【ヨーロッパ旅行記】スイス、ツェルマット【8/10】

この記事を読むのにかかる時間: 5

2015年のヨーロッパ旅、親友と一緒に訪れたスイスの町ツェルマット

美しい街並みと歴史的な建物が立ち並ぶこの都市で、私たちの旅はどんな思い出を作り上げたのだろうか。

街を歩きながら感じたこと、出会った人々、そして忘れられない出来事を振り返りながら、あの日々の思い出をつづっていこうと思う。

前回の記事はこちら。

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ツェルマット滞在記

ツェルマットはスイスの町でありながら、実はイタリア国境にほど近い場所に位置している。

国境を意識せずとも文化が入り混じるような空気が流れていて、その独特の雰囲気がまた魅力的でもある。

そしてここでひとつお知らせ。
ツェルマットがいかに美しい町かという点については、別記事にて詳しく紹介しているので興味のある方はぜひこちらもチェックしてみてほしい↓
(※別タブで開く)

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スイス ツェルマット

さて、先に正直に白状しておくとーー

今でこそツェルマット大好き人間の筆者だが、実はこの町に来るまではマッターホルンという山にもツェルマットという町にも、これっぽっちも興味がなかった。

山?登山?ふーん、そう…って感じで完全にスルー対象だった。

そんな筆者がこの町を訪れることになったのは、完全に親友のプレゼンの熱量によるものである。

親友「ツェルマットっていう町から見るマッターホルン、ほんま最高やねん」

この一言に尽きる。もうこのセリフだけで旅程がほぼ決定したようなもんだった。

筆者にとっては未知の町、未知の山。

しかし今では「人生で訪れてよかった町ランキング」堂々のトップに君臨している、それがツェルマットである。

ツェルマットに着くまでの車窓が既に美し過ぎる(*´ω`*)

フランスの首都パリから、スイス・イタリア国境付近の山岳リゾートツェルマットへは、電車でおよそ7時間の大移動となる。

途中、Lausanne(ローザンヌ)やVisp(ヴィスプ)といった駅での乗り換えを経て、都市の喧騒は徐々に薄れ、車窓に映る風景は山、そして川、また山…という完全な大自然モードに突入していく。

おい、こんな美しい景色の前でなに寝てんねん、オマエ。

がったんごっとんとリズム良く揺れる車内、そしてチラ見せしてくるアルプスの谷間。
まるで映画のワンシーンのような空間にいながら、同行者の親友は爆睡中である。

「お前の方が興味あったんちゃうんかい!!!??」

がったんごっとん~♪

そしてツェルマット駅に到着である。

そしてついにたどり着く終点、ツェルマット駅。

そう、ここは終点なので寝ていようが起きていようが強制的に到着する。
ある意味ありがたい(笑)

ツェルマットのWolliちゃん

終点・ツェルマット駅に降り立ち、まず迎えてくれたのはこの町のマスコットキャラクター、Wolli(ヴォリー)ちゃん。

もふもふの羊のような見た目で、まさに山岳地帯の癒し系代表といった風貌。
パンフレットでは、いつも子どもたちに囲まれて笑顔をふりまいているのだが、筆者はというと――

スイス、ツェルマット

「Wolliちゃん、どうも初めまして(ペコリ)」

旅先でこうしたキャラクターに遭遇すると、なぜか挨拶してしまうのは日本人の性だろうか(笑)

そこから宿へ向かって歩くこと約10分。
予約していたのは、Matterhorn hostel(マッターホルン ホステル)という宿。
3泊する予定だ。

ツェルマット駅を出るとすぐ、道沿いには高級ブランドやアウトドア用品のショップがずらりと並ぶ。

「え、ここほんまに山の麓の村…?」と目を疑うほど、洗練された町並み。

グッチ、モンブラン、ノースフェイス、あと名前読めへんスイスブランドたちが軒を連ねていて、登山客というよりもパリコレ帰りみたいな人までいる。

山に登る前に買い物欲が刺激されるという、恐ろしい罠が張り巡らされている町なのである。

一目惚れ、そして・・・

というわけで――
地図もWi-Fiも使わず、勘だけを頼りにツェルマットの町を歩き回る筆者たち。

何となく「こっちかな~」という感覚で進んでいくと、見えてきたのが…

SPARKY’Sと書かれた建物。

「…なんかこの建物、ちょっと宿っぽくないな…?カフェバーかなにかか?」

と思ってたら、ほんまにカフェバーでもあるらしい。

でもちゃんと下階がホステルになってて、ここが正解。

そしてドアを開けたその瞬間――

「……ん?」


チェックインカウンターに立っていたのは、陽気でよく笑う受付の女性。
どシンプルな空間に、ぱっと咲いたような笑顔。

大しておもしろいことを言ってもいないのに最高の笑顔を振りまいてくれる。

チェックインの書類を記入している際も、筆者と異様に顔が近い。
(完全にキスできる距離)

チェックインのやりとりだけで、まさかのハイタッチまで。

とりあえず、めちゃくちゃ可愛い♡


ChatGPTに描かせてみたが、全然違った…

そんな彼女に完全に心を奪われた筆者、一目惚れである。

今になって思うと、一目惚れした理由は3つあった。

  1. 初対面とは思えへん外国人特有の陽気さ(50%)
  2. 山岳リゾート民特有の鼻とほっぺだけ日焼けしてる感じ(30%)
  3. 単純に筆者の好みの女性だった(20%)

日本の無菌環境から、いきなり山岳リゾートの陽気オーラ空間に投げ込まれたような感じ。

陽射しでちょっと赤く焼けた鼻と頬、それを彩る屈託のないリアクション、距離感の近さ、あれは筆者にとって完全に新しい世界だった。

ちなみに筆者の隣にいた親友には、

「おまえ、耳も顔も真っ赤やぞ。人が恋に落ちる瞬間、初めて見たわ(笑)」

と言われたほどである。

…が、そんな運命的(?)な出会いにもかかわらず「その人から離れた瞬間、顔が思い出せない」という珍現象に見舞われる。

いくら記憶をたどっても、顔のディテールが出てこない。
服の色や髪型、なんとなくの雰囲気は覚えてる。

でも顔だけ、どうしても浮かんでこない。

これはなかなかの拷問である。

その後、ツェルマットを離れてからどうしてもあの人の顔を思い出せないので、親友に「覚えてるうちに絵だけでも描いてくれ」と頼んで描いてもらった絵がこちらである。

……まぁ、うん。特徴は出てる気はする。でも…これ見ても、やっぱ顔は思い出せない。

好きな人の顔だけ思い出せない

皆さんもそんな経験ありませんか?

実はこのテーマ、調べてみると多くの人が同じ経験をしていることがわかったのである!!!!!!

筆者なりにちょっと考察してみた。

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世界一の物価の高さを痛感

スイスという国は「糸の一本から値段がついている」と言われるほど、物価が世界一高いことで知られている。

この言葉、冗談でも比喩でもなく、滞在中まざまざと思い知らされた。

我々はツェルマット駅に着いた直後、3泊分予約していたホステルに歩いて向かっていたのだが、その道中、晩ご飯の候補を探すべく何軒かレストランの店先に掲げられたメニューを覗き込んでいた。

ブリュッセルでも物価の高さには驚かされた経験がある。ラーメン一杯で14ユーロ(日本円で約1,700円超)。それを見た瞬間、即退店したのは記憶に新しい。
(詳細は以下の記事を参照)

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「スイス?世界一の物価?ふふふ、もう俺たち、そう簡単には驚かんぞ」

と、完全に物価耐性がついた風を装いながら、メニューを覗いてみた。

ところが、ところがである。

そこに記されていた料理の価格は、我々の耐性をあっさり破壊するものだった。

チキンカレー:約3,000円

ステーキ:約7,000円

これは冗談ではない。むしろ笑えない。

一瞬で「外食」という選択肢は消えた。
しかもこの店だけが異常だったわけではない。通り沿いにある他の店を何軒見ても似たり寄ったりの価格帯。

要するに「スイス標準」なのだ。

結局、我々が導き出した晩飯の最適解はというと、味のないパンとヨーグルト。

栄養? そんなものは知らん。とにかく予算を守るのが最優先であった。

「節約旅行」と「絶景を楽しむ旅」は、果たして両立するのか――。

スイスにて、人生初の哲学的命題に直面することとなった。

スイスと言えばチーズフォンデュ

その後、一目惚れしたホステルの受付の彼女に「このあたりで美味しいチーズフォンデュの店を知りませんか」と訊ねたところ、彼女は少し眉をひそめながら「その時間なら、もう閉まってるかも」と言った。

「え~~、スイスと言えばチーズフォンデュやのに……まじかあぁぁ。」

と、子どものように残念がってみせたところ、愛しの彼女(←)は少し考えた後、手元のパソコンで無理に探してくれ、さらに電話をかけて予約まで取ってくれたのだった。

優しい♡

好きな人のする仕草は、風が葉を揺らす音のようにやさしく、目線ひとつ指の動きひとつに理由もなく胸があたたかくなる。

たとえ誰かにとってはなんてことのない癖でも、ぼくには光のように思えて、話す言葉も、歩く速さも、笑ったあとにできる沈黙さえもすべてが美しく、すべてがありがたい。

そんな詩がスッと頭に浮かぶほど筆者は恋をしていた。

ちなみにその店のチーズフォンデュは一人30フラン。日本円にしておよそ3,600円(2025年4月のレートでは5,000円を超える)ほど。


宿を出てチーズフォンデュに向かう筆者(キモイ)

高い……が、スイス基準で言えばこれはむしろ安い。

チーズフォンデュとは、知っている人も多いと思うが、熱してトロトロに溶かしたチーズにパンやじゃがいもを浸して食べる、シンプルながら奥深い料理である。

料理が運ばれてくると、店員が「飲み物はいかがですか?」と訊いてきた。
こちらは節約旅行中。
おそらく500mlのウォーターだけで700円くらい取られそうだ。

毅然とした態度で、

「No drinks, thank you.」

と答えたのだが、それが彼女ら(店員)のツボに入ったらしい。

店員は爆笑しながら「オーケーオーケー」と言い、そのままドイツ語で他の客たちに何かを言ってさらに大笑いが起きた。

たぶんこう言っていたのだろう。

「この客、ドリンクも要らんやって~(爆笑)坊やたち、明日からの食事は大丈夫?www」

いや、そこまで言われたわけではない(はず)だが、そう感じるくらい、場の空気が明るくて楽しかったのは事実だ。

なお、このチーズフォンデュ、想像以上にワインの風味が強かった。おそらく、チーズを煮る際に白ワインを惜しみなく注いでいるのだろう。

その結果どうなったかというと――

親友、見事に酔う。

帰り道、わずか5分の距離なのに

親友「……悪い、ちょっと休憩させてくれ」

何度も立ち止まり、顔を真っ赤にしていた。

本人曰く、「おかしいな……あんなんで酔うはず無いねんけど……頭クラクラするわ……」ということだったが、よく考えてみてほしい。

ここツェルマットの標高は1,600メートル。

いわゆる「ワンマイル・シティ」だ、アメリカのデンバーと同じレベルの空気の薄さである。

※筆者は空手の世界大会で何度かデンバーで死闘を繰り広げたことがあるが、全力で動くとまじで一瞬で息が切れる。わずか1,600mなのに、平地とは別格でしんどいのだ。

つまり――

標高 × ワイン=即酔い

これ、テストに出る。

皆さんも、ツェルマットでの飲酒にはくれぐれもご注意いただきたい。

チーズフォンデュからの帰り道、愛しの彼女に会うために自然と足が速くなる。

そして帰路、すっかり上機嫌になって宿に戻り、「せっかくだし、もう一度あの受付の彼女と話してみよう」と受付を訪れるも、彼女の姿は無かった。

あれ?と思って外に出ると――

冷たい夜の空気の中で、彼女は静かにタバコをふかしていた。

「な…んだ…と…?」

タバコを吸う女性は恋愛対象として完全に「ナシ」というのが、昔からの自分の信念である。

どれだけスタイル抜群なブロンド美女であっても、タバコ吸う人間は恋愛対象から即除外と思っていた。

その信念が一瞬揺らいだ、そんな夜だった。

同じ部屋の日本人との会話

チーズフォンデュからホステルへ帰宅後、同じ部屋に標準語を話す日本人男性(年上)がいた。軽く世間話をしていたとき、不意に面白い出来事が起こった。

年上「おれさー、行きの飛行機でStand by me観たんだよー」

筆者「へー、あ、ぼくらチェコでスタンドバイミーしてたんすよー(笑)」

年上「stand by meしてた?(数秒の沈黙後)でもスタンドバイミーって泣けるよね」

筆者「あー… 泣ける、か、な?あ、泣きましたか?笑、、、どこが泣けるんですか?」

年上「いや、ドラえもんとのび太の友情泣けるじゃん?」

筆者「え、ドラえもん?のび太?」

この時点でようやく、お互いの認識にズレがあることに気づいた。

どうやら彼が話していたのは、3DCGアニメ映画『STAND BY ME ドラえもん』だったのだ。

一方こちらはというと、チェコで電車を強制的に降ろされ、仕方なく線路の上を歩いていたあの日――あの状況を親友と「うわ〜、スタンドバイミー してるやん(笑)」と笑い合っていた、まさにアメリカ映画の『Stand by Me』のワンシーンを思い出していたのである。

チェコ プラハ
電車を急に降ろされ最寄り駅まで歩かされた(これをスタンドバイミーと呼んでいた)

いや、そもそもドラえもんバージョンのスタンドバイミーがあったなんてその当時の筆者は知らなかった。

ちなみに客観的に会話を聞いていた親友は、話が噛み合ってないことにすぐ気づいていたらしい。

それにしても――同じ単語を使っているはずなのに、これほどまでに話が食い違うことってあるのだろうか。

いや、あるんです。ヨーロッパでも(笑)

それがここにきてフリになってるというだけである、以上!!

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2288mのスネガ展望台へ

翌朝、とりあえず「マッターホルン見ときゃツェルマット来た意味あるっしょ!」ということで、ホステルを出た。

まずはスーパーマーケットで朝食を調達。ヨーグルトとパンを手に取る。

ドイツやチェコで1ユーロ以下のサラミに慣れてしまった身としては、ここスイスでそれの3〜4倍の値段を見て、「いや、君はそんな高貴な存在やったんか?」と問いたくなる。

スイスよ、糸に値段がつく国とは聞いていたが、サラミにも貴族の血が流れてるのか。

さて、筆者たちは当初は登山鉄道「ゴルナーグラート鉄道」で3,130mの展望台を目指す予定だった。

「山が見たい?登ればええやん?(電車で)」

その鉄道、往復でおひとり様76フラン(2015年3月当時)。

日本円で当時のレートだと約9,400円。

2025年4月現在、往復96フラン(現在のレートで約17,000円)である。

ゴルナーグラード鉄道の最新情報はこちら

まあまあ高えなおい……でも、マッターホルン見れるなら、払う価値はあるっしょ?

と、財布の口を開けようとしたそのとき――

親友さわとバチンッと火花が散った。

親友「え、そんな金出すん?信じられん……おれは出せへんわ。」

筆者「え、わざわざスイスのツェルマットまで来てそこ節約する!!?」

親友「ちゃうねん、マジで金ないねん。今回も家族に金借りたくらいやねん。」

筆者「え、行く一択やろ。おまえの要望でツェルマット来たんちゃうんかい?」

親友(ジーっと筆者を睨む)

筆者「いやいやいや、モンサンミッシェルでおれがひとりでオムレツ食べたこと、まだ根に持ってんのか?」

親友「おまえ、またおれ置いて山行くつもりやろ?」

筆者(図星で黙る)

結局「ツアーは2人で、これコモンセンスな」という暗黙の旅ルールに従い、ゴルナーグラート鉄道はお蔵入り。

※結局その翌年に一人でゴルナーグラード鉄道で山上駅まで行ったのだが…(笑)

代わりに、「似たようなもんやろ」精神でスネガ展望台(2,288m)へケーブルカーで向かうことに。

こっちはお値段控えめ。財布も親友もニッコリである。

2025年4月現在、時期によって変わるが往復23~31フラン(現在のレートで約4,000円~約5,300円)である。

スネガ展望台の最新情報はこちら

ちなみに後から知ったのだが、このスネガ展望台、歩いても登れる。

ええ、徒歩で。自分の足で。スニーカーで。

冬季はもちろん雪と氷でえらいことになってるが、それ以外の季節なら普通に散歩気分で行けるらしい。

この翌年と翌々年に、計3回ほどSunneggaまで自分の足で登ったが、この遊歩道は超おススメだ。

マッターホルン ツェルマット

↑こんな感じの道をひたすら45分から1時間ほどハイキングするだけである。

マッターホルン

いざスネガ展望台に到着すると、目の前には「ドーンッ!」とマッターホルンが構えていた。


Sunnegga展望台からの眺め

まるで「ようやく来たか」とでも言わんばかりの風格である。

あまりの雄大さに、声が出なかった。
あの、氷の刃のように尖ったシルエット。
完璧な独立峰。シンプルに、そして圧倒的に、かっこいい。

筆者「この山、美しすぎやろ…」

カメラのファインダー越しに見ても、この感動はきっと1割も伝わらない。
風の音、鼻を突く山の空気、足元から響いてくるような大地の鼓動――

これは写真じゃ無理だ。動画でも無理だ。現地に立たなきゃわからんやつだ。

チェックイン逃して野宿したとか(プラハ)、ホステルのシャワーが水しか出なかったとか(3月初旬のパリ)、物価が高すぎてパンしか食べてないとか(スイス)、そんな諸々の憂いがぜんぶ吹き飛んだ。

眼前に広がるのは、言葉をなくすほどの絶景。

だから言う。行ける人は行ってください。スイス。マッターホルン。ほんまに人生変わるかもしれん。

ちなみに、下のタイムラプスはこの時のものではなく、2年後にテントを担いで再訪したときの朝焼けである。

この朝焼けを見た瞬間、筆者は確信した。

これ、32年間の人生で一番感動した自然風景である。

あのオーストラリアのど真ん中で、赤土の砂漠に沈む夕陽でさえ、このマッターホルンの朝焼けには敵わなかった。
(※ちなみにそのオーストラリアの砂漠テント泊についてはこちら↓)

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ヨーロッパの買い物袋は超丈夫だった

ヨーロッパを旅していて地味に驚いたことの一つが、スーパーの買い物袋の異常なまでの頑丈さである。

感覚的な話で恐縮だが、「この袋、連結したら車引っ張れるんちゃうか?」ってレベルで強い。

あの袋、たぶん鋼鉄の糸か何かが練り込まれている。あるいはドラゴンの鱗か。

少なくとも、日本の「レジ袋」とはまるで別の生き物である。持った瞬間に「これはもう袋という名のアウトドアギアやな」と確信した。

ちなみに、袋で滑ってる写真がこちら。


滑っているのは筆者(後ろにマッターホルンが見える)

2015年当時のスマホの映像なので画質は粗いが、動画も残っている。
(奇跡的に見つかった)

ちなみに筆者は体中を打ちつけ散々な目に遭ったが、買い物袋は無傷だった。

この袋、日本に帰ってからも用途の幅が広い。

  • 洗濯物入れにしてもびくともしない
  • 登山で雨が降っても中身はノーダメージ
  • 突然の地震でも中に猫を入れて避難できる(※試してません)

正直、お土産屋でよくわからんマグネットやらキーホルダーを買うくらいなら、この買い物袋を数枚買って帰る方が圧倒的に実用的である。

筆者はもちろん複数枚買って帰った。

もう、家宝クラスである。

スキーには気を付けて

その夜も、恒例となりつつあったヨーグルト&パンの貧乏飯をかき込みながら、自分たちの部屋(6人部屋)で親友と他愛もない話をしていたときのことである。

ギュッドン、ギュッドン……

突然、廊下の向こうからスキーブーツのあの独特な足音が近づいてきた。
音の方向をぼんやりと見ていると、そこには外国人女性が一人、ドアの前に立っていた。

(ん?この音…まさか同じ部屋の人か。これは挨拶せな)

「Hello!」と声をかけると、彼女も「Hi」と返してくれた。
そのまま彼女は長椅子に腰を下ろし、スキーブーツを脱ごうとした彼女の顔を――筆者は、見てしまった。

いや、正確には見てしまったというより、見た瞬間に脳がフリーズした。

そこには、顔面パンッパンに腫れあがり、両頬には青紫のアザ、ところどころに血、唇はたらこ3本分、片目は完全に閉店ガラガラ状態の彼女がいた。

ぎゃあああああ\(゜ロ\)(/ロ゜)/

本当に漫画でしか見たことのないような「ボッコボコの顔」だった。

あれを目の前で見ると、脳が「現実だ」と認識するまでに5秒はかかる。
しかも、それが女性だったのだ。

筆者と親友は一瞬目を見合わせた。いや、親友はすぐ視線を外していた。気まずさがその場の空気を完全に支配していた。

いやほんま、Google画像検索で「顔 ボコボコ」と調べてヒットする最もグロい画像だと思って欲しい。

「えっ、現実にこんな顔存在するん?」

失礼だがそう思った。

おそらくスキーで派手に転倒でもしたのだろう。

骨は折れていなかったとしても、心が折れててもおかしくない外傷レベルである。

今の自分なら「どうしたんですか!!?だ、大丈夫ですか!!?」と話を聞こうとしたかもしれない。
でも当時の筆者は――

そっと目を逸らしてパンの袋を閉じた。

人間、ショックを受けたとき、まずするのは「見ないフリ」なのだ。

朝焼けのマッターホルンがとんでもなく美しい

あのホラー顔の女性が夢に出てくることもなく、無事に朝を迎えることができた。

この日は気合いを入れて、目覚まし×男気のダブルアラームを発動し、朝4時半に起床。

三月初旬のスイスの朝は尋常じゃなく寒い。

しかし今回は違う。今日ばかりは「寒さ」よりも「絶景欲」が勝った。

寝袋から這い出る時点でまず一度心が折れる。顔を洗う水が痛い。靴が冷たい。全てが敵だ。

だが、それを乗り越えた者だけが見ることのできる景色がある。

前日に見つけておいた「マッターホルンが一番キレイに見えるスポット」まで、まだ真っ暗な道を歩く。
ガイドも人影もない。あるのは冷えた空気と踏みしめる雪の音だけ。完全なる孤独。完全なる修行。

到着後、空が明るくなるまでの30分、筆者はスマホを懐に入れて温めながら、じっと空を見つめていた。

そして――
ついにその時が来た。

マッターホルンの頂上に、ひとすじの光が差した。

最初はほんの小さな輝き。だが次第にその光は山全体を包み込み、赤、橙、そして金色へと染まっていった。

息を呑むとは、こういうことだと思った。

朝焼けがマッターホルンを炎のように染めていく様子は、まるで大自然の神が舞台の幕を開けた瞬間のような神々しさだった。

カメラ(この頃はまだiPhone 5C)で撮影しながらも、あまりに感動してシャッターを押す手が止まることもしばしば。

実際には何十枚も撮ったのだが、ベストショットのみを厳選して載せておいた(↓参照)。

これは本当に、人生で一度は見ておくべき光景だと思う。

朝はつらい。でも、あの景色のためなら、また何度でも凍えたいと思った。

"Matterhorn Hostel"のコスパは最高

翌朝。

受付にはもう、あの女性の姿はなかった。
結局、何も伝えることができないまま、我々はツェルマットを去ることになった。

言いたいことのひとつやふたつあった気もするが…まあ、それも旅の余白ということにしておくか。

その後1年間も顔が思い出せない彼女を片想いをするとは筆者自身も思っていなかった。

滞在したマッターホルンホステルは、スイスにしては驚くほどリーズナブルだった。
食事はつかないものの、素泊まりで一泊たったの25ユーロ(約3,000円)。

この物価モンスター国家で、これはもはや奇跡としか言いようがない。

共有の自炊場兼食卓スペースもなかなかにおしゃれで、ウッド調の家具に囲まれながら、椅子に腰かけてパンとヨーグルトをもぐもぐ。

壁にはスノーボード、棚には洋書――
「スイスの山小屋ライフ体験版」とでも言いたくなるような空間だった。

帰り道、ツェルマット駅まで歩く。

と、ホームにはどこかやんちゃそうな若者がずらり。

この少年たち、なぜこんなにイキった態度なのだ。

特にコイツ。

スイス ツェルマット 駅

君はいったい筆者たちに何をしようとしていたのだ?

両手をポケットに突っ込んでカッコつけちゃって…ほんと意味不明である。

「ああ、まだいたい。もうちょっとだけでいいから、ツェルマットにいたい。」

心の中でそう何度も呟きながら、泣く泣くその場をあとにした。

ドイツのノイシュバンシュタイン城へ

名残惜しいが、ついにスイスと別れを告げる時が来た。

最後の目的地は、あの有名な「白鳥城」ことノイシュバンシュタイン城。
その麓の町、フュッセンへ向かうことになる。

さようなら、ツェルマット
さようなら、マッターホルン
さようなら、愛しのあの人

これもまた旅の効能。切なさすら土産にしてしまうのが、バックパッカーである。

さて、気を取り直して次の目的地へ。

ノイシュバンシュタイン城――ディズニーランドのシンデレラ城のモデルにもなったといわれるこの城は、芸術と幻想に身を捧げた“狂王”ルートヴィッヒ二世の執念の結晶である。

我々はお城マニアじゃないが、こういう「ロマンを拗らせた男」にはちょっと共感してしまう。

雪に閉ざされたアルプスを抜け、今度はバイエルンの静かな丘の上へ。

夢のつづきがまだ、待っている。

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