本記事は、2017年に行ったヨーロッパ一人旅の記録を振り返るものであり、ベルギーの首都ブリュッセルでの滞在を中心に、当時の思い出をゆるりと綴っていく。
さすが小便小僧の生みの街、至る所に卑猥な少年がいる。
旅の期間は2017年初頭、およそ1か月。
東欧・バルト三国・アイスランドなど、これまで訪れたことのなかった国々を巡る冒険だった。
今回の旅には、
- 旅仲間(以下「エリ」)との同行
- 初めてのレンタカー運転
- 人生初のテント泊
という3つの大きな挑戦があり、まさに忘れがたい出来事の連続であった。
本記事では、その旅の始まりから順に振り返っていきたい。
やっぱりベルギーは美しかったの巻
筆者はベルギーが好きである。
なぜかと聞かれても、「いや、なんか良いんだよね〜」としか答えられないのだが。
強いて言えば、平和で、石畳が美しく、そして旅行者に優しい。
この「優しい」って、重要である。
ヨーロッパの観光地の中には、「観光客?金落としてけオラ」みたいな圧の国も存在するが、ベルギーはそこまでガツガツしてない。
さて、そんな心優しき国ベルギーへは、Ouiバスを使って移動した。
Ouiバスとは、ヨーロッパのフランス語圏を中心に走っている格安長距離バスである。
たとえるなら「フランス発・ヨーロッパ用スーパーハイパー青春18きっぷ on wheels」みたいな存在だ。
しかも車内は意外と快適。
日本の夜行バスよりも足元が広く、Wi-Fiやコンセントも完備されていたりする。
筆者「ガチでオススメである。」
地獄の野宿編
パリを出発したのは夕方。
Ouiバスがブリュッセルに到着したのは夜の22時過ぎ。
時刻はすっかり夜。
空気がしんと冷えていて、街灯に照らされた石畳が美しく光っていた。
乗客たちはぞろぞろとバスを降り、ここから各々のベルギー旅が始まる。
ん、今夜の宿?
そんなものはない。
あるのは信じられない量の荷物と、訳の分からない自信だけ。
宿泊費を浮かすために、テント泊を決行する予定だったからである。
しかしテント旅において、最大の敵は「場所」である。
どこに張るのか。どこなら安全か。どこが警察に怒られないか。
その答えはGoogleマップにも載っていない。
筆者は事前に、ブリュッセルで一番有名な観光地「グランプラス」周辺に小さな公園を見つけており、そこを候補地として目星をつけていた。
この3つの公園のどこかにテントを張ろうと決めていたのである。
ちなみに、一緒に旅をしていた友人エリは、「カウチサーフィン」だったか「ホステル」だったかを確保していたようで、
翌日にグランプラスで再集合しようという約束だけ交わして、いったん別れた。
しかし時刻はすでに夜遅く、公園と言えど街の中心部でテントを広げる勇気はさすがにない。
そこで、筆者は考えた。
「よし、駅の中で寝よう。文明の力よ、ありがとう。」
駅という名のオアシスへ
鉄道駅に入ると、そこには天国のような光景が広がっていた。
照明はほどよく落ち着き、硬すぎず柔らかすぎないベンチがずらり。
しかも周囲には筆者と同じように人生のレールを外れた旅人が何人か。
筆者は自然とニヤリと笑った。
「同志よ……我らは今、世界の中心で野宿をする。」
バックパックを枕にし、コートを布団代わりにする。
完璧な布陣だ。
凍える夜を乗り切るに足る装備。
しかしこの世界は、そんな甘い希望を秒速で打ち砕いてくる。
残酷な現実、強制退去。
筆者がまどろみに落ちようとした、その時だった。
係員「アロー?ここは今から閉鎖です。出てください。」
筆者「……What?」
係員「クローズ!シメル!ハウスにカエル!」
筆者「アイドント ハブ マイハウス トゥナイト!!」
係員「何を言ってるんだ君は、早くお家に帰りなさい。」
筆者「アイドントハブマイ…」
係員「GET OUT!!!!!!!!」
有無を言わさぬ追放命令。
筆者は優しくも力強い腕に引きずられながら、駅の外へ放り出された。
駅前、ホームレス三銃士
すると驚くべき光景が待っていた。
筆者と同じように追い出された2人のホームレスが、閉ざされたガラス扉の前に神妙な顔つきで並んでいたのだ。
誰一人として言葉を発しない。
だが筆者は感じた。
「あいつら……できるッ!」
無言のうちに結成された、駅前・野宿同盟。
見つめ合う瞳の奥に流れる、まさに「旅人魂」のシグナル。
「おまえ、どこで寝んの?」
「俺はあっちの安全地帯目指すわ。」
「お互いいい場所見つけようぜ、兄弟!」
そんなやり取りが一瞬交わされた、気がした。
いやもう、かっこよすぎるだろ俺たち。
でもな、俺には行く場所があるんだよ。ハハハ
そう、あのグランプラスの横にあるデカい公園だ!
「よし、ここならテント張ってドヤれる!」と確信して足を踏み出す筆者。
そう、筆者が選んだのはグランプラスの右側にある大きな公園。
筆者の経験では、これだけ広かったらまず間違いなくテントを張って寝れる。
徒歩スタート。
———–5分後———–
ハア…ハア…お、おい…荷物重すぎやろこれ。
———–10分後———–
フゥ…フゥ…あかん、これ完全に死にかけや。
荷物が予想以上に重く(=40kg超え)、体がこれ以上歩くのを拒否していた。
グランプラスに到着
深夜、人気(ひとけ)のほぼ無いブリュッセルの中心・グランプラスに到着。
公園まで歩くのは無理そうな予感しかしない。
目の前には――
黄金に輝く歴史的建造物たち。
筆者「おぉ……めっちゃ綺麗やんけ……」
まるでディズニーの世界に一歩足を踏み入れたかのような、幻想的な広場。
……が、そのロマンチックな空気を真っ二つに裂いたのが、
\どーん/
激重40kgの全荷物(フル装備)
(内訳:巨大バックパック+サブバッグ+謎の小物いろいろ)
筆者「いや、重すぎん?てか俺、登山家やっけ?」
背中に富士山、胸にエベレスト、肩にマチュピチュを背負ってるかのごとき重量感。
歩くだけで関節がバグるレベル。
グランプラスとは
(出典:世界遺産 グラン・プラス(ベルギー))
\ドドンッ!/
説明しよう!
グラン・プラスとは――
ベルギーの首都ブリュッセルのど真ん中に位置する、縦約110m×横約70mのド級石畳広場!!
かの有名な画家・詩人・作曲家・旅人・自撮り好きインスタグラマーたちが、口を揃えてこう言う――
「え、ここ天国?」
その美しさ、もはや犯罪級。
「世界一美しい広場」の異名を持ち、ついには1998年に世界文化遺産にまで登録されちゃったという、
ベルギーが誇るガチの国宝レベル観光スポットなのだ!!!
つまりここ、「ただの広場」じゃない。
歴史と芸術と人類の奇跡が融合した、ヨーロッパの心臓部なのである。
究極の二択、降臨。
そしてここで――筆者の胸中に究極の二択が降臨する。
- 予定通り歩いて公園まで行く(地獄の延長戦)
- 人の少ないこの奇跡のタイミングで、グランプラスでテントを張る(完全アウトロー)
筆者「……やるか」
グランプラスの石畳に向かって深呼吸。
筆者(心の声)
「これは旅人としての試練……俺は今、歴史の一部になる……」
(;゚д゚)ゴクリ…
作戦名:ステルス・テント作戦 発動
なるべく建物の壁沿いにひっそりと移動し、誰の視線もないタイミングを見計らい、
シュッ! パサッ! カチッ!
――設営完了!
筆者「よし……完璧だ……」
※ちなみにこの“奇跡の瞬間”を記録した一枚に、後日Nina(スロベニア人の友人女性)から送られてきたコメントがこちら:
Nina「Photoshop?」
ちがーーーーう!!!
これは現実だ。
こうして筆者は、世界遺産のど真ん中で一夜を明かすという、ちょっと法的にグレーな偉業を成し遂げたのであった。
テントの中での心得とは
テントに入ったはいいが、危険が無いとは言い切れない。
中から外の様子を伺う筆者。
筆者(心の声)
「……よし。敵影なし。
観光客、ゼロ。警察、ゼロ。ドローン、飛んでない。
今夜、ここは俺の城だ。」
筆者「任務開始」
(ガサッ…と寝袋に潜り込む)
しかしここは世界遺産グランプラス。
ミスれば即退場。
目立てば即通報。
寝返り一つが命取り――
筆者「これが戦場(いくさば)ってやつか……」
まずは目の光を封じるため、目にタオルを装着!
即席アイマスク、完成。
次に、万が一に備えて右手にヴィクトリノックスのナイフを装備。
テントの中で小声でつぶやく――
筆者「生きて朝日を拝めますように……zzz」
テント泊の危険
──これは、旅人たちがまだ野宿にロマンを感じていた時代の物語である。
時は真冬の真夜中。場所はベルギー・ブリュッセル。
俺は今、世界遺産・グランプラスのど真ん中で一人、そっとテントを張った。
この場所を選んだ理由は3つ。
- ライトのおかげでほんのり暖かい(ありがたや)
- 通行人が少ない(この上ない好条件)
- 荷物が激重すぎて動けない(致命的)
筆者(心の声)
「もはやこれは…宿命…!」
動物的な“勘”が覚醒する夜
人間ってのは結局動物なんだなと学んだ夜だった。
なぜなら、たとえ眠っていても、誰かが歩いてくると、耳が「ピクッ」と動く。
足音がどっちの方向から来るのか、何となくわかる。
さらに、
- ただの通行人なのか?
- 絡んでくるヤバいやつか?
- こっちの荷物を狙ってる盗賊なのか?
寝てても、テントの生地の向こう側にいる相手でも「雰囲気」でわかる。
まるで第六感がオンになる感覚。
夜の足音は、いつだって不協和音
ガッ…ガッ…ガッ…
深夜の静寂を破る、一人の足音。
それは一直線に、俺のテントへ向かってきていた。
筆者(心の声)
「やべぇ、これは…来るな…!」
そっと寝袋の中から手を伸ばし、右手にヴィクトリノックスのナイフを握りしめる。
(実際、使えた試しはない)
息を殺しながら、じっと足音の主を待つ。
数秒後――
その人影はテントの横で完全に静止した。
筆者(心の声)
「な…何もしない…?え、逆に怖ぇ…!」
そのまま何もせず、また去っていった。
なにその“無言の圧”?
やめてマジで。
しかしそれだけでは終わらない。
カツ…カツ…
カツ……カツ……
ピタッ。
この足音、明らかに今までと違った。
遅い。重い。迷いがない。
そして、そこには明確な――殺気があった。
筆者(心の声)
「終わった…」
「ここで人生、最終回か…」
まるでホラー映画のラスボスが登場するかのように、音は止まり、気配だけがテントを包み込む。
俺はその瞬間、ナイフをさらに強く握りしめた。
夜中の珍客① 酔っ払い
──その足音は、最初から俺を狙っていた。
テントの外で、カッ…カッ…と鳴る不自然な足音。
まるで「敵ロックオン完了」みたいな一直線の動き。
筆者(心の声)
「おいおい、さっきまでの通行人と様子が違うぞ…?」
そしてその瞬間、
ドンッ!!!!!!!!
テントが、大きく揺れた。
筆者(リアル反応)
\(゜ロ\)(/ロ゜)/ナニコレ!?
その直後、外から何語かわからない声が飛んできた。
「グォアァッシャァ~~~!!!(ヒック)」
筆者(脳内翻訳)
「お前、誰の土地で寝とんじゃコラァ~~酒持ってこいワレ~~」
周囲からは、明らかに酔っ払いテンションの笑い声。
男女混合、恐らく3人組(男2女1)。
テントをガサガサ揺らしながら、何か楽しそうに騒いでいる。
筆者の頭の中で緊急会議が始まる。
- 英語で落ち着かせる
- 日本語で「やめてください!」と叫ぶ
- 逆に中からナイフ片手に飛び出す(危険)
- そっと死んだふり(リスク高)
冷静に判断し、俺は英語でテントの中から叫ぶことにした。
「アイ…ワズ…スリーピング!!!」
イントネーションガタガタ、完全にパニック英語である。
するとテントのすぐ横から、女性の声が聞こえた。
「Oh my god, sorry!! Sorry!! Just joking, okay!?」
「It was just a joke! Good night!」
どうやら酔っ払いの“悪ノリ”だったらしい。
女性が男を軽く引っ張って、3人はフラフラと立ち去っていった。
夜中の珍客② 2人組の警察官
朝の7時。
しかし2月のヨーロッパの午前7時はまだまだ暗く、広場を歩く足音もまだまだ少ない。
筆者(心の声)
「んー、思ったよりよく寝れたな……(真冬とは思えぬ快眠)」
とその時、
カツッ…カツッ…カツッ…カツッ…
重みのある革靴の足音が、一直線にテントへ向かってくる。
筆者(即時判断)
「あ、これ……今までの浮かれ観光客とは違うやつや」
右手は自然とヴィクトリノックスへ。
耳をすますと、次の瞬間──
「ヘーイ ディス イズ ポリス!」
外から明らかに公的権力の声。
筆者(心の声)
「ついに来たか……グランプラスでテント張った代償……受け入れるしかねえ!」
ゆっくりとファスナーを開け、外へ出た。
朝日に浮かぶ、完全武装の男女ペア
テントのファスナーを開けると目の前に立っていたのは──
まるでSWAT部隊のようなフル装備の警官2人(男女ペア)
警官A(男)「グッモーニン、サー」
なぜか半笑いである。
警官B(女)「ID, パスポート プリーズ。」
まずはパスポートを見せるように言われたので大人しく提出。
警官A(パスポートを見て)
警官A「お、お前……日本人かっ!?」
さっきまでの堅い表情が、まるで同窓会で旧友と再会したかのような柔らかさに。
警官A(にっこり)「ここはね、公園じゃないんだよ。」
警官B(にっこり)「そして……夜ここで寝るのはマジで危険。絶対にダメ。」
筆者(神妙な面持ち)
「イエスサー、ソーリー、アイムリービングスーン」
すると警官はこう言った。
「OK、じゃあ……1時間後にまたここ来るからね?」
「その時まだテントあったら…罰金だぞ?わかるな?それが仕事だから」
筆者「イエッサー」
恐らく筆者のパスポートがJAPANじゃなかったら一発アウトだっただろう。
日本人に生まれてよかった~。
テント撤収
とりあえず警察官のご温情に感謝して、即テント撤収。
筆者(心の声)
「よし…撤収開始だ。」
──午前7時。
武装した警官からの”1時間リミット”を食らってから数分。
テントは影も形もなくなった。
筆者(ナレーション風)
「テントという名の一夜の砦、今ここに役目を終える。」
辺りは、ほんのり空が白み始めていた。
グランプラスの空気は澄んでいて冷たい。
でもその空気が、どこか“旅人を許す”ような優しさを帯びていた。
広場の石畳に、カタン…コトン…と鳴る作業車の音。
筆者(心の声)
「ああ、あれは開店準備の業者やな…
観光客より先に目覚める、もう一つのブリュッセル。」
どこかの扉が開き、金属のシャッターの音が静寂を切り裂いた。
この日、筆者が朝から一番乗りしようと思っていたGODIVAの本店はすぐそこである。
筆者「あそこが、今日一番に攻略すべきスイーツの聖地。GODIVAか」
グランプラスは美しい
ふと見上げると、広場の上空に浮かぶ冬の朝焼け。
グランプラスを取り囲む中世の建物たちが、夜のライトアップを終えて、自然光という本来の色彩に戻っていく。
筆者(しみじみ)
「ふう……なんか……
人生って、旅って、いいな……(ドヤ顔)」
↑ふむ、一見するとゴシック建築の建物だが、なぜかイスラム建築のミナレットのようなものも見える。
先述した通り市庁舎は1455年に建てられたので、、、やはりゴシック建築か。うーむ、わからん
西洋建築の勉強せずに行ったら必ず後悔します!!!!!
ヨーロッパを旅する前に知っておくべき西洋建築の知識として、今回はゴシック建築について説明します。 [show_more more=恒例の挨拶(クリックで開きます) less=折りたたむ color=#0066cc list=»[…]
写真中央ちょい左の緑の車の後ろに筆者のバックパックが置いてある。
だがここは──ヨーロッパ!
完全なる自殺行為である!!(荷物的に)
小中学生にやってた警泥の要領で、いつどこから置き引き犯が来ても対応できるようにするのが重要だ。
そして現れる緑の救世主
そんな旅人の緊張感をよそに、朝7時30分──
グランプラスに「けたたましい轟音」を伴って現れたのは、緑の清掃車!!
「来たか……グランプラスのメンテナンス部隊…」
その車体の下には、巨大な丸ブラシ。
さらにそこから水がジャーーっと出ており、ぐるぐるぐるぐる回転しながら石畳を洗浄していく!
毎朝やっているのだろう。
この広場が世界一美しいと呼ばれるのも、陰のヒーローたちの努力のおかげなのである。
パン・ヨーグルト・コーンフレーク
清掃車が颯爽と我が家(←グランプラス)を磨き上げて去ったあと、
筆者もまた、朝の儀式を始める。
そう、朝ごはんである──!
貧乏バッパーの胃袋を支えるヨーロッパ三大主力は以下の通り。
- パン(特にフランスパン)
→ カチカチでも噛み締めることで「旅してる感」が味わえる - ヨーグルト(無糖タイプ)
→ だいたい安い。でも腹にくる冷たさが地味にダメージ - コーンフレーク(+牛乳)
→ 牛乳の冷たさで眠気が消え、若干お腹が下る(※重要)
筆者はこれらをヘビーローテーションして生き延びている。
パスタ?ピザ?フランス料理?シュニッツェル?ソーセージ?
そんな高級料理食べれるのは10日に一度くらいである。
旅先で食べるコーンフレークは、何よりも「今ここにいる」という感覚を思い出させてくれる。
目の前は世界遺産の石畳。
耳をすませば朝の風と、通勤の靴音と、ハトの羽音。
特に筆者は乳糖不耐性(Lactose Intolerance)の体質を持つので、牛乳を飲むと高確率で腹が下る。
公衆トイレですら有料であるヨーロッパではかなりのリスクであるが、仕方ない時もある。
筆者「これが貧乏バックパッカー朝食界のビッグ3である。」
ベルギー王室御用達『ゴディバ』本店
グランプラスの朝は寒いけど優雅だ。
清掃車が去ったあと、石畳の広場に響くのは、パン屋の開店準備の音と、冷たい風と、筆者の腹の音──
だが、今朝は特別なミッションが待っていた。
そう、あの…
ベルギー王室御用達『GODIVA』本店突撃である!
「ただのチョコでしょ?」なんて言ったやつは人生半分損している。
何を隠そう、ここベルギー・ブリュッセルの中心グランプラスに本店を構える『GODIVA』は、ベルギー王室御用達のチョコレートブランド。
高貴なロゴ、荘厳な石造りの建物。
「よくバックパック背負ってここまで来たな」と自分を褒めたい。
よく見ると、ゴディバのショーウィンドウに工事業者が脚立で貼りついている。
どうやらガラス面のフィルムを貼り替えているようだ。
いや、いい。
こんなことで引き下がるバックパッカーではない。
開店時間は午前9時、オープンまでまだ1時間以上ある。
だが筆者は奇跡を信じてゴディバ前でずっとその作業を見ていた。
バックパックと共に(←戻る場所が無いという意思表示)
奇跡が起きた
すると、ゴディバの気品そのもののような雰囲気をまとった店長?らしき女性が出てきて筆者にこう言い放った。
「あなた、さっきからずっとそこにいるわね」
……はい。
「特別に、あなただけ先に中に入れてあげる。製造工程も見せてあげるわ」
(;゚д゚) !!?
筆者(驚愕)
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください、これは夢ですか?」
いや、これは現実だった。
まだ開店30分前。
それなのに筆者は、静まり返ったゴディバ本店に一人だけ通され、なぜかスタッフと一緒にチョコレートの製造現場を見学している。
これはもはやVIP待遇。
そして、筆者が中にいるのを見てもうオープンしていると思って入ってきた観光客に、店長が優しくこう言った。
「Sorry, we open at 9. Please come back later.」
うんうん、君も30分待ちたまえ。
筆者は「選ばれしチョコ旅人」だからね(←違う)
というより、多分NGだった。
あの店長の笑顔と、チョコの甘い香りと、あの空気感は、心のSDカードに保存されている。
『GODIVA』の名前の由来とロゴの意味
ところで、非常に有名な話だがGODIVAの名前の由来とロゴの意味をご存知だろうか?
GODIVAのHPにバッチリ載っていた。
「ゴディバ」の名は、11世紀の英国の伯爵夫人レディ・ゴディバに由来します。
「ゴディバ」のシンボルマークである、馬に跨った裸婦こそが、重税を課そうとする夫を戒め、苦しむ領民を救うために、自らを犠牲にした誇り高き彼女の姿です。
(出典:GODIVA HP)
ロゴは、髪の長い裸の女性が馬にまたがっている様子を表している。
このロゴの由来を簡単に説明しよう。
1043年、イギリスの小さな町コベントリーの領主が町を発展させるために大修道院を建設した。
修道院は宗教的・社会的活動の中心になり大成功!
この成功を経て、領主はどんどん公共の建物を建設し市民の税金も増やしていった。
しかし領民は次第に重税に苦しみ始める。
そこで領主の妻レディ・ゴディバの登場である。
夫に税金を引き下げるように何度も何度も訴え、遂に根負けした領主が、
「ようし。もしお前が一糸まとわぬ姿で馬に乗りコベントリーの町中を周る事ができたら、その時は税を引き下げてやろう」
と言ったのだ。
翌朝、レディ・ゴディバは約束通り一糸まとわぬ姿で町を周った。
領主の妻という社会的地位の高い女性が、である。
しかし予めそんな噂を耳にしていた領民たちは絶対に見るまいと窓を閉ざして彼女に敬意を表した。
そして領主は約束を守り、遂に税は引き下げられたとさ。
なんと、これは実話らしい。
このロゴの女性、シルエットだけでもどれほど美人だったかが想像ができる。
現代なら窓は閉ざしてもカメラで盗撮されるだろう、一部の変態野郎に。
え、いや、ぼくはそんな事しませんよ、ははは…。
そして開店時間になり、GODIVA製品をいくつか買って店を後にした。
ベルギー王室御用達、世界中で愛される高級チョコレートブランドのゴディバ(GODIVA)の公式サイトです。…
さて、旅友であるエリとの集合時間が近づいてきた。
小便小僧
エリと無事に合流。
しかしそれだけではない。
実はこの日、ブリュッセルのグランプラスで、もう一人の共通の旅友と会う約束をしていた。
その子の名前はレナ。
筆者(嫉妬)
「タダでヨーロッパ…?こっちは石畳にテント張って宿泊代浮かしてるんやけど…」
そんなレナと、筆者、そしてエリの3人がブリュッセルの中心で一瞬だけ集結したのである。
3人、束の間の再会
グランプラスで待ち合わせし、向かったのは──
そう、小便小僧!
ブリュッセルといえばこの「世界三大がっかりスポット」にも数えられる伝説の像。
小便小僧の銅像の前でレナの記念写真
まあレナは他にも行くところがあったようで、ここで一緒に小便小僧だけ見て少し散歩してお別れした。
本当に一瞬の邂逅であった。
ジェントルマンの定義「駅まで送る」を華麗にこなし、レナをブリュッセル中央駅で見送った。
じゃあレナ、元気でなー。
安全に旅しろよー。
……と言いつつ。
実は1週間後にドイツのフュッセンという町で再会予定である。
それもシンデレラ城として有名な、あのノイシュバンシュタイン城で。(ドヤ顔)
完全に伏線回収コースである。
レナを見送ったあと、街中をぶらぶらと散歩。
筆者(ふと気づく)
「小便小僧、街中にめっちゃいるやん。」
観光客向けに色んな衣装着てたり、サイズ違いだったり。
「小便小僧ラリー」なる遊びが成立しそうなほど種類が多い。
そんな中、エリが突然テンションを上げた。
エリ「えっ、このお店可愛いー♡」
そう言って、一人チョコレート屋さんに吸い込まれていく。
その背中には……やたら生活感あるグレーのリュック。
とんでもなく貧乏バッパー感を醸し出している。
「うわ、だっさ(笑)」
と思った読者の方、エリを責めるのはやめて頂きたい。
あのリュックは筆者が彼女に無理矢理押しつけて渡したものである。
オシャレでかわいい20歳女子が選ぶデザインじゃないのはすぐにわかるだろう。
世界三大がっかり「小便小僧」再び
もはや何百回と語り尽くされてきた話ではあるが、あえてもう一度だけ言わせてもらう。
小便小僧は世界三大がっかりの一角である。
これを見て「おぉぉぉおおおお!!!!」と感激した者が、この地球上に何人存在するのか聞いてみたいものである。
まず、物理的に小さい。
写真で見るとなんだか堂々としているが、実際に見るとびっくりするくらい小さい。
例えるなら、道端の水道の蛇口からポタポタ垂れてる水に感動しろって言われてる感じだ。
周囲にはそれなりの人だかりができているが、皆、心の中では思っているはずである。
「……え、これ?」と。
たしかに小便小僧には“衣装チェンジ”という粋な試みが存在する。
シーズンごとにコスプレしており、イベント時期には「クリスマス仕様」「警察官」「サッカー選手」などに変身している。
努力している。
しているのは分かる。
むしろ頑張っている。
だが、問題はサイズ感である。
頑張っているのに存在感がないという、極めて哀しい構図がそこにはある。
ブリュッセルまで来てこれだけかよ、と思ったそこのあなた
気持ちはよく分かる。
私もそうだった。
だが、ここで落ち込むのはまだ早い。
小便小僧に心を折られた旅人を癒してくれる場所が、ベルギーにはちゃんと用意されている。
そう、水の都とも称される超絶美しい街――ブリュージュだ。
(出典:Visit Bruges or Brussels in Belgium with Cunard)
ではがっかりしたところで、ベルギーの超美しい町と言われるブリュージュへ向かいましょう。
ブリュッセル中央駅からたったの1時間。
筆者「まあ…小便小僧は“ウォーミングアップ”だったということで……(震え声)」
ブリュージュへ
※本記事はブリュージュの美観に比して内容がきわめて貧弱である。
理由は筆者の荷物が重すぎたことで歩き回ることができなかったためだ。
読者諸氏の期待を裏切ることとなり、深くお詫び申し上げる。
さあ、ブリュージュに着いた。
ガイドブックにも「まるで中世の絵本の中のよう」と称される美しい町並み。恋人と手を繋いで歩くのが似合う町ランキング堂々の上位(筆者調べ)。
しかし。
現実はそう甘くなかった。
筆者の背中には、旅の疲労とロマンとコーンフレークが詰まった超重量バックパック。
ブリュージュに着いた直後の感想がこちらである。
筆者「……あ、これ無理なやつだ。」
そもそもこの町に来た理由も、「テント張れそうだったらここに泊まろう」くらいの適当さ。
だがそのテントを張る気力すら、荷物の重さに粉砕されたのである。
街は本当に美しい。
これは本当だ。
しかし美しい町並みよりも、肩の痛みのほうが強烈だった。
恐らくエリには「え、また休憩すか?このおっさんだるいわ~」と思われていたに違いない。
「せっかく来たのに観光してへんやん」と嘆く読者もいよう。
分かる、分かるのだ。
だが実際には、「ブリュージュすげぇ美しい」と感じる前に「おれの背中、崩壊寸前なんですけど」と思っていたのが現実である。
今回はほとんど街を歩くことなく、観光名所もロクに見ず、風のように去った。
だがここであえて断言する。
筆者「ブリュージュはめちゃくちゃ美しいので、ベルギーに行くなら必ず立ち寄るべし!!!」
自分もロクに観てないのに?と思った方、そうである。
観ていなくても分かるレベルで美しい町だったのだ。
Welcome to Bruges, the multi-faceted UNESCO World Heritage C…
風車の町キンデルダイクへ
筆者はエリにこう告げた。
「今日はもう、このままオランダまで行って寝よーや」
…この一言で、ブリュージュの観光は幕を閉じた。
というより、そもそも幕は上がっていなかったのだが。
疲労困憊。
荷物は重い。
建築の知識はない。
ないない尽くしの旅人2人は、さっさとオランダへと向かうことにした。
オランダは言わずと知れた自由の国。
麻薬合法、売春合法、チーズ合法、木靴合法(←当たり前)。
そんな自由な国には、世界中の“自由すぎる変態たち”が集結する。
筆者「3回目だが、また来た。今度は“変態の護衛”として。」
今回、筆者がオランダへ向かったのは、友人エリがどうしても行きたいと言い出したからである。
そしてこのエリという女性、治安が良かろうが悪かろうが全力で観光を楽しむタイプの女子。
いや、筆者はそんなリスクテイカーでエレンのように自由な心を持つエリが大好きなのだが(←旅友として)、なんせご両親から「うちの娘をお願いします」と言われているのだ。
筆者の目が届かない場所でリスクテイクされていたら、ハッキリ言って困る。
ということで、当然何かあったら即ゲームオーバーになるため、筆者が用心棒として帯同する運びとなったのだ。
本記事は、2017年に行ったヨーロッパ一人旅の記録を振り返るものであり、オランダの首都アムステルダムでの滞在を中心に、当時の思い出をゆるりと綴っていく。 第二次世界大戦中にユダヤ人のアンネ・フランクが実際にナチスから身を隠してアン[…]