各建築様式の少し詳しい部分まで掘り下げようという狙いで、今回はドイツのロマネスク建築の特徴について説明します。
※明言しますが、西洋建築の勉強をしてからヨーロッパに行けば無学で行くより100倍楽しめます。5回にわたってヨーロッパ30ヵ国以上を完全無学で周ってきた僕が言うので間違いありません(笑)
参考文書:「西洋建築の歴史」及び「西洋建築様式史」
こちら↓を読んで頂いていることをある程度前提に話を進める部分もあるので、まずはこちらをお読みください。
超わかりやすい!【ロマネスク建築】ヨーロッパを旅する前に知っておくべき知識
では始めます。
ロマネスク建築は面白い!
本書によると、フランス中心部で生まれたゴシック建築はイギリスからスペインまで地域性を超えて広がったのに対し、ロマネスク建築は地方特有の材料と技術が優先されました。
フランスにはフランスの、イタリアにはイタリアの、ドイツにはドイツのロマネスク建築が存在します。
それはあたかも、ヨーロッパのどの地方に行っても味わうことができる、変化に富んだ郷土料理のようなものなのです!
だから面白い!
プレ・ロマネスク建築
こちら↓でも書きましたが、
ロマネスク建築の前段階であるプレ・ロマネスク建築(初期ロマネスク建築)は、北方の伝統を受け継いでいる方(※)と、南方の伝統を受け継いでいる方(※)の2種類に分かれます。
(※難しい言葉で「ゲルマン的オットー朝建築」「ラテン的初期ロマネスク建築」と説明しました)
北方の伝統を受け継いでいる方:
北方の日差しの弱い地域の伝統を基礎にしているので、なるべく日差しの入る明るい教会堂を目指した
南方の伝統を受け継いでいる方:
南方の日差しの強い地域の伝統を基礎にしているので、暗い静かな光を楽しめる教会堂を目指した
以降、とりあえず前者(北方)をゲルマン的、後者(南方)をラテン的と略します。
ゲルマン的
ゲルマン的の特徴を超簡単に言うと、「木造天井」と「多塔構想」です。
木造天井は写真ではわかりにくいですが、
↑こんな感じです。
また、多塔構想とはこんな感じで↓
「塔をいっぱい建てたーい」ということですね。
ラテン的
ラテン的の特徴を超簡単に言うと、「石造天井」と「堂内が暗い」です。
天井は石造↓になり、
その重さを支えるために、採光のためのクリヤストリー(高窓)を大きくできなかったので堂内は暗めです。
ロマネスク建築の基本ワード
さて、ロマネスク建築の各国の特徴をまとめていきたいのですが、その前に!
ロマネスク建築で使われる各キーワードとその意味を先にザっとおさらいした方が後で理解しやすくなると思うので先にそちらを紹介しましょう。
バシリカ式
ファサード(建物正面)/西正面
身廊/側廊
アプス/内陣/外陣
トンネル・ヴォールト
交差ヴォールト
トリビューン/トリフォリウム
(高窓)クリヤストリー
横断アーチ
ロンバルディア帯
どうですか?
これ読んで「ふぁっ(・。・;」と思った方は、ちょっと気合入れてください(笑)
でも大丈夫、一つずつ説明していきます↓
バシリカ式
バシリカ式とは、キリスト教会堂の平面的な形式のことです。
実は中世の教会堂って通常は東西に長い長方形の平面をもっており、上から見たら十字架の形になっているんです↓
これ意外と知られてませんよねー
こんな感じです↓
これをバシリカ式と呼びます。
ん、じゃあバシリカ式以外にも何かあんの?(゜-゜)
と思いますよね。そうなんです、教会堂にはバシリカ式の他にも集中式と呼ばれる平面形式が存在します。
集中式とは、平面形式が円形とか正多角形になってる教会堂です↓
例えばイスラム教の聖地、岩のドームがそれにあたります↓
ファサード(建物正面)/西正面
先ほどのバシリカ式の図を用いて説明します↓
ファサードとは「建物正面」を表す言葉で、基本的には建物入り口が見える面を表します(上の図では正面と書いてある面)
※しかし「東側ファサード」と言われれれば、それは建物の東側の面を表しています。
そして中世のキリスト教会は、西側に正面玄関があることがほとんどです(図右上の方位記号に注目!)
なのでこれを「西正面」と言います。
ヨーロッパの町中で自分が向いている方角がわからなくても、教会の入り口を見つけたらそれは西側にあるということです。
(西正面を見ているということは体は東側を向いている)
身廊/側廊
教会内部の空間は大きく分けて、幅の広い中央の身廊(しんろう)とその両側の幅の狭い側廊(そくろう)に分けられます↓
身廊と側廊は列柱で分けられ、身廊は側廊よりも天井が高く列柱の上方には壁(身廊壁)が立ち上がっています↓
アプス/内陣/外陣
また、身廊の東端部は、通常アプスと呼ばれる半円形の窪みとなって終わります↓
このアプスには↓
祭壇があり聖職者の専用空間となっています。この聖職者の専用空間を内陣(ないじん)と呼びます。
反対に外陣(げじん)とは、一般信徒に開放される空間を指します。
トンネル・ヴォールト
この言葉は聞いたことのない人が多いのではないでしょうか?
ヴォールトの英語"Vault"を辞書で調べると「アーチ形天井」とありました。
そうなんです、アーチをもっと引っ張って伸ばした構造を難しい言葉でヴォールト天井↓と呼ぶのです。
例えばこんな感じの天井です↓
(↑トンネル・ヴォールト)
ヴォールト天井と一口に言っても実はいくつか種類があり、上のトンネル・ヴォールトは最も単純なのものです。
交差ヴォールト
さて、トンネル・ヴォールトとは別に、交差ヴォールトというものが存在します↓
これはトンネル・ヴォールトを交差させてできる天井なので、交差ヴォールトと呼びます。
例えばこんな感じのやつですね↓
トンネル・ヴォールトとは少々違いますよね。
このヴォールトを用いることによって、建物の強度を上げることができます。
トリビューン/トリフォリウム
では「トリビューン」と「トリフォリウム」の説明に入ります。
この2つが結構似てて理解するのが難しいんですよね~
参考書にはこうあります↓
トリフォリウム:片流れ屋根を架けた側廊の屋根裏
トリビューン:側廊を2階建てとしたときの階上廊
この説明だけ見て理解できる人は恐らく天才です(笑)
トリフォリウムとは以下のような壁面装飾です↓
また、トリビューンとは以下のような壁面です↓
「え、トリビューンとトリフォリウムの違いってなんや?ほぼ一緒やん!」
と思いますよね。
要するに「屋根裏とみるか2階とみるか」という違いなんです。
ではトリフォリウムとトリビューンの違いを「ピサ大聖堂」↓を用いて説明します。
(イタリアのロマネスク建築↑)
まず、このピサ大聖堂は4階建てとします↓(わかりやすいように2枚用意しました)
トリフォリウムの説明に出てきた「片流れ屋根」とは、片方に勾配が付いた屋根↓のことを指します。
トリフォリウムは「片流れ屋根を架けた側廊の屋根裏」なのですから、先ほど定義した3階の側廊にあたる部分になります。
という事は、通路にするには狭いですよね?屋根裏ですから。
反対にトリビューンは「側廊を2階建てとしたときの階上廊」なのですから、先ほど定義した2階の側廊にあたる部分になります。
こちらは2階ですので、当然通路にする空間がありますよね?2階ですから。
もう一度確認します。
トリフォリウムは、片流れ屋根を架けた側廊の屋根裏ですので、
これらの小アーチ列の背後には片流れ屋根が架かっており、通路にするスペースがありません。(屋根裏部屋としてのスペースはあるかも)
しかしトリビューンの場合、側廊を2階建てとしたときの階上廊ですので、
トリビューンの背後には片流れ屋根がなく、恐らく上の写真の場合クリヤストリーとトリビューンの間くらいの位置に片流れ屋根が存在しているということですね。
少なくとも、トリビューンの背後には片流れ屋根はありません。
(高窓)クリヤストリー
クリヤストリーとは、身廊壁の上部にアーチ形の窓をあけて、身廊への採光を確保する窓のことです↓
横断アーチ
そして横断アーチの説明です↓
横断アーチとは、天井を補強するためのアーチで、例えばこんな感じのやつです↓
ロンバルディア帯
こんなブログ書いときながらお恥ずかしい話、僕は初めて聞きました。
ロンバルディア帯とはこんな感じの連続アーチの壁面彫刻の装飾を指すようです↓
今のあなたなら見えるはずです↓
壁面に彫られたロンバルディア帯が・・・
ドイツのロマネスク建築の特徴
さて、前置きが長くなりました!
以上の用語を心に留めて、実際にドイツのロマネスク建築の特徴を見ていきましょう。
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