからの車窓が既に超一級の絶景。

外を眺めると、まるで絵画のような風景が広がる。

「これがヨーロッパか~」という感じで、思わず心の中で叫ぶ。

とはいえ、ユーロの残金がもうヤバい。
パンさえも買えない、あぁ、悲しき末路。

財布の中身がまるで砂のように指の隙間からこぼれ落ちていく。

シャモニーモンブラン

しかも、ユーロの見分けもつかない。

色も形ももう頭の中でぐちゃぐちゃになってるが、まあいっか。

むしろこのギリギリ感が、旅の最後のスリルである。

そして、ついにジュネーブへ向かうバスが走り出す。

なんか、無敵感が出てきて、今なら何でもできる気がしてくる。

さあ、旅の出発点であるスイスのジュネーブに帰るぞ!

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