2018年4月後半——筆者はついに、あの伝説のカリブ海の浮遊要塞「キューバ」へ、たった1週間という儚くも濃密な旅路に身を投じた。
これはその冒険の全記録——いや、もはや壮大なる叙事詩のプロローグである。
記憶の断片をつなぎあわせ、もはや誰も頼んでいないのに勝手に筆を執り、あの熱帯の太陽とラムの香りにまみれた一週間を、全力で、誇張と偏見と愛を込めて、諸君にお届けしようではないか。
準備はいいか?
日焼け止めとハバナへの憧れを胸に、いざ出発である。
どこにあるの?
まず最初に声を大にして言いたい——
キューバという国は、地図で見ると「えっ、これホントに国なの?」と疑いたくなるほど赤くて小さな島である。
(赤いのは筆者のさじ加減なのだが)
場所はというと、あのアメリカ様のフロリダ半島のすぐ下、南にちょこんと居座るように浮かんでいる。
まるで「ちょっと待って、私も混ぜて」とでも言いたげなポジションだ。
そしてそのキューバをぐるりと囲むのが、そう、「カリブ海」だ。
カリブ海!なんという響きだろう。
「カリブ海」と聞いた瞬間、脳内には即座に「透き通る青」「エメラルドの輝き」「ヤシの木の下で寝そべる自分」という、もはや現実逃避が過ぎる映像が自動再生される。
要するにキューバは、
- 地図では豆粒
- 現地では混沌
- そして頭の中ではすでにリゾート気分
という、三拍子そろった奇跡の島なのである。
どうやって行くの?
キューバに行く手段、それは……そう、たった一つしか存在しない。
それは何を隠そう、「空から舞い降りる」ことである。
つまり、飛行機だ。
ほかには?……ない。夢も希望も浮き輪も、ここでは無力である。
筆者は当初、地図をじーっと見つめながら、こう思った。
「おっ、キューバって島やん。これ、船とかフェリーでサクッと安く行けるやつやな」──と。
しかしそれは甘かった。
スイカに塩をかけたくらい甘かった。
海から来ようものなら、国境警備隊に止められるか、どこかの海賊に間違われるだろう。
さて、節約を旨とする貧乏バックパッカーにとって、「飛行機を使う」という選択は、もはや敗北宣言にも等しい。
「空を飛ぶ?そんな贅沢していいのかオレ!?」
と葛藤しつつも、結局筆者は泣く泣く、いや飛ぶ飛ぶ、ロサンゼルスからパナマを経由し、キューバの首都ハバナへと舞い降りたのである。
ここで補足しておくと、アメリカとキューバの関係というのは、まあ簡単に言えば「微妙」である。
仲良くしようとしてはいるものの、昔のケンカが尾を引いている。
小学校の頃に文房具を貸してもらえなかったのを、未だに根に持ってるレベルの微妙さである。
キューバの歴史はこちらで易しく解説している。
どうも、旅する歴史マニア(見習い)のRYOである。今回の記事では、これからキューバに行こうと目論むそこの君、そう、そこの旅人予備軍のために──いや、正確には未来の自分のために、キューバの歴史をギュギュっとまとめてみた。[…]
よって、アメリカからキューバへ直行するというのは、今なお一筋縄ではいかない。
そんなこんなで、キューバに降り立った時の筆者の第一声は、「長かった……これ、ホンマに休暇か?」であった。
キューバ入国の渡航理由
キューバに行くには「ちょっとバカンスで〜♪」などという軽いノリでは通用しない。
United Airlinesの公式サイトにもハッキリと記載されている。
「特定の理由を持った者のみ、入国を許す」と。
つまり、言い訳が要るのである。
堂々とした、それっぽいやつが。
許可される渡航理由
フライトのご予約またはご搭乗手続きの際に、渡航理由の確認を求められます。
現在、キューバへの渡航許可は、一般的なライセンスと特別ライセンスの2通りの方法で取得できます。
一般的なライセンスの規則および条件を満たしている場合は、特別ライセンスを申請する必要はありません。
キューバへの渡航に関する一般的なライセンスには以下の13のカテゴリーがあります。
- 家族の訪問
- 政府関連公務
- ジャーナリズム活動
- 専門的な研究または会合
- 教育活動または団体での人的交流
- 宗教活動
- スポーツおよび公的イベント
- キューバ国民支援
- 人道的プロジェクト
- 研究
- 情報資料
- 認可輸出取引
- 一時渡航のキューバ国民
(引用:United Airlines)
要するに、「ただの観光目的では入国できない」ということだ。
世界屈指のリゾートにして観光禁止。
なんという矛盾。
しかし、我々人類はこうした障壁を乗り越えるために、知恵と屁理屈を身につけてきた。
筆者が選んだのは、栄えある選択肢の第8番──
「キューバ国民支援」
……支援?筆者?何を?どうやって?
──その答えは明白である。
なんという説得力。
なんという自己肯定感。
使えば使うほど支援になる。
飲めば飲むほど国際貢献。
葉巻を吸えば「経済を回している」と胸を張れる。
完璧すぎる理論武装である。
結果、まったく問題なく、スムーズに入国できた。
なにせ筆者は「支援者」である。
支援者に門は開かれる。
キューバの地に足を踏み入れたその瞬間、筆者の脳内ではファンファーレが鳴り響いていた。
したがって、これからキューバに行こうと思っている諸君、渡航理由で頭を抱える必要はない。
堂々と「支援」に行くのだ。
財布片手に、使命感を携えて。そして一言だけ心の中でつぶやこう。
「オレの散財が、キューバを救う──!」
【必須】キューバ入国時の持ち物
入国時にキューバの門番たち、もとい空港職員たちににっこり求められるのが、以下の2点である。
- ツーリストカード
- 海外旅行保険証明書
さあ、これが「聖なる二枚札」。
飛行機を降りたその瞬間に、「あっ、ないんですけど…」などと言おうものなら、すぐさまUターンである。
問答無用で強制リターン。
では、それぞれ簡単に紹介しよう。
ツーリストカード
これは
「私は観光客です!しかも怪しいことは何もしません!」
という誓約書みたいなものである。
パスポートでは足りない、信頼されない、もっと言え、もっと証明しろ──
それがこのカードの存在意義である。
注意してほしいのは、これ、機内ではもらえない。
「チキン オア ビーフ?」と聞いてくれる親切なFAさんですら「ツーリストカード」は渡してもらえない。
そう、自力で入手するしかない。
手に入れる方法は「キューバ ツーリストカード 入手」とかでググれば山ほど出てくるのでここでは割愛する。
が、筆者はそれすら怠り、現地で手に入れようとした。
結果、パナマの空港でキューバ行きの飛行機に乗る直前、「Copa Airlinesのカウンター」で奇跡的に在庫アリの1枚をゲット。
筆者は運で生きているタイプである。
もしもボックスで「もしもあの時、ツーリストカードの在庫が無かったなら」と叫べばきっとこうなっていただろう。
筆者「ツーリストカードください」
職員「ありません」
筆者「またまた~(笑)え、じゃあキューバへは?」
職員「行けません」
筆者「じゃあ?」
職員「とりあえず飛行機のキャンセルと予約し直し、キューバの宿のキャンセル、その他予約しているイベントは一度全てキャンセルすね。」
筆者「4万円で予約していた一泊二日のカリブ海クルーズは?」
職員「もち、キャンセルっすね。」
筆者「おわた。」
職員「あ、本日の宿も探しといた方がいいすよ」
きっとこうなる。
空港職員に「もう在庫ありません」と言われた瞬間、あなたのキューバ旅は終了である。
旅の始まりが、出発ロビーでの絶望になってしまう。
さらに重要なのが、このカード、出国時にも使う! という衝撃の事実。
入国時にツーリストカードはパカッと2つに裂かれ、半分はキューバに没収、残りの半分はあなたが大切に保管する。
出国時、職員に「ツーリストカードは?」と訊かれた際に、「え、あれまだ必要なん?捨ててもたあぁぁぁぁ」とハバナ空港を揺るがす大パニックに陥り、カバンを全てひっくり返した挙句、奇跡的にパスポートカバーにひっついていたのである。
それがなければ出国は……。
海外旅行保険証明書
ツーリストカードだけ用意して安心してはダメ!
もう一つの試練がこの「海外旅行保険の付保(=付帯保険)証明書」。
しかもただの証明書ではない。
英語またはスペイン語でなければならない。
いくら日本語で「ばっちり保険入ってます!」と言っても、向こうはポカーンである。
付保証明書のサンプル
これも無いと入国できない。
ここでの救世主が「クレジットカード」。
実は多くのカードには「いつの間にか」海外旅行保険が付いている。
筆者も「え?保険の証明ってなに?」と完全に脳がフリーズしたが、カード会社に電話一本で解決。
「キューバに行くんで、英語(またはスペイン語)で保険の証明書を郵送してください」
これだけ言えばOK。
あとはカード会社の魔法使いたちが、数日後に郵便で証明書を送ってくれる。
早めに動くべし。
街中の移動
キューバを旅する者にとって、「街中の移動手段」とは、ただの移動ではない。
それは、押し寄せるタクシーの荒波を乗りこなす旅人の修行場であり、超格安バスとの根気比べである。
タクシー
筆者がキューバでまず驚愕したのがこれ。
「タクシーのキャッチ攻撃、異常!!」
街を歩けば3秒ごとに
「ヘ〜イ、タクシー?」
「ニーハオ!タクシー?」
「ハーイ、タクシス?」
と、世界各国の挨拶で「人種当てクイズ」を仕掛けてくる運転手たちの大行進。
その数、1日100回超。
こちらが「歩きたいんすけど」と言ってもお構いなし。
「歩くな!乗れ!」という圧が、キューバ全土に満ちている。
そしてキューバのタクシーは基本、乗り合い制。
つまり、同じ方向に行く他人と一緒に乗る「超ラテン式相乗りタクシー」だ。
料金も区間制で決まっていて、なんと10CUP(約40〜50円)という破格。
そう、50円でクラシックカーに乗れる国、それがキューバ!
しかもこのクラシックカー、1950年代から時が止まったかのようなアメ車ばかり。
ピカピカに磨かれたボディ、グラマラスなフォルム。
そこにゴージャスな女性がサングラスで登場し、風を受けて走り抜ける様子は、まさに「映画のワンシーン」──
いや、現実離れした日常である。
当然ながら、観光客は「移動する財布」と見なされており、ぼったくり対象ランキング堂々1位。
値段交渉は慎重に、そして毅然と!
彼らの笑顔に油断してはならぬ。
バス
そしてバス。これはもう爆安すぎて笑うレベル。
区間内の運賃、1CUP──つまり約4円。
もう一度言おう、4円である。
バスの神様、どうなってる。
この料金設定を見る限り、筆者は一瞬「40円あればキューバの最果てまで行けるのでは?」と本気で思った。
しかしこのバス、安さの代償として常時地獄の混雑。
そう、バスとは運賃は小銭、だが忍耐は大枚。
悠々と乗れると思ったら大間違い。
そこには、老若男女の「座席争奪戦」という名のバトルロイヤルが待っている。
トラック
さて、ここで真打登場。
キューバの移動界に君臨する裏ボス的存在──
それがトラックバスである。
そう、トラックである。
荷物を運ぶあのトラックに、人間が乗る。
いや、詰められる。
巨大なトラックの荷台に無理やり天井とベンチを設置しただけの、ワイルドすぎる車両。
別名「カミオネータ(Camioneta)」──もはやこれは動く収容所か、
地元民限定アトラクションである。
シートベルトもないこんな状態で荷台に載り、高速道路を爆走することも多々ある。
もちろん運賃はバス並みに激安。
キューバの南端から北端まで878kmの距離をわずか12CUC(1,800円)ほどで移動できた。
その時のエピソードはこちら。
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ただし、快適性はというと…
振動で骨が再構築されるレベルであった。
キューバに行ってみた正直な感想──タイムスリップと文化衝突のカリブ絵巻
キューバを発った飛行機の中で、筆者が震える手でメモに走り書きした魂の所感を、ここに包み隠さず記しておく。
- 「行けば人生観が変わる」──これはガチである。
- キューバ人の9割は「怒り方を知らない」説。
- 時刻表?そんな近代的な文明、キューバにはまだない。
- 水牛と馬車が高速道路を走る──実話である。
- 5分に一本来るといわれるバスを1時間待ったおれ
- とにかく交通機関が安い。
- クラシックカーのテーマパークかと思った。
- マクドナルド?スタバ?なにそれ?状態
- 地理の大学教授の月給が15ドルらしい。
- ふっかけ率100%。ただし“単価は安い”ので怒れない。
- 複雑なキューバの通貨事情を理解していない観光客は無限ぼった地獄に陥る。
- 湿度が狂っている。裸で寝ても汗をかく。
- リユース精神、マジで尊敬。
- Free Wi-Fi?そんなの都市伝説。
- 首都ハバナでも英語は全滅。
【結論】行くなら今だ、迷ってる場合じゃない!
キューバという国は、まさに時代の狭間に浮かぶ魔法の島である。
アメリカ資本が一度流れ込んだら、その魔法はあっという間に消え去るだろう。
古い建物、ゆっくりと進む時間、エンジン音を響かせるクラシックカーのパレード。
それらはもはや、地球上のどこにも残っていない光景だ。
だからこそ、行くなら「今」だ。
ちなみに訪問のベストタイミングは「5月1日」!
この日はメーデー(労働者の日)で、ハバナでは国家規模のとんでもないパレードが行われる。
朝6時から「うわ何この人の波⁉」レベルの大行進が始まり、地元民も観光客も関係なく、全員テンション爆上がり。
人生で一度は観る価値あり。
いやむしろ、観ずに死ぬと損する。
おわりに
今回は、筆者の実体験をもとにキューバの基本的な情報をお届けした。
「飛行機でしか行けない島国」「クラシックカーの楽園」「英語が通じない首都」など、文字にすれば奇妙のオンパレードだが、どれも事実である。
筆者としては、キューバという国が未来永劫、このままであってほしいと心から願っている。
アメリカ資本がまだ流れ込んでおらず、人々の生活が素朴で、リユースの精神に満ち、時間すらゆったりと流れている国など、もはや地球上にほとんど残っていない。
普通の海外旅行では決して味わえない、言語化できない何かが、そこには確かに存在する。
「旅慣れた人ほど、キューバには驚く」──
それがこの国の不思議な魔力であり、だからこそ強くオススメしたい理由でもある。
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きっとあなたの中にも、旅の意味が少しだけ変わる瞬間が訪れるはずだ。
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おいおいキューバ人頼むぜ~(゜.゜)筆者は2018年と2019年で合わせて17日ほどキューバに滞在し、様々なものを見たり聞いたり多くの人と触れ合う中で「自分の人生観が広がったな」と本当に思いました。そう思わせてくれた[…]
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皆さんはご存じだろうか?キューバがWi-Fi砂漠であるという事実を…。筆者は現地に降り立って初めて思い知らされた。「フリーWi-Fi? なにそれ美味しいの?」と。そう、キューバには無料Wi-Fiという[…]
今回は、キューバの首都ハバナから世界遺産にも登録されている町「ビニャーレス渓谷」への行き方をご紹介する。実はタクシーを使ってもそこまで高くはないのだが、ここではキューバ流、つまりトラック移動に挑戦してみたい。キューバ[…]
是非!なるべく早く!キューバへ!