今回は、キューバの首都ハバナから世界遺産にも登録されている町「ビニャーレス渓谷」への行き方をご紹介する。
実はタクシーを使ってもそこまで高くはないのだが、ここではキューバ流、つまりトラック移動に挑戦してみたい。
キューバ国内の長距離移動ではトラックが多用される、トラックでの旅はあなたの冒険心をくすぐること請け合いである。
早速始めよう。
キューバでのトラックの有用性
キューバでトラックは乗るべきか?
――その答えは「YES」である。
キューバという国において、トラック移動は単なる移動手段ではなく、旅そのものの一部である。
なぜなら、それは安くて、便が多くて、何より冒険心をくすぐるからだ。
冒険心をくすぐる
トラックを乗らずにキューバは語れない!
まずはこれである。
隣町までの移動をタクシーで済ませたり、ローカルバスでゆるく移動したりするのも悪くはない。
だが、せっかくこの不思議の国キューバに来たのなら、トラックでの長距離移動にぜひ挑戦してもらいたい。
荷台に揺られながらの数時間――それはもう「移動」ではなく「体験」だ。
圧倒的な安さ
これも重要なポイントだ。
南の果てから首都ハバナまで、880kmの移動がたったの12CUC(≒12ドル)だった。
まさに破格である。
都市間移動の相場感としては、200~300kmで1~2CUCが一般的。
この安さは、貧乏バッパーにはもちろん、お金に余裕があっても「旅を感じたい人」には魅力的に映るはずだ。
その時のエピソードはこちらで。
時は2019年5月。アメリカ大陸を渡り歩いた大冒険を終え、ついに3週間ぶりに祖国・日本の土を踏んだ。そして本日で帰国4日目。キューバ滞在に伴って野菜という文明の象徴が圧倒的に不足した結果、筆者の腸はストライキ[…]
トラックは“走っている”、つまり“使える”
トラック移動はローカルならではの手段ではあるが、決して使いにくいわけではない。
むしろその逆で、主要都市間では必ずと言っていいほどトラックが走っている。
しかも便利なことに、時刻表などは存在しない。
つまり、「いつ来るかわからないけど、そのうち来る」。
これが意外にも良くて、「ちょっと早めに行って、来たら乗る」というだけで何とかなってしまう。
「計画どおりにいかないこと」が前提のキューバ旅では、逆にこの柔軟さがありがたくすら感じる。
ビニャーレス渓谷
キューバの観光地として「ハバナ」や「トリニダー」は比較的有名だが、「ビニャーレス渓谷」と聞いてすぐにピンとくる人は少ないのではないだろうか。
今回はそんな知る人ぞ知る世界遺産、ビニャーレス渓谷(Valle de Viñales)について軽く紹介しておこう。
ビニャーレス渓谷は、キューバ西部のピナール・デル・リオ州に位置する広さ132㎢のカルスト地形の渓谷である。
場所で言うと、首都ハバナの西に広がるオルガノス山脈(Sierra de los Organos)の北側に位置しており、まさに**「キューバの秘境」**といった印象を受ける。
この渓谷の特徴は以下の通りだ。
- 美しい自然地形(カルスト台地)
- 伝統的農法によるタバコ栽培
- ハイキングやロッククライミングが盛ん
- 断崖「モゴーテ(mogotes)」が象徴的存在
- 洞窟や鍾乳洞が点在している
つまりひとことで言えば、
ということになる。
ハバナからビニャーレス渓谷へ
では、そんな魅力あふれるビニャーレス渓谷にはどうやって行くのか。
まずは地図で距離感を把握しておこう。
出発地:ハバナ(La Habana)
目的地:ビニャーレス(Viñales)
距離:約210km
所要時間:車で約3時間強
キューバの道路状況を考慮すると、バスやトラックで行く場合はもう少しかかるが、日帰りも可能な距離感である。
わかりやすい行き方ガイド
まずは簡単なフローチャートで全体像を把握してもらおう。
それぞれの地点をGoogle Mapsに記してある。
総運賃は・・・?
ズバリ、2CUC+2CUPである。
日本円にして、たったの約300円くらい(2025年レート換算)
信じられんレベルで安い。マジで。
注意点としては、トラックの運賃は完全にドライバー次第なので、同じルートでも3CUC請求されることもある。
財布には優しすぎる。
筆者の場合は、「ハバナ→途中の町」が2CUC、「乗り換え後→ビニャーレス」が2CUP(≒10円)という破格の乗り継ぎだった。
ハバナ市内からトラック乗り場まで
まず、あなたはハバナ市内のどこかにいます(←ザックリ)
まあ、旧市街あたりにいると思っておきましょう。
なんかバスいっぱい走ってますよね?
その中から…P12のバスに乗って頂きたい。
激安である、価格設定が昭和の駄菓子レベルである。
コンビニのビニール袋より安いとかどうなってんの。
乗る方向は「市内から離れる方向」である。
間違えて反対方向に乗ったら、どこか知らん村まで連れて行かれるので注意(←実話
降りる場所はこちら。
「100 y Boyeros(シエン・イ・ボジェロス)」
読めません。たぶん地元民も読めてません。
スマホでこの文字をバスの運転手に見せましょう
「アミーゴ、ここで降りたいんすけど」で通じる。
言葉が通じなくても、ジェスチャーとスマイルがあれば無敵である。
「100 y Boyeros」のバス停
こんな感じの場所で降りる。
バスが歩道橋の下に差し掛かったあたりで降車ボタンを連打し、「ここだ!」という気迫で降りることが肝要である。
バス停からトラック乗り場までは歩きます
さて、降りた場所からトラック王国までは徒歩10分ほど。
Google Mapでは「車で1.8km」とか表示されるが、歩く!!!
旅人だもの。
高速道路の脇を歩くことになるが、心配無用。
違法ではない。
少なくとも、筆者が捕まったという話は聞かない。
そしてまーっ直ぐ歩くと
歩き続けると、遠くに見えてくるのが赤・青・黄のカラフルな物体たち。
よく見ると人が群がり、荷台に乗り込んでいる。
バス乗り場からPinar del Rioへ
そこにはすでに無数のカラフルトラックが停車しているはずである。
読者諸君の多くは、
「この中のどれがPinar del Rio行きなのか?」
と不安になるだろう。
心配は無用。ほぼ全部がPinar del Rio行きである。
…が、「たぶん」なので、念のためドライバーに確認した方が無難だ。
筆者も読者も、恐らくスペイン語の文法など知ったこっちゃないレベルだと思われる。
しかし、そんな我々にも伝わる呪文がある。
それがこちら。
「ディス カミーオン トゥ ピナール・デル・リオ?」
声は自信満々に。
語尾は上げ気味に。
カミーオンとはスペイン語で「トラック」。
トゥは英語の「to」。
ピナール・デル・リオはそのまま地名。
まさに直訳の力技であるが、驚くほど通じる。
トラックに乗り込もう!
「おぅ、ピナール・デル・リオだよ」とドライバーが頷いたら、あとは運賃を払い、好きな席に座るだけ。
トラックの内装は、もはや“乗り物”というより“移動式鉄の箱”。
だからこそ、座席選びが極めて重要である。
「窓際一択!」
これに尽きる。
なぜなら、トラックにはクーラーなどという貴族的な装備は存在しない。
頼れるのは、走行中に横から吹き込む天然の暴風のみ。
この風が最高に気持ちいい。
髪はボサボサになるが、旅人の顔が晴れやかになる。
それが窓際の特権である。
筆者は前回も同ルートのトラックに乗車した。
そのときは木製のベンチが硬すぎて尻が崩壊しかけた。
が、今回のトラックはちょっとマシであった。
運と車両の当たり外れが激しいのも、またキューバらしさ。
~約2時間半後~
トラックは目的地「Pinar del Rio(ピナール・デル・リオ)」に到着する。
読者諸君、ここまで来れば、
世界遺産・ビニャーレス渓谷まではあとわずかだ!
Pinar del Rioから目的地であるVinalesへ
長距離トラックに揺られること約2時間半。
気がつけば、あなたはピナール・デル・リオという町の、どこかに突然放流されることになる。
ピナール・デル・リオ着ッ!!
ドゴーン!!(効果音)
あなたは今、ピナール・デル・リオに着地した。
場所?知らん。完全に野生の勘で進め。
地図のどこにも書かれていない場所で「じゃ、ここでバイバイ!」という斬新な下車システムである。
とはいえご安心を。
だいたいの場合は市内中心部、バスセンターの近くで降ろされる。
今回はそこを起点に話を進めていこう。
まずは、バスセンターからひたすら歩く。
地味に遠い。
景色も代わり映えしない。
つらい。
道中、何の前触れもなく現れるのが…そう、5CUPアイスである。
約20円、地球温暖化すら許せてしまう清涼感。
これぞ合法ドラッグ。
口の中が冷たくなり、頭が少しだけ冴える。
さあ、まだ見ぬビニャーレスを目指して、再び歩を進めよう。
とりあえずひたすら歩く。
正直、このあたりの景色はどこも同じに見える。
「あれ?さっきここ通ったような…でも角度が違う気も…いや…デジャヴ?」
これを真っ直ぐ行くと奇跡の橋に到達する。
※橋への行き方は色々あり、この景色はほんの一例である。
不安になったら地元民に尋ねればよい。
もはやGPSではなく「人類の勘」が頼りだ。
橋を渡ると、不意に現れるのがこの看板(※なにかは知らない)
この看板を越えてすぐ、文明の象徴「大きなガソリンスタンド」が見える。
さらにその手前にファーストフード屋が出現。
ここが本章のハイライトである。
ここで筆者は決意する。
「食料高騰地帯・ビニャーレスに挑むには、ここでピザとサンドイッチを大量確保せねばならぬ!」
上記価格はCUP表示。
ピザは最安で1枚10CUP(40円くらい?)くらい。
筆者行きつけのピザ屋さん
ハムと卵のサンドイッチ
まさに低価格の暴力である。
バックパックの容量と胃袋の限界を秤にかけながら、全力で買い込む。
ガソリンスタンドを右手に、先の交差点を左折すれば、見えてくるのがビニャーレス行きのローカルバス停である。
目印は、緑色のやる気ゼロのバス。
しかも運賃は破格の1CUP(約4円)である。
車内は暑い。
座席はちょっとベタついている。
でも気にしてはいけない。
これは冒険なのだ。
ビニャーレスに着いたら…
ついにあなたは、あのビニャーレス渓谷へと到着した。
いや、到着「させられた」と言うべきか。
何も言わずに運転手がバスを止め、「降りろ」みたいなジェスチャーをしたら、それがビニャーレス到着の合図である。
この谷は、自然・文化・エキゾチック・ほこり・湿気が入り乱れる、
カオス系癒やしゾーンである。
さてここから、あなたの冒険は完全自由行動だ。
もう一度言おう、好きにしてくれ!!
乗馬のツアーもある。
木に登って野生を思い出してもよし。
※ハバナで知り合って一緒にビニャーレスまで旅した同志
キューバ産の葉巻を吸う、買うことだってできる。
ここは自然の中で、五感と肝臓とお尻の筋肉をフル活用して楽しむ場所である。
- 馬と共に風になるもよし
- 洞窟でモヒート片手にトランスするもよし
- 葉巻をくゆらせて自分に酔うもよし
- 犬と一緒に町を支配するもよし
精一杯楽しんでくれ。
おまけ
もしあなたが「どの曜日にビニャーレスへ行こうかな」と迷っているなら、答えは明白である。
土曜日である。
何故なら──
土曜の夜、街の中心部では「サルサダンスパーティー」なるものが開催され、1CUCの入場料で本場のサルサダンスを見ることができるのだ。
場所は町の中心、観光客と地元民が入り混じる謎の野外ダンスフロア。
オープンエアであるにもかかわらず、湿度と熱気とラテンの色気で満ちている。
自分で踊るのも良し、人が踊っているのを見るのも良し。
ダンス?観戦?どちらでもよい。とにかく熱くなれ。
フロアでは、女性も男性も、照明も音響も関係なく、自分の魂に従って踊っている。
見ているだけでも十分に楽しい。
腰の動きが…いや、なんでもない。とにかくすごい。
だが、せっかくなら参加してほしい。
見知らぬキューバ人が手を差し伸べてくるので、とりあえず乗っかっておけばよい。
お持ち帰りもあり
さて、このサルサパーティー、ただのダンスイベントではない。
はっきり言って、ナンパ上等・恋愛乱舞のカオス空間である。
泊まっていたホステルのオーナーが、あっけらかんとこう言っていた。
今日はサルサのパーティーあるよ〜!
女の子お持ち帰りしても全然いいよ。
ってか普通にあることだからね。
でもベッドもう一人分だから、それはちゃんと追加で払ってね〜!
うーむ、完全にシステム化されている。
サルサで出会い、ラテンの風に吹かれ、そして請求書が来る──
これぞキューバの恋愛経済学である。
おわりに
さて、キューバの首都ハバナから世界遺産であるビニャーレスまでの行き方を解説した。
安さと冒険のにおいに満ちたキューバ流トラック移動から、Pinar del Rioでのピザとサンドイッチの爆買い、そしてビニャーレス渓谷の自然と、葉巻と、土曜夜の情熱のサルサパーティーまで。
この旅のなかで、Google Mapは役に立たないし、スペイン語も通じたり通じなかったりだ。
だが、それでも進んでいけば何かが起こる。それがキューバという国の醍醐味である。
もしこの記事を読んで「なんかちょっと行ってみたいかも…」と思ったなら、その気持ちはもう半分キューバに到着しているのと同じである。
あとは飛行機を予約するだけだ。
そしてその時はぜひ、トラックに乗ってくれ。
君が乗ってるそのトラック、きっと次は「冒険」っていう名前なんだぜ(キザ)。
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