ヨーロッパを旅する前に知っておくべき西洋建築の知識として、今回はルネサンス建築について説明します。
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※明言しますが、西洋建築の勉強をしてからヨーロッパに行けば無学で行くより100倍楽しめます。
※「この部分がわかりにくいです」とか「これはどうなんですか?」などの質問やコメント等ありましたら遠慮なく下部のコメント欄からお問い合わせください!
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本記事は「後期ルネサンス建築(=マニエリスム)」を解説しています。
後期ルネサンス建築(=マニエリスム)
この章の特に重要な点を挙げると以下の4点になります↓
➀マニエリスムとは
②大オーダー
③パラディアン・モチーフ
④オーダーの分解
それぞれ解説します。
マニエリスムとは
初期→中期→盛期とルネサンス建築の発展の過程を見てきました。
もともとルネサンス期は文芸復興を主とした時代で、建築分野では過去のローマ建築復興を目的としていましたよね。
しかしこうして➀ローマ建築の復興と➁古典的調和が完璧に実現されてしまうと(←テンピエットのこと)、ルネサンス建築は普遍的な目標を失いますよね?
おらたち、これからどうすればいいだべさ(´・ω・`)?
後期ルネサンス建築家はそのような状況の中で自らの独自性を示す芸術の方向を探らなければなりませんでした。
こうして古典的正統から離れてオーダーの新しい適用を模索し始め、(オーダーのもつ本来的意味の了解を前提としたうえで)オーダー本来の意味や文法を分解・融解してしまう過激な傾向が現れました。
後期ルネサンスに現れたこのような傾向をマニエリスムと言います。
その一つに大オーダーの発明があります。
大オーダーの発明
(出典:ローマ正式ウェディングプラン)
ローマのカンピドリオの丘に建てられたパラッツォ・デル・セナトーレ(1592~)は三階建ての建物ですが、一階をルスティカ(粗石積み)仕上げでその上に主要階(ピアノ・ノビレ)と最上階を載せています。
ルスティカ仕上げ
日本語では「粗石積み」と訳され、石造建築で壁の表面を滑らかにせず、目地(継目)を際だたせたり、石材面を突出させたり、凹凸を目だたせて荒々しく力強い表情をもたせる技法をいう。
しかしピアノ・ノビレと最上階を分かつ水平の要素(エンタブラチュア)はなく、その代わりに二階分の高さをもつオーダー(大オーダー)が全体を統一しています↓
大オーダーの並びがつくる威風堂々たる外観は、ファサード(建物正面)を小割りにするこれまでのオーダーの適用法からは生まれ得なかった、全く新しい建築表現ですよね。
何はともあれ、まずは過去のギリシャ建築とローマ建築のオーダーの適用法を見てみましょう。
高さこそあれど、結局は一階分の高さのオーダーなんです。
それに比べて先ほどの大オーダーは、二階分の高さをカバーしたオーダーなんです↓
違いは明白です、よね?
また、この広場の両側面に配置されるパラッツォ・ディ・コンセルヴァトーリ(1564~)もカピトリーノ美術館(1644~)も、正面の建物と同様にコリント式の大オーダーによってファサード全体の輪郭が決定されています↓
(※便宜上、大オーダーと比して「小オーダー」と書きましたが、まあ普通のオーダーです)
また大オーダーとイオニア式のオーダーの大小二種類のオーダーを一つの建物に組み合わせて用いる方法はミケランジェロの独創性から生まれたものです。
パラディアン・モチーフ
また、ちょっとわかりにくいですがアーチを受けるピアの部分を二対の小円柱に置き換える新たなモチーフを、建築家パラディオにちなんでパラディアン・モチーフと言います。
確かに2対の小円柱でアーチを支えています。
余談ですが上の画像では大オーダーは使われていませんね。
オーダーの分解
それではマニエリスムの時代に行われたより過激な「オーダーの分解」について解説します↓
ロレンツォ図書館
下の画像はミケランジェロのロレンツォ図書館(1521~1534)前室ですが、内部は矛盾に満ちています、よく見ると。
ここで言う矛盾とはつまり、
「え、それなんの意味があるの?」
という要素のことなんですが、わかりますか?
➀二本ずつ対になった円柱は壁の中に押し込められ、部分的に後退したエンタブラチュアを受けています。
→円柱を付ける意味がない
➁円柱の下に付けられた持ち送り(壁から突出した柱や床を支えるもの)には厚みが無く、支えるべき円柱は壁の中にある。
→持ち送りを付ける意味がない
③円柱の間にあるエディキュラの内部は盲窓(めくらまど)となって虚ろ
→盲窓なので窓を付ける意味がない
なんでこんな部屋作ったの(。´・ω・)?
と言いたくなるような意味のないオーダーたちでした。
いやー過激ですね~(笑)
パラッツォ・デル・テ
ジュリオ・ロマーノのパラッツォ・デル・テ(1526~)も不思議な建物です↓
まず、ドリス式オーダーとルスティカの壁面が完全に融合しています↓
中期ルネサンス編の記事(→こちら)でも紹介したパラッツォ・ルチェルラーイではルスティカの面とオーダーとの区分は明瞭でしたよね?
壁に半分埋め込まれた半円柱とかはローマ建築にもありましたが、パラッツォ・デル・テではルスティカ壁面に埋め込まれています↓
➀盲窓の上のペディメントにいたっては➁コーニスが消失し水平アーチの③放射状迫石の上に貼りついているだけです↓
しかもそのペディメントは頂点で左右に分解されています。
しかもエンタブラチュアの石は、ペディメントの真上に落ちかかっていいます。
まるで土の中から現れた古代の廃墟、遠い過去の記憶の断片のような趣を漂わせた建築です。
(ロレンツォ図書館のような)ミケランジェロの作品は、深い精神性からくるきわめて高度な芸術表現もちますが、あまりに深刻で衝撃力が強すぎたためか、後にこれに倣う作品は現れませんでした。
一方ルスティカを多用するジュリオ・ロマーノの作品(これ↑)は機知に富んでいて受け入れられやすく、後の建築に大きな影響を与えました。
では最後にルネサンス建築の屋根と天井について解説します↓
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