【旧約聖書⑪】「バビロン捕囚」で再び訪れた、忍耐の時

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ユダヤ教 旧約聖書 歴史

さて、本記事では、ユダヤ人の“聖なる物語”――そう、旧約聖書という名の一大叙事詩を、なるべく分かりやすく、そしてちょっぴり笑える感じで解説していく所存である。

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全体のざっくりストーリーについては、すでに別記事で語り尽くしているので、「旧約って何だっけ?」という方は、まずはそちらをご一読あれ↓

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ユダヤ教 歴史
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旧約聖書 まとめ わかりやすく

本書では、その記事で触れた内容をさらに掘りに掘って、スコップが折れる寸前まで深掘りした構成となっている。

読む際には、その覚悟を持って臨んでいただきたい。

参考文献は『眠れないほどおもしろい「聖書」の謎』。タイトルだけでもう面白そうである。

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前回の記事↓

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旧約聖書 サウル ダビデ ソロモン

ではさっそく、神と人類の濃すぎる関係史をのぞいてみようではないか(”◇”)ゞ

※なお、本記事に登場する写真のほとんどは画像生成AIによる産物であり、「あれ?この人見たことある!」と思っても、たぶん気のせいである。
実在の人物とはほぼ無関係なので、そこんとこよろしく。

「バビロン捕囚」で再び訪れた、忍耐の時

前回までのおさらいをしておこう。

初代王サウル、二代目王ダビデ、三代目王ソロモンと続いてきたヘブライ王国だった…。

ソロモンの死後、➀北のイスラエル王国②南のユダ王国に分裂したヘブライ王国だったが、、、その後両国が再統一されることは二度となかった。

  • 北のイスラエル王国:ヤロブアム(十の部族が支持)
  • 南のユダ王国:レハブアム(二の部族が支持)

まず姿を消したのは北イスラエル王国だった。


上図青色(出典:神のことばの選り好み

そもそも分裂の原因は、ダビデ〜ソロモン時代の過剰な重税にあった。

確かに王国は繁栄していた。

だが、神殿や宮殿の豪華さの裏では、民の生活は困窮を極めていたのだ。


重税に苦しむヘブライ王国の民

そこで、ソロモン亡き後、人々は後を継いだ息子のレハブアムに重税や重労働の軽減を訴えたが、レハブアムはさらに重い使役を課したのだ。

民A「我々、働きすぎでは? そろそろ休ませてくれませんか…」

民B「せめて…税と労働だけでも軽く…」

レハブアム「いや、逆に倍にするわ(ドヤ顔)」

結果、民の怒りは爆発。

十部族がヤロブアムを王に立て、北にイスラエル王国を建国した。

信仰の象徴は南にあった

だが、北イスラエル王国には重大なハンデがあった。

信仰の対象(中心)である、契約の箱(十戒が刻まれた石板が入っている)が、南ユダ王国のエルサレム神殿内に安置され続けていたのだ。

旧約聖書 バビロン捕囚 ディアスポラ

そうなると北イスラエル王国の人々は、信仰上どうしても南のエルサレム神殿(ユダ王国)へ巡礼せざるを得なかった。

それは国力の低下にもつながる。

この状況に危機感を覚えたヤロブアムは仕方なく、エルサレム神殿との分離(決別?)を果たすべく、新たな神殿を北に建立した。

しかし新神殿には金の子牛が鎮座していたという…。

旧約聖書 バビロン捕囚 ディアスポラ

なんかモーセがシナイ山で神と契約していた時に麓で民が偶像崇拝していたのも金の子牛だったような。

その時は神がぶちギレてイスラエルの民3,000人を粛清している。

「この子牛は台座に過ぎない」との言い訳もあったが、人々は結局この金の子牛に祈りを捧げ始めた。

イスラエルの民にとって「偶像崇拝」は最大の罪である。

神「また金の子牛かコラァアアア!!!」

この行為は「ヤロブアムの罪」と称され、のちのイスラエル王国滅亡の原因ともされている。

また、ヤロブアムにも直接、不幸が襲いかかる。

息子が謎の病死を遂げ、この時代でヤロブアムの一族は滅亡。

バアル信仰──さらに深まる堕落

それでも北イスラエルの人々は目を覚まさなかった。

すなわち、異教の神バアル(=カナンの古代神)を崇めるなど罪を犯し続けたのだ。


バアルの像を崇める人々(←偶像崇拝禁止なのに、ってか他の神やし…)

そもそも、バアルとは?

バアルとは古代シリア・パレスチナ地域の男神で、元来は雨・嵐または戦闘の神。

穀物の死と復活を体現する神でもある。

(出典:バアル

完全に神ヤハウェとは無関係な異教神である。

にもかかわらず、神殿に像を置いて拝む始末。

これは「偶像崇拝+他神信仰」という、ダブルアウト案件。

筆者「他神を偶像崇拝て。今回も神に抹殺されるパターンすわ、完全に」

と思いきや、神はエリヤやアモス、ホセアなどの預言者らを使い、北イスラエルの民を導くメッセージを送り続けたのだ。

彼らは「悔い改めよ」と叫び続けたが、誰も耳を貸さなかった。

北イスラエル、ついに滅亡(前722年)

ついに紀元前722年に大国アッシリア帝国の侵入によって北イスラエルはあえなく滅亡してしまう。

筆者「アッシリアはマジで強かった、この時代は無双していたんすわ。」

旧約聖書 バビロン捕囚 ディアスポラ

世界の歴史まっぷさんの年表からも、アッシリアがイスラエル王国を滅ぼしたことがわかる。

と同時に、「ユダ王国」が「新バビロニア王国」に滅ぼされる未来も見えてしまった…。

北のイスラエル王国滅亡、建国からわずか二百年の出来事だった。

ところで、この北イスラエルの十部族は囚人としてアッシリアに連行されたと考えるのが自然だが、明確な記述は残されていない。

そのため彼らは、行方知れずになった「失われた十部族」と称され、世界各国に散ったとする説がある。

アフガニスタン、インド、ミャンマー、イギリス、アメリカ、、、様々な仮説がある中に、日本へたどり着いたと主張する説もある。

そこでイスラエルと日本の文化の共通点を比較研究する人々もいて、なかなかおもしろいのだ。

民族は消えても、物語は終わらない

一方、南のユダ王国はアッシリアからの侵攻を受けながらも独立を保っていた。

北イスラエル同様、異教の神を拝み、偶像を造るなど、悪しき王も出現しているが、ダビデの血筋を保ち続けたこともあったのだろう。

他国からの攻撃にさらされ、衰退しつつも、なんとかその血筋を継承していったのだった。

ユダ王国、運命の選択ミス

しかしアッシリアの支配下にあった新バビロニア王国が台頭し始めると、ユダ王国は、当時大国だったエジプトとの板挟みに遭ってしまう。

この時代、ユダ王国はアッシリアとエジプトという二大巨人の緩衝国家として独立を維持していた。

アッシリアがユダ王国に攻め込むとエジプトが支援する、エジプトがユダ王国に攻め込むとアッシリアが支援する、といった形で微妙な関係性を維持し、一応独立していたのである。

しかし新バビロニア王国の台頭に伴い、どちらにつくか厳しい選択をせまられる中、ユダ王国がとったのは「強い方に加担する」ことだった。

その「強いほう」とは、エジプトであった。

紀元前597年、バビロン捕囚・第一幕

だが結果的には誤った判断だったのだ。

こうしてユダ王国は新バビロニア軍に攻め込まれ陥落。

紀元前597年、王族を始め、エルサレム市内の若者たち約一万人が「ちょっとお借りしますね」みたいなノリで、新バビロニア王国に強制連行されてしまうことになる。

これが有名なバビロン捕囚である。

この時は新バビロニアの支配下に置かれながらも、国家の存続は許されていた。

だが!ゼデキア王、やらかす。

このときユダ王国を率いていたのが、ゼデキア王(←ユダ王国最後の王)

ユダ王国は国家としての体面を一応残され、現地総督付きの属国状態になっていた。

だが、新バビロニアに忠誠を誓っていたにもかかわらず、

ゼデキア王「やっぱ独立したいわ~」

と、エジプトの支援を期待して裏切りのスイッチをオン。

預言者エレミヤが全力で止めたにもかかわらず、

ゼデキア王「新バビロニアとか、ワンチャン勝てるっしょ!」

と謎の自信を見せて、反旗を翻す。

当然ながら、新バビロニア、マジギレ。

ついにエルサレムは陥落、破壊されてしまった。


エルサレムが陥落し逃げ惑う人々

預言者エレミヤの忠告に反してバビロニアへの隷属の誓いを破ったため、自身も新バビロニアの捕虜となったのだ。

紀元前587年の出来事であった。

こうして第二回目のバビロン捕囚が行われ、ユダ王国は滅亡した。


ユダ王国滅亡の時…

バビロン捕囚によりディアスポラ(離散の民)となったイスラエル人。

後にシリアやローマ帝国など、時の大国に支配された彼らは、イスラエルの地を離れて各地に移住するが、このバビロン捕囚はディアスポラの起源と言われている。

ちなみにイスラエル民族の別名をユダヤ人と呼ぶようになったのはこの頃からみたいである。

「捕囚」と聞くと、過酷な強制労働や奴隷生活を想像するかもしれない。

だが実際には、ユダヤ人たちはそれなりに自由に生活していたようである。

しかし彼らを最も苦しめたのは宗教的な心のよりどころ、エルサレム神殿の消失だった。

そのため、この不遇の時代には多くの預言者が出現し、神の言葉を民に授け、神に祈り続けるよう励まし、何度も「希望を捨てるな」と民を奮い立たせている。

紀元前539年、新バビロニア王国はついに、アケメネス朝ペルシア(のキュロス2世)によって滅ぼされた。

ユダヤ人にとってのヒーロー、キュロス王がこんな粋な計らいをしてくれた。

キュロス2世「バビロンに連れてこられた人たち?故郷に帰っていいよ?」

こうしてユダヤ人たちは故郷エルサレムへの帰還を果たした。

キリスト教の開祖イエスが登場するのはここから五百年後のことになる。

ユダヤ人の物語編ー完ー

おわりに

旧約聖書 わかりやすく ユダヤ人

というわけで、全11回にわたりユダヤ人の聖典『旧約聖書』について熱く語ってきた。

思い返せば、アダムとエヴァの果実(という名のフラグ)から始まり、ノアの豪快な箱舟づくり、アブラハムの謎すぎる信仰テスト、そしてカナン奪還にバビロン捕囚……。

どれをとってもツッコミどころ満載で、まさに壮大な神と人間のドラマであった。

以下、旧約名場面をざっくり振り返っておこう。

  1. 世界一有名な神話「天地創造」と「アダムとエヴァ」
  2. 人類初の殺人!「カインとアベルの悲劇」
  3. 神による怒りの制裁「ノアの箱舟」伝説
  4. なぜ「バベルの塔」は神の逆鱗に触れたのか?
  5. アブラハムが"信仰の父"と呼ばれる理由
  6. "神との戦い"に勝利!「イスラエルの祖」になったヤコブ
  7. 「苦難」はヤコブ一家の"エジプト移住"から始まった!
  8. 『旧約聖書』のハイライト!モーセの「出エジプト」と「十戒」
  9. 「約束の地」カナン奪還とイスラエルの初代王サウル
  10. イスラエル全盛期を築いたダビデ王とソロモン王
  11. 「バビロン捕囚」で再び訪れた、忍耐の時

どうだろう。

気づけば皆さんも、旧約マスターに一歩近づいたのではないか。


さて次回からは、いよいよ「新約聖書編」に突入予定である。

そう、救世主イエス・キリストの登場だ↓

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新約聖書 聖母マリア 救世主 イエスキリスト
※ちなみに「新約聖書」の内容は旧約聖書の続きとなっていますので、ここまでお読み頂いた読者の方にはより楽しめる内容だと思われる。

聖書世界のセカンドシーズン、どうかご期待いただきたい。

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