実用性ゼロ、情報賞味期限切れ、読むだけ無駄——そんな三重苦な内容だが、それでもなお「読んでみよう」という奇特な方のために、ここに置いておく。
筆者は2018年4月と2019年5月にキューバを訪れている。
その時に思い知らされたキューバの通貨の闇。
キューバの通貨は一言で言うと、「ちょっとした脳トレ」である。
財布の中を覗けば、同じ「ペソ」と書かれた紙幣が2種類。
左がCUP、右がCUC
見た目も金額も似ているのに、使える場所が違う。
なんだこの間違い探しは。
キューバには、観光客用のペソ(CUC)と、地元民用のペソ(CUP)が並存していた時期があり、
「オレは一体どっちのペソでココナッツジュースを買えばいいのだあぁぁぁぁ」
と真顔で悩む羽目になる。
しかもお釣りで返ってくるのは謎のペソ、まるで通貨のガチャガチャである。
銀行で両替したら「これは観光客用だよ」と言われ、屋台で使ったら「そっちのペソじゃねーよ」と言われる。
もうこれは通貨じゃない、試練だ。
というわけで、そんなキューバ通貨迷宮を生き抜くための知恵を授けよう。
では早速始めよう。
キューバのややこしい通貨事情
有名な話だが、キューバは二重通貨制度を採用している(いた。)
その名も「CUC」と「CUP」である。
文字も発音もややこしい上に、使い道まで違う。
もはや通貨界の双子詐欺である。
簡単に言えばこうだ。
CUC:ドルと同じ価値を持っていて、観光客向けの通貨
CUP:ドルの1/25の価値を持っていて、キューバ国民用の通貨
筆者もはじめは全く理解できなかったので気持ちはわかる。
なのでもっとザックリと説明しよう。
CUC:
観光客向けの通貨で、観光地のレストランとか宿泊費はCUC払い。
つまり「お金持ってる観光客用の通貨」
CUP:
キューバ国民用の通貨で、現地の人のための安いレストランとかはCUPで払う。
つまり「国民の質素な日常生活を成り立たせる通貨」
なお、これを知らずにCUCしか持たずに地元の食堂に行くと、あからさまに「観光客価格」でふっかけられる。
知らぬは観光客ばかりなり。
一番恐ろしいのは、見た目がめちゃくちゃ似てるということ。
紙幣のデザインも色もパッと見で判別困難。
おまけに数字も“ちょっとした目の錯覚”みたいなフォントで書かれており、もはや脳トレである。
財布にCUCとCUPが混ざると、支払いのたびに一瞬フリーズ。
「これどっちの世界の通貨だっけ?」と自問自答する日々が始まる。
でも安心してほしい。
慣れる頃には「通貨を間違えて多く払う芸」をマスターしているはずだ。
お釣りは現地民の微笑みとともに返ってくる(高確率で足りない)。
【1CUC = 25CUP】が鉄則!
例えば、同じような見た目・味・サイズの料理でも、観光地のレストランでは7〜8CUC(つまり7〜8ドル)、一方で地元民ご用達の場末レストランなら55CUP(およそ2ドルちょい)で出てくる。
まさに「同じ鍋から取り分けたのに価格は別世界」という摩訶不思議現象である。
なお、上記のような地元民用レストランでは、メニューに表示されるのは基本CUPである。
これがもしCUCで表示されていたら…それはもう観光客狙いの超絶ぼったくりレストランである可能性が高い。
値段を見てヒゲも凍る。
基本的にキューバの物価はとても安い。
が、油断してCUCだけを使って旅行していると、気づけば「ヨーロッパにいるのかな?」というくらい財布が軽くなっていく。
観光客価格、侮るなかれ。
しかし、CUPをうまく使えば話は別。
果物のフローズンジュースは4CUP(約15円)、ピザは20CUP(約80円)、バス代に至ってはたった1CUP(約4円)という信じがたい価格で旅を満喫できる。
財布が喜び、胃袋も踊る。
(CUCでの値段)
とはいえCUPは地元民のための通貨であり、外国人があまりにも派手にCUPばかり使っていると、ちょっと白い目で見られる可能性もある。
そこは旅人としてのマナー、良心とバランス感覚に任せたい。
とにかく、「同じキューバでも払う通貨でまるで別世界」なのがこの国の面白さである。
観光客か、ローカル気取りか。
あなたの旅のスタイルに合わせて、うまく使い分けるべし。
実際に通貨を使ってみた感想
たとえば、1日に10回ほど買い物をして、そのたびにお釣りをもらうとしよう。
断言する。
8~9回は微妙に小銭が足りない。
いやもう、これはキューバ名物であり、もはや国技である。
初心者キラーもいいところだ。
1CUC=25CUP。
そしてそれぞれに紙幣と硬貨がある
(このあたりの詳細が知りたい奇特な方は、後で解説コーナーへどうぞ)。
まるで手品師である。
「そんなの余裕っしょ」と思ったそこのあなた。
甘い、実に甘い。
ここから先はちょっと計算や細かい話になるので、「えー数字とかムリ」な方は、スキップしてOK。
(と言っても小学校の四則演算ができれば理解できると思うが)
ただし、読み終えたあとにキューバで財布を開いた瞬間「これ読んどけばよかった…」と後悔するのはあなたである。
» CUCとCUPの使い分け(実例)
キューバの通貨の闇 実例➀
まずはキューバのショップに置いてある値札を見て頂こう。
これらの価格はすべてCUC表示である、つまり観光客向けの通貨だ。
たとえば0.60CUCのカミソリを買う場合、1CUC紙幣かコインを出せば買える。
ここまでは簡単だ。
問題はお釣りである。
常識的に考えれば、(1CUC – 0.60CUC=)0.40CUCのはずだ。
しかしここはキューバ、何が返ってくるかは運とノリ次第である。
CUCで返ってくればラッキー(すぐに計算できるから)
だがCUP(地元民通貨)で返ってくるケースもある。
その場合、1CUC=25CUPなので、0.40CUCのお釣りは25×0.40=10CUPとなる。
理論上は、5CUPコインが2枚返ってくるはずだ。
ここまで大丈夫かな?
厳しいことを言うが、こんなとこでつまづいているようではキューバではボッタクリの大群に襲われること間違いなしである。
理論上は5CUPコインが2枚返ってくるはずだが、現実にはなぜか5CUPコインが1枚しか手元にない。
脳内で「ん?計算ミスか?」と悩んでいる間に、後ろの客が会計を終え、レジは次の客へと進んでいる。
意を決して「お釣り足りてまへんけど?」と関西弁でクレームを入れようものなら、
「¿Eh? ¿De qué hablas?」
(は?何のこと?覚えてないし)
という不機嫌丸出しの態度と雑なスペイン語対応で撃退される。
つまり、財布よりも忍耐力とユーモアが求められる国、それがキューバなのである。
では次の例にいってみよう。
キューバの通貨の闇 実例②
表示に「10.00」や「15.00」とあるが、これは全てCUP表示である。
そらそうだ、キューバでピザ1枚が15CUC(=1600円)もするわけがない。
というわけで、15CUPのピザを1枚買うシーンを妄想してみよう。
財布から1CUC(観光通貨)をヒョイと出し、会計をする。
正解は㋐10CUPもしくは㋑0.4CUCのどちらかである。
どっちでも良さそうだが、問題はその中身である。
例えば10CUPの場合──
➀5CUPコイン2枚!わかりやすい!ラッキー!
……と思いきや、
②1CUPコインが5枚+5CUPが1枚という、財布の重量に優しくない構成で返ってくることもある。
なかには1CUPを10枚で返してくる猛者もいる。
ここまでの話、理解できたならあなたはもう中級キューバ人である。
……混乱してる?
大丈夫、それが正常。
キューバの通貨は混乱してナンボ、という伝統芸能なのだ。
キューバの通貨の闇 実例➂
↑これらの数字はすべてCUP表示である。
CUPとは、キューバ庶民の生活を支えるやさしい通貨だ。
では、75CUPの料理を注文したとしよう。
「25CUP=1CUCだから……えーっと、75÷25で……おお!ちょうど3CUC!わかりやすっ!ラッキー!」
と思ったあなた、残念。
まだキューバの罠に気づいていない。
ここで立ちはだかるのがキューバの「気まぐれ税率」である。
実はレストランでは基本的に10%の税金が加算される。
つまり、75CUPの料理は82.5CUPになる。
そこであなたは、スマートに4CUC(=100CUP相当)を差し出す。
「これでお釣りは……17.5CUPだな!」と内心ニヤリ。
だが、返ってくるのは15CUP。
「足りないじゃないか!2.5CUP消えてるぞ!」
しかし、その場で一瞬で気づくことはできない。
なぜなら、このやりとり、全て数秒で完結するからである。
そしてキューバ人の笑顔とスペイン語に押されて
「まあ、いっか」
と諦めるのが観光客の様式美。
ようこそ、キューバ通貨トリックランドへ。
お釣りは自己責任、財布は常に冷静に。
» 折りたたむ
このように、キューバの通貨事情はまさに混沌である。
しかもそれぞれに紙幣とコインが存在するのだから、初めて訪れた旅行者の脳内は通貨大パニック状態になるのが当然だ。
お釣り争いはゲーム?
筆者も最初は財布の中を見ては「え?これどっち?CUP?CUC?…で、何枚?」と完全に迷子モードだった。
そんな混乱をよそに、あるホステルのキューバ人オーナーはこう言ってのけた。
「それはゲームなんだよ、観光客との知恵比べさ」
と。
いやいや、それは世界基準では詐欺って言うのだが。
そう、彼らにとって通貨操作はエンタメなのである。
そして残念ながら、こうした「通貨マジック」はめちゃくちゃ多い!!
気づいたときには、「あれ?20CUP足りなくね?」と呟く自分がいるのだ。
通貨ゲームに負けないよう、常に財布と冷静さをキープされたし!
一番良いのは釣りが出ないように支払うだが、それが無理でもなるべくお釣りが少なくなるように支払った方がいい。
釣り銭不足をその場で訴えてみた
キューバ共和国の世界遺産「ビニャーレス」という町のとある店で買い物をし、レジの上に置かれたお釣りを見た瞬間、
「いや、これ明らかに足りひんやん」
と直感が告げた。
「いくら足りないか」まではわからなかったが、店員の女性に「おいおい足りませんぜ奥さん」と詰め寄ると、なんと彼女、手の内に隠していたコインをスッと取り出し、何事もなかったかのように(とても自然に)既に置かれていたお釣りにしれっと混ぜてきたのである。
筆者「あっ!!おまわりさんコイツです!!!」
そのうえ彼女は、「え?最初からこうでしたけど?」とでも言いたげなあきれ顔+舌打ち気味の溜息。
これがキューバ、通貨ミスリードと心理戦の国である。
一筋縄ではいかないとは、まさにこのことである。
どうやってCUCをCUPに変えるのか?
CUCをCUPに換えるにはどうするか?
答えは簡単、街中に点在する両替所(カデカ)である。
観光客はもちろん、地元民も観光業で得たCUCをCUPに換える必要があるため、これらの両替所は常に小さな行列ができている。
筆者にも忘れがたい思い出がある。
初めての両替時、5000円分のCUCを持って勇んでカウンターへ。
しかし、渡されたCUPを数えて愕然とした。
「え…半分しかない!?これは詐欺では!?ゴルァァァァッ!」
内心で絶叫しながら、怒りに震えて両替所に戻り、スタッフに食ってかかったところ、冷静に一言。
「ちゃんと合ってますよ」
計算してみると、確かにその通りであった。
完全なる勘違い。結果、ものの見事に恥をかいた。
なぜこんなことが起きたのか?
それはCUCとCUPの紙幣がほとんど見た目が同じだからである。
色合いもサイズも似ており、印刷された偉人の顔でかろうじて判別できるレベル。
旅行者の多くがこの「そっくり双子紙幣トリック」に引っかかる。
ゆえに、両替時には通貨単位をしっかり確認し、「あれ?減ってる?」と思ってもまずは深呼吸してから再計算することを強く推奨したい。
おわりに
このように、かつてのキューバの通貨事情は実にややこしく、旅行者の財布と心を同時に打ちのめす難敵であった。
だが、時は流れ、2025年現在ではCUP(キューバ人民ペソ)が唯一の法定通貨と正式に定められている。
おかげでもう通貨の複雑さを利用したぼったくり被害に遭う心配はほぼなくなった。
全国のキューバ旅行者の皆さま、安心してほしい。
もう「CUCってなに?」と頭を抱える必要はない。
……が、正直なところ、筆者はちょっぴり寂しい。
通貨の混乱というカオスを通じて、あの国のユニークさが際立っていたのも事実なのだ。
今は整ってしまったが、あの「通貨迷路」こそがキューバの魅力の一部でもあった気がしてならない。
とはいえ、魅力は通貨だけにあらず。人も街もリズムも太陽も、すべてが個性的なキューバである。
では、次はキューバの路地裏でお会いしよう。
終わり。