各建築様式の少し詳しい部分まで掘り下げようという狙いで、今回はヨーロッパ各国のロマネスク建築の特徴について説明します。
5回にわたってヨーロッパ30ヵ国以上を完全無学で周ってきた筆者が言うので間違いありません(笑)
ヨーロッパ各国と言っても主に以下の3ヵ国です↓
- ドイツ
- フランス
- イタリア
では始めます。
各国のロマネスク建築の特徴
各国である程度ロマネスク建築の特徴というのはあるんですが、実際はイタリアの石工職人がフランスやドイツのロマネスク建築の設計に携わったり、フランスが発明した技術をドイツが自国に取り入れたり、まあかなり複雑です。
なのでビシッ!と一概に
とは言えないんです。
しかし同時に各国で
- 当時の権力者の嗜好
- その地方の伝統技術
も用いられるので、ある程度のらしさは出てきます。
それを前提として読み進めてくださいね。
ではいきましょう。
ドイツ・ロマネスク建築
ドイツ・ロマネスク建築の特徴を一言で表すと、、、
カロリング朝の伝統を受け継いでいる
となります。
これはロマネスク建築完成より200~300年前の時代の、カロリング朝という西ヨーロッパを支配していた帝国内で発展した建築様式です。
また、プレ・ロマネスク建築(初期ロマネスク建築)での区分では「ゲルマン的オットー朝建築(※)」に入り、
北方の日差しの弱い地域の伝統を基礎にしているので、なるべく日差しの入る明るい教会堂を目指した建築
なのです。
ドイツ・ロマネスクの主な特徴として
- 二重内陣式
- 多塔構想
- 強弱交替
などが挙げられます。
ドイツ・ロマネスク建築の代表例として
- シュパイヤー大聖堂
- マインツ大聖堂
- ヴォルムス大聖堂
があります。
フランス・ロマネスク建築
イタリア・ロマネスク建築の特徴は主に3つあるので一言では言えません。
それがこちらです↓
(全部読まなくてもいいですよ)
- 身廊天井にトンネル・ヴォールトまたは交差ヴォールトを架け、側廊上にトリビューンのあるもの
- 上のタイプと同じ条件だが、トリビューンがないもので、身廊に外の光を直接採り入れるため身廊側壁に高窓を開けた教会堂
- 連続してドームを架けたもので、ビザンティンやイスラム建築の影響を多く受けたもの
フランスはドイツと違い、カロリング朝の建築様式を受け継がずに独自で、また他国の職人たちの技術を少しずつ取り入れていきました。
プレ・ロマネスク建築(初期ロマネスク建築)での区分では「ラテン的初期ロマネスク建築(※)」に入り、
南方の日差しの強い地域を基礎にしているので、暗い静かな光を楽しめる教会堂を目指した建築
フランス・ロマネスクの主な特徴はあまり無く、上で挙げたような3つの種類に分かれます。
代表例として、
- タイプ➀:サント・フォア教会堂
- タイプ➁:サン・トロフィーム教会堂
- タイプ③:サン・フロン大聖堂
が挙げられています。
(後で紹介します)
イタリア・ロマネスク建築
イタリア・ロマネスク建築の特徴を一言で表すと、
初期キリスト教の簡素なバシリカ式の建築様式を頑なに守っている
となります。
初期キリスト教建築の説明は長くなるので、超簡単にストーリー仕立てで説明してみました↓
イエスの死後ずっと忌み嫌われていたキリスト教だったが、ローマ帝国で国教化されるとともに急激な勢いでヨーロッパ中に広まっていった。
それまで隠れキリシタン的に密かに信仰していた信者も、もはやその必要はなくなりキリスト教のための立派な建築物(=教会堂)を建てようと考え始める。
しかし技術の無い信者がいきなり立派な建築物(教会堂)を設計して建てることは不可能なので、周りにいっぱいあるお手本(ローマ建築)の建物を代用しようと考えた。
結局はローマ建築の技術が高過ぎたので部分的にパクって、大部分は自分たちで考えざるを得なくなった。
そうして試行錯誤しながら生まれた教会建築が初期キリスト教建築である。
この「代用したローマ建築の建物」というのがバシリカという直方体の平面形式でした。
バシリカは、ローマ帝国時代には裁判所とか商業取引所とかに使われていたらしいですが詳しくはわかっていません。
とにかく、イタリアのロマネスク建築は、そのおよそ700~800年前に完成した簡素な建築様式を頑なに守っているのです。
なので、ドイツやフランスのような
「多塔構想だー」「鐘塔をつけろー」「アプスは東西に2つでいこう!」「トリビューンを付けて2階にも通路を作ろー」
などの立体構成(新しい技術)にはあまり興味が無く、
「おれたちはあくまで伝統的にいこう(・ω・)ノ」
という感じでした。
イタリア・ロマネスクの主な特徴として↓
- 木造天井(格天井)
- 構成がシンプル
- 簡素なバシリカ式
などが挙げられます。
代表例として、
- ピサ大聖堂
- サン・ミニアト・アル・モンテ教会
があります。
(後で紹介します)
各国のロマネスク建築の比較
ここまでの内容はご理解頂けたでしょうか?
ここまで書いて、筆者はふと考えました。
と。
各国の特徴を列記するだけでは正直筆者は「はぁ?( ゚д゚)ポカーン」状態です。
↑自分で書いててなんですが
わかりやすさ命のアホみたいな筆者のブログで、しかもわかりにくかったらゲーム終了です。
ロマネスク建築の特徴は大きく3つの部分をチェックしてもらえればよりわかりやすいと思いました。
ずばり、
- 外観
- 教会内部
- 平面形式
の3つです。例えば、
「外観はドイツっぽい」「内部は・・・わからない」「平面形式はドイツっぽい」ならドイツ・ロマネスク建築と言えると思うんです。
では上に挙げた3種類に沿ってロマネスク建築の特徴をみていきましょう!
外観
まずはわかりやすいところ、外観から比較していきましょう。
参考書には
- イタリア・ロマネスクはシンプルな外観が多い
- ドイツやフランスでは、採光塔や鐘塔、階段塔を付けて外観に変化を与えようとする傾向がみられる
とのことですが、実際はどうなんでしょう。
ドイツ
ドイツのロマネスク建築の特徴は、まずは多塔構想が挙げられます。
要するに「塔が多い」ってことですね。
ドイツ・ロマネスク建築の三大聖堂を見てください↓
いやー立派な塔が多いですね。
まあ他の国のロマネスク建築と比較しないと「塔が多いかどうか」がわからないと思うのでフランス版をみてみましょう。
フランス
フランス・ロマネスク建築には3パターンあるので、各パターンの代表例を以下に示します。
第3タイプで解説した「③連続してドームを架けたもので、ビザンティンやイスラム建築の影響を多く受けたもの」のみ、外観にドームが連続しているのでわかりやすいです。
↑これは塔が多い気もしますね。
↑こちらは完全に塔がありませんね。
↑これは・・・小さな塔が多すぎる(笑)
というより、これはミナレットと呼ばれるイスラム教建築で多く使われる塔で、それ以上にドームの多さが気になります。
イタリア
さて、「シンプルな外観が多い」らしいので実際にイタリア・ロマネスク建築の外観をみてみましょう↓
ピサ大聖堂にはとんがった塔がありませんね。
「これがシンプルな外観?(;´・ω・)」
そう思いますが、まあ置いておきましょう。
シンプルの定義をまず教えて頂きたいですね(笑)
各国のロマネスク建築の外観まとめ
さて、こうして外観を比較すると
- ドイツ・ロマネスクは塔が多い
- ドームが連続しているのはフランスっぽい
という感じでしたね。
フランス(一部除く)とイタリアのロマネスク建築は外観ではあまり違いがわかりませんので、内部を見てみましょう↓
教会内部
教会内部は、キリスト教信者が実際にミサ(典礼)を行う場なので、かなり入念に作られています。
ドイツ
ドイツの教会内部では、天井を木造から石造に替えたことに伴って柱に一本おきに半円柱を加えるという補強がなされました。
これによって堂内には柱の突出による強弱が生まれました。
(=これを強弱交替と呼びます)
フランス
フランスの教会内部は主に3つに分けられるようです。
ドイツの教会内部の特徴を思い浮かべながら眺めてください。
身廊立面にトリビューンがありクリヤストリーが無いタイプ
↑こちらは「一本おきの半円柱の補強」がありませんね、ドイツと違って。
身廊立面にトリビューンが無くクリヤストリーがあるタイプ
↑こちらも「一本おきの半円柱の補強」がありませんね。
イスラム教建築の影響を受けてドームが連続しているタイプ
これだけ別次元です(笑)
恐らくすぐにわかります。
このドームの数…。
イタリア
イタリア・ロマネスク建築は「初期キリスト教建築の伝統を受け継いでいる」とのことですが、初期キリスト教建築の特徴はずばり
- 木造天井
- 列柱の上にクリヤストリー
ですね。
↑外観ではよーわからんかったピサ大聖堂も内部を見れば、かなりイタリアっぽいですよね。
こちらも木造天井です↓
木造天井の時点で、初期キリスト教建築の簡素なバシリカ式の伝統を守っていると言えそうです。
プラン(平面形式)
では、最後に各国のロマネスク建築の平面図をご紹介します。
ドイツ
ドイツ・ロマネスク建築の三大聖堂の平面形式を下に示します。
ドイツでは東西にアプスをもつ二重内陣式が流行りました↓
↑これはちょっと・・・西側アプスが確認できませんね。
↑これは東西両側にアプスがありますね。
これも東西にアプスがありますね。
残りの国のもみていきましょう。
フランス
フランスでは、うーん、特に特徴が無いんですよね~
とりあえずご覧ください↓
イスラム教建築の影響を受けたサン・フロン大聖堂のみドームが連続しているのでかなりわかりやすいです。
残りの2つはプラン(平面形式)では見分けられませんね。
イタリア
さて、イタリアの特徴である「初期キリスト教建築の伝統を受け継いでいる」ですが、初期キリスト教建築では直方体の平面形式が用いられていたので恐らくそうなんでしょう↓
初期キリスト教建築のプラン↓
確かに十字架形じゃありませんね。
ではピサ大聖堂とサン・ミニアト・アル・モンテ教会の平面形式を見てみましょう↓
あれ、十字架形なってる・・・(;´・ω・)
イタリア・ロマネスクの代表例であるピサ大聖堂のプランは初期キリスト教建築っぽく無いです!!!
これこれ、これですよねー
このプラン(平面形式)は初期キリスト教建築っぽいですよね。
実践演習
さて、バーーーっとみてきたので今からは実践演習を行います。
ランダムで選んだロマネスク建築を見てそれがどこの国のやつかを当ててみましょう。
当たり前ですが一番いいのは現地の建物を実際の目で見て気になるところは双眼鏡を覗いて観察することです。
どこのロマネスク建築?
まずは外観です↓
ふむ、いかがでしょうか?
結構シンプルで塔もありませんね、以上(笑)
筆者の印象では外観は簡素なイタリアっぽいかな、と思います。
では内部です↓
強弱交替は見られませんし、木造天井でもありませんし、内部はフランスっぽいですね。
でも身廊列柱のみの超簡素な構成なので微妙です。
では最後に平面形式を見てみましょう↓
なるほど、まずは東西にアプスをもつ二重内陣式では無いので、今までの情報を合わせるとドイツ・ロマネスク建築では無さそうですね。
基本的にイタリアは平面形式に袖廊(=トランセプト)をもたない(ピサ大聖堂は例外?)、つまり十字架形ではなく長方形平面なので、うーん・・・
これはフランス・ロマネスクですかね?
こちらは「フォントネー修道院」というシトー会修道院のフランス・ロマネスク建築で、シトー派最古の修道院として厳しい戒律と質素な生活ぶりを示すかのように、聖堂には塔は無く、回廊・大寝室・集会室ともに太い石材と木材の梁がむき出しのままという簡素なものらしいです。
つまり、戒律的にフランス・ロマネスクの中でもかなり質素に仕上がったものということですね。
謎が解けました。
では次です↓
どこのロマネスク建築?
まずは外観です↓
ふむ、塔が見えますがそんなに「多塔」って言うほどのものではありませんね。
正面には小アーチの連続装飾であるロンバルディア帯があり、北イタリアの石工職人が関わっているのがわかります。
しかしロンバルディア帯はドイツ、フランス、イタリアで広く用いられたので特定はできません。
では内部です↓
お、今回は一本おきに半円柱の補強が見られますね。
しかし天井は木造に見えます。
確かに半円柱を上まで辿っていっても横断アーチに繋がっていません。ただの飾りか・・・
ふーむ、木造天井ならほぼ間違いなくイタリアっぽいですね。
でも一応プラン(平面形式)も確認してみましょう。
もし二重内陣式やったら筆者はパニックです(笑)
おーーーー!!!
これは完全にイタリアですね。
直方体平面の三廊式です。
ということで、この建物はイタリア・ヴェローナの「サン・ツェーノ聖堂」でした。
イタリア中部、トスカーナ州の都市ピストイアにあるロマネスク様式の大聖堂で12世紀から13世紀にかけて建造されたらしいです。
どこのロマネスク建築?
まずは外観です↓
あまり詳しくは見えませんが、とりあえず多塔では無さそうですね。
また現在見えている側がアプス側のはずなので、アプスが三つ葉形になっておりイタリアっぽくも無いですね。
じゃあフランス・ロマネスク?
内部を見てみましょう↓
↑強弱交替は見られませんし、石造天井に見えますね。
お、身廊列柱の上にトリビューンかクリヤストリーが見えます。
これはフランス・ロマネスクのタイプ➀かタイプ②に該当します。
では最後にプラン(平面形式)を見てみましょう↓
ふむ、とりあえずイタリアっぽくは無いと思えますね。
ドイツ・ロマネスクの三大聖堂にも似たようなプランがありましたが、外観と内部からこれはフランス・ロマネスクっぽいですね。
んで正解はフランス・ロマネスクです。
誰ですか!!今「出来レースやん」って言ったの(; ・`д・´)
たしかに筆者は初めから答えを知っていますが(笑)
ではもう一つ見てみましょう↓
どこのロマネスク建築?
ではもう一ついきましょう。
まずは外観です↓
あら、塔が4本見えますね。
これはいかにもドイツっぽいです。
では内部です↓
あら、これも一本おきに半円柱の補強がある強弱交替型です。
これもドイツっぽいですね。
次は平面形式を見てみましょう↓
ありゃ、これも東西に半円形のアプスをもつ二重内陣式ですね。
これはドイツのバンベルグ大聖堂で、12世紀末完成の盛期ドイツ・ロマネスク建築です。
尖頭アーチやリブ・ヴォールトが採用されており、ゴシック建築への移行の過程を示すものとして重要らしいです。
どこのロマネスク建築?
まずは外観です↓
ふむ、何となくドイツっぽい塔に思えますが、規模がそんなに大きく無いですね。
どうなんでしょう。
次に内部です↓
お、ドイツっぽいと言いながら強弱交替は見えませんね。
列柱の上にクリヤストリーなので、これはどちらかと言うとフランス・ロマネスクの第2タイプに思えますね。
では最後にプランです↓
お、東西にアプスをもつ二重内陣式に見えますね。
これは、ドイツ・ロマネスク建築と言っても差し支えないのではないでしょうか!
そう、正解はドイツ・ロマネスク建築の「マリア・ラーハ聖堂」です。
ではあと2つだけ。
どこのロマネスク建築?
まずは外観です↓
塔が無いのでドイツっぽくはないですね。
というか、この手前のでっぱりはアプスに見えますね。
ということは袖廊が無いので直方体形のバシリカ式プランに思えるのでイタリアっぽいですね
では内部です↓
お、これは完全に木造天井なのでイタリア・ロマネスクですね!
平面形式の写真が無かったのですが、まあわかりますね!
って事で、これはイタリア・ロマネスクの「サン・ピエロ・ア・グラード」です。
実はこの教会はピサの斜塔と同じ町にあるんですよ。
どこのロマネスク建築?
では最後です。
外観↓
ふむ、外観はドイツかフランスっぽいですね。
でもドイツにしては塔が控えめな気もします。
続いて内部です↓
お、強弱交替はみられません。
というか、横断アーチなども無くこれはただのトンネル・ヴォールトです。
太い柱の上に開けられたクリヤストリーは、フランス・ロマネスクの第2タイプにも見えますね。
最後にプランです↓
ちょっと変則的なプランになっています。
ふむ、東西にアプスをもつ二重内陣式が特徴のドイツ・ロマネスク建築では無さそうですね。
そうです、これはフランス・ロマネスクの「サンタ・マリア・デ・リポイ修道院」でございます。
場所的にはスペインにありますが、ほとんどフランスとの国境沿いにあります。
スペイン北東部、カタルーニャ州の町リポイにある修道院。
9世紀にバルセロナ伯ギフレ1世(多毛伯)により建造され、以降も増改築が続けられた。
イスラム文化との接点として中世における学問の一大中心地として発展し、ヨーロッパ有数の蔵書数を誇る図書館があったが、19世紀の火災で焼失。
12世紀に造られた正面玄関と回廊の柱頭に見られる彫刻はロマネスク様式の傑作として知られる。
サンタマリアデリポール修道院。
(出典:コトバンク)
おわりに
さて、今回は実例を見ながらヨーロッパのロマネスク建築の特徴をみてきました。
冒頭にも言いましたが、各国がそれぞれ独自のロマネスク建築を発展させていったので基本的に「っぽい」という観点で話をしています。
筆者も将来的にもう一度ヨーロッパを訪問できるようになった時には、色んな教会を自分の目で見て写真を撮りながらこのブログをもう少し正確な内容に書き直していきたいと思います。
これを踏まえて各国のロマネスク建築の特徴を見たらよりわかりやすいと思いますので下に記載しておきますね↓
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