2017年12月20日から2018年1月10日まで、カタール航空のモニター募集に合格し、ヨーロッパを無料で旅する機会を得た。
今回はその旅の中から、フランスの都市リールでの滞在についてお伝えする。
» モニターのお話(クリックで開く)
このモニター旅は、書類審査でヨーロッパ旅行にかける思いを綴るところから始まった。
そこから、カタール航空の関係者との面接までをクリアし、数々の制約もすべて了承した上で、ヨーロッパ行きが実現した。
さて今回のテーマはズバリこれだ!!!!! どうやったら海外にタダで行ける『モニター募集』を勝ち抜けるのか 自慢だが、筆者は人生初のモニター募集に見事当選しタダでヨーロッパに行ってきたのである。 今回はそんなモニター募集に挑[…]
最もつらかったのは何だったか。
正直に言えば、「1日2回、指定されたハッシュタグ付きでSNSに近況報告を投稿する」という義務だった。
しかし、そのおかげで、今回の旅では全ての滞在地に自分の正直な感想が残されている。
それらの記録も参照しながら、本記事を書き進めていくことにする。
» 折りたたむ
ということで、モニターとしてヨーロッパに入った。
それでは、リール滞在記をお楽しみいただきたい(∩´∀`)∩
- 1 名前はアナ
- 2 欧米流のナンパ
- 3 旅の醍醐味
- 4 リールってどんな街?
- 5 やはりyouth hostelは良かった
- 6 知る人ぞ知る"FLIX BUS"
- 7 カナダでは野生動物に餌をあげるのは犯罪?
- 8 ヨーロッパの交通手段はOmioで検索
- 9 リール(Lille)のクリスマスマーケット at 昼
- 10 グラン・プラスはベルギーだけじゃない?
- 11 クリスマスマーケットの屋台の様子
- 12 三大クリスマスマーケットで試すべきもの
- 13 フレンチフライはフランスのものじゃない?
- 14 欧米人の陽気さ
- 15 リールのクリスマスマーケット at 夜
- 16 欧米人とのお別れはハグ
- 17 ホステルの宿命
- 18 パリからコルマールへ
名前はアナ
ハンブルクからブリュッセルに移動してきた筆者。
ベルギーの首都ブリュッセルではBRUEGELというYouth hostelに一泊だけし、翌日にはフランスの首都パリに行く予定だった。
Youth Hostelの玄関
まだ外は薄暗い、朝7時。
小さな食堂には焼き立てのパンの香りがふわりと漂い、食欲を優しく刺激してくる。
筆者(心の声)
「よし、今日はパリに向かうぞ。朝食をしっかり食べて、エネルギー満タンにして…」
カリッ……
トーストされたライ麦パンが、至高の音を奏でる。
筆者(恍惚)
「……朝のバターって、もはや罪やな……」
――と、その時。
背中越しに“誰か”の気配が。
こちらに背中を向けるように座り同じく一人で朝早くから朝食を食べている女性がいたのだ。
しかし朝食に夢中だった筆者は、別に彼女がどんな人物かあまり気にしていなかった……というのは嘘である。
全く気にしていなかった、というのが正しい。
だが次の瞬間、彼女が立ち止まり、まっすぐこちらを見て背中越しに一言。
アナ「コンセントのアダプタ貸してくれない?」
唐突すぎるお願いである。
だが、ここは欧州、旅の地。
そういった“唐突なフック”はむしろ日常茶飯事なのである。
ベルギーのコンセントは「タイプC」。
〇の中に〇が2つ並んでいる、例のやつだ。
(※これだけの説明で正確に脳内再現できた君は天才だ)
※コンセント形状タイプC
筆者はちょうど変換プラグを2つ持っていたのだが、もちろん朝食中なので手元にはない。
「部屋にあるから取ってくるわ、待ってて」
そう言い残し、急いで部屋へ。
そして戻ってきた筆者は、何と一言――
「これ、あげるわ」
これには相手も少し驚いた表情。
(ま、無駄に2つ持ってるし)
だが、筆者は続ける。
「タイプCがないと、この先の国でも困るやろ」
……我ながら、朝からナイスガイが過ぎる。
そして食事を再開すると、彼女は筆者の机の隣のコンセントで充電を始め、しばし雑談。
彼女の名前は、アナ。
※別に雪の女王の妹ではない。
話してみると、なんと彼女も今日パリに向かうというではないか。
これは…運命か?
筆者(心の声)
「……お、おれもや……!!(服がダサくてマジで後悔)」
出会いは突然である。
欧米流のナンパ
実は欧米では、このように“偶然を装ったナンパ or ナンパ待ち”が、日常的に行われている。
筆者はこれまでに何度もこの“芸術”に遭遇している。
場所は京都。とても可愛い白人女性が電光掲示板の地図を不安げに眺めている。
誰も声をかけないので、勇気を出して筆者が慣れない英語で話しかける。
すると――
彼女「あ、私イングランドと日本のハーフで日本語ペラペラなんです。ところで今日泊まるとこ無くて……あなたの家に泊まってもいい?」
筆者はこの後、夜勤でそのお誘いを断ったが、もし定時退社できていたらこんな可愛い子とムフフな関係に……以下略。
場所はアメリカ・コロラド州デンバー。
空港行きの券売機でチケットを買っていると、後ろに並んでいた可愛い女の子が声をかけてきた。
彼女「あ、チケット落としましたよ!」
筆者「いや、落としてないですが…?」
彼女「あれ、違ったのか~。ところで、どこ行くの?」
この流れで最終的に空港までの乗車時間(30分ほど)話し込むことになった。
一応、筆者の良き友達になっている。
実にナチュラルかつスムーズな“会話の入り口”であった。
欧米流ナンパは、もはや技術ではなく“文化”である。
それは必ずしも下心があるものとは限らず、ただ「会話してみたい」「誰かと旅を共有したい」というごく自然な欲求から始まる。
それが、この旅という空間の魅力でもある。
旅の醍醐味
というわけで、話をブリュッセルのユースホステルに戻そう。
朝食会場で声をかけてきたアナとの会話が、思いがけず旅の方向を変えることになるとは、誰が想像しただろうか。
筆者「え、おれも今からパリやで?」
アナ「まあ素敵!だったら、その前にリールのクリスマスマーケットに寄らない?すっごく良いって聞いたの!」
なるほど、いきなりのお誘いである。
旅とはこういう偶然が醍醐味であり、運命のダイスが振られる瞬間でもある。
「おー、じゃあ一緒に行こうか」と、筆者の返事も秒速であった。
ここで交通手段の相談に入る。
筆者はありがたきユーレイルグローバルパス保持者、鉄道という文明の恩恵を当然のように享受するつもりでいた。
しかし彼女は完全なる実費旅戦士。
このとき筆者の脳内会議ではこうである。
筆者(心の声)
「……電車 vs バス。優雅さ vs 節約。だが目の前には、旅の女神アナ」
こうして紳士ポイントを稼ぐべく、バス移動を即決。
チケットはたしか12ユーロほど。
ユーレイルパスがポケットの中で泣いていた。
「じゃあ、15分後にロビー集合で!」
そう言って一度解散。
筆者はライ麦パンを3口で平らげ、バターの余韻を味わう間もなく荷物を整えロビーへと急ぐ。
こうして、予定外の寄り道――フランス・リールへの小さな冒険が幕を開けた。
そのときの空気は、ほんのりパンの香りと、ちょっぴり恋の予感で満ちていた。
リールってどんな街?
リール(Lille)は、ベルギーとの国境近くに位置する、フランス北部の町である。
筆者は今回、アナという旅の女神からその名を聞くまで、一度も耳にしたことがなかった。
「リール?なにそれ?カフェラテの新メニューか?」と思ったくらいだ。
しかし調べてみて驚いた。
このリール、なんとフランス第4の都市と呼ばれているらしいのである。
…え、第4?じゃあ上の3つはどこだって話になる。
筆者はいつも通りグーグル先生に土下座して尋ねた。
すると、人口ベースではリールは実は第10位。
「おい、話が違うじゃないか」と一瞬思ったが、どうやらこの“第4”というのは経済圏の発展度や都市としての影響力におけるポジションらしい。
つまり、数字では測れない存在感がある街、ということだ。
日本でたとえるならば……
「名古屋?いや、京都?…いや、どっちもやな」的なポジション。
ちなみに、フランスの都市ランキングトップ3を挙げるなら以下の通り。
- 第1位:華の都パリ(※フランス語では「パヒ」と発音する。言われてみるとちょっとオシャレ)
- 第2位:マルセイユ(地中海沿いの港町。サッカーが熱い)
- 第3位:リヨン(グルメの都。料理好きは一度は行け)
こうして並べてみると、リールの知名度がやや控えめなのも頷ける。
だが、それゆえに人々の記憶に強く残る“隠れた名都市”でもあるのだ。
さあ、そんなリールへ、アナと筆者の珍道中が始まる──!
やはりyouth hostelは良かった
今回、久方ぶりにユースホステルに宿泊したのだが――やはり良かった。
何が良いって、まずコスパが最強である。
- 一定水準の清潔感はしっかりキープ
- 朝食バイキング付きという神仕様
- 都市部でも財布に優しい安定価格
- そして、なぜか“変な人”の出現率が低い(気がする)
思い返せば、初めてヨーロッパを旅した時にユースホステルを利用して以来、メンバーシップの期限が切れたのを機に疎遠になっていた。
ミュンヘンにて人生で初めてのyouth hostel(2014年1月)
しかし今回、ありがたいことにモニターという立場で再びユースの門を叩くこととなったわけである。
そして改めて実感した。
筆者「朝食バイキングがある、それだけで天使。」
あのパンとバターとハムとサラミで迎える朝――学生時代、毎朝それでエネルギー満タンにして旅に出ていた記憶がよみがえる。
……と言いたいところだが、実は筆者は生粋の“ご飯派”であり、学生時代はパンやサラミとは無縁の生活を送っていた。
それでも今では、この異国の朝食バイキングが妙にしっくりくるのだから不思議である。
ヨーロッパの空気と一緒に食べるパンとチーズは、なぜあんなにも旅心をくすぐるのだろうか。
米よ、すまぬ。今日はクロワッサンと共に行く。
ユースホステルという存在は、単なる宿泊施設にあらず。
旅の記憶装置であり、世界をちょっとだけ身近に感じられるコミュニティの場でもあるのだ。
やはりユースはいい。
うん、また泊まりたい。
バイキング目当てでも全然いい。
知る人ぞ知る"FLIX BUS"
ユースホステルを出発し、バス乗り場へと向かう。
彼女の名前はアナ。
本名アナスタシア。
アナスタシアといえば、ロシア皇帝の血を引く幻の王女。
美しき運命のヒロインという名を冠するその女性と、今、並んでブリュッセルの石畳を歩いているというこの現実――。
これはもう、フラグである。完全に。
アナという名前について、筆者の脳内辞書にはこう載っている。
アナ、本名アナスタシア。
ロシア系の女性に多い名前でヨーロッパの物語では美しい女性としてよく登場する名前である
さて、リール行きの“FLIX BUS”に乗るべく移動開始となったわけだが、問題が一つあった。
筆者はバス停の場所をまったく知らない。
地図アプリを開くフリをしながらも、内心はドキドキである。
これはもう不安とかそういう次元ではない。
もはやGPSに命を握られている。
しかしここで救世主アナが颯爽と一言。
アナ「バス停の場所、知ってるわよ!」
この時点で、彼女の好感度が+15上昇。
さらに彼女はこう続けた。
アナ「ちょっと遠回りだけど、グラン・プラスに寄って行かない?」
当時の自分の撮影技術に喝!!!
筆者の中の脳内BGMが「キラキラ星」に切り替わる。
これはもはやデートである。
もはや旅の名を借りた即席のロードムービーである。
道中、彼女の口から興味深い情報がもたらされた。
なんと、彼女は日本が大好きで、過去にも訪れた経験があるというのだ。
お気に入りの地は福岡と京都。
筆者の心の声(冷静かつ真剣)
「福岡には豚骨ラーメンがある。京都には俺がいる。つまり、日本が君の運命の場所ってことだな。」
しかも、筆者は会えなかったがこの4か月後にもまた福岡を訪れていた。
筆者「バカ、なぜ京都に来なかったのだ…俺がいるってのに。」
「ん、まさか俺がいるから来なかった…?ハハハまさかね。」
※スマホでルートを確認するアナ
筆者「え、ほんまに道わかってる?(ニヤニヤ)」
アナ「もちろんよ(キリッ)」
このとき、筆者はふと思った。
この道がずっと続けばいいのに。
グランプラスを経由して、リールを超えて、時空を超えて、どこまでも。
…などと、普段なら顔面が崩壊するようなセリフがスッと出てくるあたり、自分でも驚きである。
どうやら、これが旅マジックというやつらしい。
カナダでは野生動物に餌をあげるのは犯罪?
何の話やねん!!?
そう思った読者諸君、安心してほしい。
ちゃんと伏線は回収される。
事の発端は、アナとの雑談の最中だった。
彼女はかつて日本を訪れた際、奈良公園での鹿たちとの邂逅(エンカウント)に衝撃を受けたらしい。
アナ「奈良公園では、観光客が普通に鹿にエサをあげてるのね!カルチャーショックだったわ」
筆者(ドヤ顔)
「そらそうよ。あんなに公然とシカとたわむれることができるのは、世界広しといえども奈良だけやで。世界遺産より貴重かも知らんで」
だがその後、話は思わぬ方向へ。
アナ「いや、そういう意味じゃなくて。カナダじゃ野生動物に勝手に餌をやると、犯罪なのよ」
……えっ、犯罪?え、マジで?
カナダの野生動物といえば、想像するのはアライグマやムース、そして何より…グリズリー(=ハイイログマ)である。
筆者(ツッコミ気味に)
「いや、むしろ我々がエサやん!!」
そう考えると、奈良の鹿せんべい文化は世界的に見れば奇跡のような平和空間である。
鹿が人を襲う心配もなければ、クマに食べられる恐怖もない。
鹿せんべいをあげる行為すらエンタメに昇華されている国、それが日本である。
ちなみに筆者、将来的にカナダとアメリカを約1年かけて旅するという野望を密かに抱いている。
今回のアナ情報は、その夢の実現に向けた小さな一歩となった。
これ、旅人の鉄則なり。
ヨーロッパの交通手段はOmioで検索
このアプリ、めっちゃ使える。いや、ほんとに。
ヨーロッパで都市間を移動する際、筆者が毎度お世話になっているのが「Omio(オミオ)」という検索アプリである。
電車・バス・飛行機――あらゆる移動手段を一発で比較できる優れモノで、使い方も簡単、しかも無料。
控えめに言っても、旅人にとっての神アプリである。
さらにこのアプリ、ただの交通検索アプリでは終わらない。
なんと「BlaBlaCar(ブラブラカー)」という、知らない人と車をシェアして移動するという、ヨーロッパならではの“相乗り文化”にも対応しているのだ。
つまり、バックパッカー初心者から、「財布に優しく、刺激は多めが好み」という旅の上級者まで、満足度の高い検索結果が得られる。
ちなみに筆者は過去、ルクセンブルクからフライブルクまで「完全に初対面のおっさん」の車に格安で相乗りしたことがある。(休憩込みで4〜5時間だった気がする)
ヨーロッパを旅するすべての同志たちへ。
交通手段で迷ったら、まずはOmioで検索せよ。
検索はタダ、生還はプライスレスである。
リール(Lille)のクリスマスマーケット at 昼
到着したのはリール中央駅。
──見よ、この建築。
ギリシャ建築風のペディメント(切妻屋根)、ローマ建築風のアーチとピラスター(付け柱)。
ぱっと見、古代ローマにタイムスリップしたかのような風貌だが、これは19世紀フランスで花開いた新古典主義建築の影響であると思われる。
旅先で「この柱、なんか見たことあるけど名前がわからん…!」とモヤモヤしながら歩くのは非常に惜しい。
“あの知識があればもっと感動できたのに”という後悔は、旅人あるあるである(※ただしこれは筆者の勝手な推測である)。
ヨーロッパ約30ヵ国をバックパッカーとして旅をしていたある男がいた。 帰国後、その男は徐々にある大きな後悔に頭を抱えるようになった。 なんで西洋建築を勉強して行かなかったんだ と。 西洋建築を勉強した[…]
さて、駅から少し歩くと、それっぽい会場が見えてきた。
クリスマスマーケットらしき雰囲気は出ているが、時刻はまだお昼。
陽が高い時間帯のマーケットというのは、まるでリハーサル中の舞台のようなもので、正直あまり活気はない。
人影もまばら、屋台のおじさんもまだ本気を出しておらず、ホットワインの香りだけが宙を彷徨っている状態である。
ということで、ここは一度退却。
夕方になってから再び訪れることにした。
ちなみに、本日12月26日。
クリスマス翌日でも、昼間のマーケットは一応ちゃんと開いていた。
筆者的には「えっ、まだやってんの?」という驚きとともに、地元民の平常運転っぷりにちょっと感心してしまったのである。
グラン・プラスはベルギーだけじゃない?
Village de Noel de Lille(リールのクリスマス市)
リールのクリスマスマーケットが開催されている場所、それがグラン・プラス(Grand Place)である。
「え、グラン・プラスってブリュッセルだけの固有名詞じゃなかったの!?」
──そう思ったのは筆者だけではないはずだ。
筆者もそれまでは、
「グラン・プラス=ベルギーのドヤ顔名所」
だと信じて疑わなかった。
だが、違った。
リールにもある。
ていうか、ヨーロッパ中に「グラン・プラス」が点在しているのだ。
どうやら「グラン・プラス=大きな広場」という極めてシンプルな意味らしく、フランス語圏ではかなり汎用的な地名らしい。
日本でいえば……
「〇〇銀座通り」みたいなものであろうか。
日本中に○○銀座があるのと同じように、ヨーロッパ中に“グラン・プラス”があるらしい。
ブリュッセルのグラン・プラスだけがVIPかと思っていた筆者は、ちょっぴり気恥ずかしい気持ちになりながら、リールのグラン・プラスを歩いたのである。
──ただし、どこの“グラン・プラス”もそれぞれに個性があるから油断ならない。
やはり広場とは、その町の顔である。
クリスマスマーケットの屋台の様子
会場には屋台が立ち並び、あたりはどこもかしこもクリスマス一色である。
中を覗くと、見たことも聞いたこともないようなオーナメント……日本語で言うところの「雑貨」が所狭しと並んでいた。
どれもこれも「わぁ〜これ部屋に飾ったら一気に冬感出るやつやん…」という品ばかり。
お金があったらスーツケースひとつ雑貨専用にしてでも買って帰りたい。
が、残念ながら筆者の財布は、ユースホステルの朝食コーナー同様、”節約モード”に設定されている。
そんな中、ひときわ目を引くのが、ある屋台の前に置かれているサンタクローズ。
詳しく知りたい方はこちら。
赤と白のサンタ衣装に身を包み、ずっしりとした存在感。
──失礼を承知で言う。
もしお気を悪くされたら本当に申し訳ないのだが、どう見てもマツコ・デラックス(in サンタver.)である。
筆者(え、こんなところで年末特番が収録されてるんか…?)
と一瞬本気で思ったくらいである。
とはいえ、彼(彼女?)の笑顔と商売っ気には癒やされた。
雑貨以上に「旅の思い出」という名のオーナメントを、しっかり心に持ち帰ることになった。
三大クリスマスマーケットで試すべきもの
見て回るだけでは胃袋がうずく。
ということで、筆者とアナは阿吽の呼吸で顔を見合わせ、無言でグリューワインの屋台へと足を向けた。
ここで、「三大クリスマスマーケットで試すべきもの」を紹介しよう。
まずは一つ目。
クリスマスマーケットの定番中の定番、グリューワイン(=ホットワイン)である。
そしてここで声を大にして言いたい。
筆者「このグリューワインはおれが奢った!!!」
(…まあ2ユーロだったが)
「奢った」と言うにはかわいい金額ではあるが、そこに”旅の気分”という見えない価値が加わることで、感謝と親密さがじわりとにじむ。
これぞヨーロッパ風味の人間関係構築法である(?)。
二つ目に挑むは、レープクーヘン。
(出典:ドイツエクスプレス)
これはドイツ生まれのスパイスたっぷりジンジャークッキーで、見た目はやたらカラフルだが、味は大人びていて奥深い。
見た目に騙されて「甘いお菓子かな〜」と思って食べたキッズは、確実に顔が曇るタイプのお菓子である。
三つ目はシュトレン(Stollen)。
ドイツ語圏ではクリスマスに食べる定番の発酵菓子パンで、中にドライフルーツやナッツがぎっしり詰まっている。
(出典:マカロニ)
お酒の風味が強いシュトレンも数多くある。
一切れでもまあまあ重いのだが、気づけば手が二切れ目に伸びているのがシュトレンの魔力である。
ちなみに会場には、昼間からテンションMAXな人々がちらほら。
筆者の心の声「おい、デートの邪魔すな!!!」
おば様は筆者にも「Merry Christmas!」と陽気に叫びながら去っていった。
この国籍不明のエネルギーに触れるのもまた、旅の醍醐味である。
フレンチフライはフランスのものじゃない?
さて、フレンチフライをいただく。
日本でいうところの「フライドポテト」である。
ケチャップをたっぷりつけて頬張ると、もうこれは旅先の正義である。
この時だったか、アナに何気なく訊いたことで驚きの事実が発覚する。
アナ「フレンチフライって、“フレンチ”って名前ついてるけど…フランス発祥じゃないんだよ~」
なんと、フレンチフライの生まれ故郷はベルギーらしい。
「え、じゃあベルギーフライでよくない!?」とツッコミたくなるが、そこは大人の事情というやつか。
名前の勝ちである。
ちなみに余談だが、「フレンチキス」というのは「チュッ♡」とする軽いスキンシップかと思いきや、実際はとても熱烈で濃厚なキスを指す。
もう一つだけおもしろい表現として"French letter"というスラングがある。
直訳は「フランスの手紙」だがその裏の意味はもっと深い。
ポテトもキスも、奥が深い。
欧米人の陽気さ
さて、リール名物のクリスマスマーケット(at 昼)を一通り満喫した我々が次に向かったのがリール城塞である。
といっても、いわゆる歴史的な名所というよりは、「あ、なんか公園っぽいし行ってみる?」くらいの軽いノリで歩き始めたのが実情だ。
だが、ここでもやはり欧米人――とくに欧米女性の陽気さとフリーダムさを目の当たりにすることとなる。
城塞までの道のり、およそ徒歩20分。
冬の街をてくてく歩いていたその時、アナが突然こちらを振り向いて言った。
アナ「あーだめリョウ。わたし、もう我慢できない。ピーしたい!!」
知らない方のために一応。
「いやもう少しや、絶対トイレあるから!」と励ましながら進む筆者。
筆者的には「まぁ公園やし、普通にトイレくらいあるやろ」と気楽に構えていた。
しかし、念のために「もしなかったらどうするん?」と尋ねると、返ってきた答えがこれだ。
アナ「全然、茂みでもできるよ~。リョウは周り見張っといてね!」
カヌー部顔負けの根性、まさかの地球はトイレ理論である。
かつての大学カヌー部の女同志たちを思い出したが、それにしても肝が据わっている。
一瞬、本気で抱きしめそうになった。
そんなこんなで目的の公園に到着。
見事にトイレは存在していた。
だが――
まさかのクローズ中。
無情とはまさにこのことである。
地元のマダムに尋ねたところ、「ちょっと遠くにあるわよ」とのことで、アナは残り少ないHPを振り絞り、ラストスパートをかけてダッシュ。
どうやら、無事に間に合ったらしい。拍手。
なお、リール城塞自体には入れなかった。なんでやねん。
そして一度、Lille中央駅に立ち寄り、パリ行きの電車の時間とチケットを確認。
それから再び、夜のクリスマスマーケットへと向かったのであった。
リールのクリスマスマーケット at 夜
再び戻ってきたグランプラスのクリスマスマーケット。
昼間とは打って変わって、辺りは賑わいと幻想的な光に包まれていた。
人々は赤ワイン片手に語らい、空の色は深く藍色に染まり、キャンドルやイルミネーションはまるで光の魔法のようだった。
筆者「そう、クリスマスマーケットに言葉はいらない──」
などとそれっぽいことを呟いてみるが、実際はただの筆不精である。
要は「説明面倒なので、写真でごまかします」の意だ。
というわけで、ここからは説明なしのダイジェストでお楽しみいただきたい。
(※もはや旅行記というよりスライドショー)
ん、ここで一つ言わせてくれ。
筆者は一言もそんなこと頼んでいないのに、(まるでカップルの定番いちゃつきかのように)アナが自分のグリューワインを手に持ち、それをこちらの口元に運んできたのである。
まるで赤ん坊にミルクを与える母親のように。
いや、こちらは人生25年、とっくに乳離れは済んでいる。
だがその時ばかりは、本能的に逆戻りしそうになった。
筆者はただひたすらニヤつきながら、それを飲んでいた。
「うん、美味しいね」とか言いながら、心の中では
──これ、なんの時間?
とツッコまずにはいられなかった。
あのキャバクラ的演出は一体何だったのか。
いや、確かにほろ酔いではあった。
そしてマーケットの夜景がキレイだったのも事実だ。
だがそれを差し引いても、あの一連の流れには、何かしらの…意図?空気?
もしかして…
ん?
まさか俺のことが好きなのか?
………。
いや、さすがにそれはないか(笑)
とはいえ、もし仮に、万が一、億が一、好意があったとしたら──
そのことをずっと信じたまま人生を歩んでいくのも、旅人の自由である。
では続きである。
権利関係はクリアしているのか?
どこにでもいるな、このネズミ。
ヨーロッパだろうが北極だろうが、油断すると電気タイプが現れる。
まるで旅の守り神のようである。
欧米人とのお別れはハグ
リールのクリスマスマーケットも名残惜しいが、そろそろお開きの時間である。
日本の夏祭りと同じで、雰囲気が好きな者はずっと居座っていられるだろう。
筆者も例にもれず、その空気感に身を委ね、グリューワインと屋台の軽食を楽しんだ。
そして、名残惜しくもLille中央駅からパリ行きの電車に乗り込んだ。
リールからパリまではおよそ90分。
出発してしばらくはアナと軽く雑談していたが、彼女は疲れていたのか、30分ほどで夢の国へ旅立っていった。
リール駅
その横顔を見ながら、筆者もウトウトしかけたが、どうにもボサボサの髪が気になり寝られなかった。
髪がボサボサ
そして到着。
ここがフランスの首都・パリ北駅である。
「パリ北駅」と書かれてある。
筆者
「この子、たぶん今日泊まるとこ決めてないやろし、もうちょっと一緒にいれるんかな〜」
などと、淡い期待を胸に改札を出たその瞬間。
なんとそこに、見知らぬ欧米男性が立っていた。
──彼女の男友達(たぶん)、である。
ん、一言もそんなこと聞いてないぞ!!!
これは驚いた。何より筆者が一番驚いた。
アナと彼は、まるで映画のワンシーンのように、何の照れもなくハグを交わし再会を喜んでいた。
筆者はその横で、マルシェの残り香をまとったまま、空気になった。
そして筆者は静かにアナと別れのハグを交わす。
欧米人との別れはいつだってハグである。
これは素晴らしい文化だと心底思う。
そこにいた欧米人男性は、Couchsurfingのホストだったのか、友達に再会しただけなのかは定かではない。
詮索は野暮というものである。
ホステルの宿命
20時30分、筆者は予約していたパリの宿にようやくたどり着いた。
当初は「昼にはパリに着いてエッフェル塔に凱旋門にルーヴル美術館〜♪」などと軽快な脳内プランを立てていたのだが、その予定は文字通り雲散霧消した。
いやもう、3回目のパリである。観光など二の次だ。
筆者は宿のベッドにダイブし、こう記録した。
そう、旅とは常にこういうものである。
誰かと出会い、笑い、別れ、予想は裏切られ、体力は奪われ、そして人はベッドに沈む。
ユースホステルのレビュー?
それはまた、明日の朝にでも書こうではないか。
彼女にまた会えるかどうか?
まあ、人生どこかでまた会える。
そう思っておくのが、旅の美学である。
ちなみに、ホステルで同室だった男が2人いた。
一人は中国人、もう一人は(確か)ガーナ人である。
この宿はどうやら「若者の社交場」的なノリがあったようで、夜中の2時でも平気でビリヤードが鳴り響き、談笑と爆笑が絶えなかった。
筆者はというと、耳栓とアイマスクという完全装備で深い眠りについていた。
眠りの深さで言えば、ラオスの僧侶レベルである。
だが、突如その静寂は破られた。
何時やと思ってんねん!!!
中国人男性が突如ブチギレ、まるで関西の駅前で酔っ払ったおじさんのようなテンションで絶叫し始めたのだ。
その怒号で筆者とガーナ人男性は目を覚ました。
が、そこで共通の思いが芽生えた。
「いや……お前が一番うるさいねん」
心の中で二人は確実にそう呟いた(たぶん目を合わせて軽くうなずいた気もする)。
どうせなら静かに怒ってほしかった。
寝起きでツッコミ入れるのもしんどいんやから。
パリからコルマールへ
さて、ついにパリを離れ、今回の旅のハイライトの一つとも言えるコルマールへ向かう。
「ハウルの動く城っぽい町」として有名だが、筆者にとっては“インスタ映え”とかじゃなく、純粋に童話の世界への旅である。
列車に揺られて約2時間半。
隣の席では知らんおじさんが爆睡していたが、窓の外には絵本のような景色が広がっていた。
電源はない。Wi-Fiもない。でも、心はやたら満たされていた。
コルマールよ、待っていろ。
2017年12月20日から2018年1月10日まで、カタール航空のモニター募集に合格し、ヨーロッパを無料で旅する機会を得た。 今回はその旅の中から、フランスのコルマールでの滞在についてお伝えする。 [show_more more[…]