【旧約聖書⑥】"神との戦い"に勝利!「イスラエルの祖」になったヤコブ

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ユダヤ教 旧約聖書 歴史

さて、本記事では、ユダヤ人の“聖なる物語”――そう、旧約聖書という名の一大叙事詩を、なるべく分かりやすく、そしてちょっぴり笑える感じで解説していく所存である。

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全体のざっくりストーリーについては、すでに別記事で語り尽くしているので、「旧約って何だっけ?」という方は、まずはそちらをご一読あれ↓

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ユダヤ教 歴史
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旧約聖書 まとめ わかりやすく

本書では、その記事で触れた内容をさらに掘りに掘って、スコップが折れる寸前まで深掘りした構成となっている。

読む際には、その覚悟を持って臨んでいただきたい。

参考文献は『眠れないほどおもしろい「聖書」の謎』。タイトルだけでもう面白そうである。

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旧約聖書 信仰の父 アブラハム

ではさっそく、神と人類の濃すぎる関係史をのぞいてみようではないか(”◇”)ゞ

※なお、本記事に登場する写真のほとんどは画像生成AIによる産物であり、「あれ?この人見たことある!」と思っても、たぶん気のせいである。
実在の人物とはほぼ無関係なので、そこんとこよろしく。

"神との戦い"に勝利!「イスラエルの祖」になったヤコブ

旧約聖書最大の魅力――それは神々しい奇跡ではなく、むしろ人間のどうしようもない弱さ・ズルさ・しぶとさにある。

神の祝福を受けた一族であっても、その中身は人間臭さ全開である。

アブラハムの息子イサクから繋がる系譜にしてもそうである。


四十歳になったイサクは、ナホルに住む親族の娘リベカと結婚をした。


※どう見ても40歳には見えないがご容赦頂きたい。

結婚してもなかなか子宝に恵まれなかったリベカだが、ここでも信仰の力が炸裂。

神への祈りを二十年間続けた結果、ようやく妊娠に至った。

しかも双子である。
だが、ただの双子ではなかった。

しかしこの兄弟、母の胎内にいた時からいさかいが絶えなかったようだ。

先を争い、弟は兄のかかとをつかんで出てきたほどで、そのため弟は「かかとをつかむ人」という意味のヤコブと名付けられた。

これを見た産婆は戦慄したという(知らんけど)。

「率直で短絡的な兄エサウ」と「知的でずる賢い弟ヤコブ」


(出典:JACOB AND ESAU

旧約聖書屈指の兄弟バトル、それがこのエサウ vs ヤコブである。

彼らは見た目も性格も完全に真逆。
もはや対極である。

  • エサウ:体が赤く毛深い、率直で短絡的
  • ヤコブ:色白で肌が滑らか、知的でずる賢い

活発で野を駆け回る狩人に成長したエサウに対し、ヤコブは穏やかで家にいることを好んだ。

エサウが山を駆け巡りイノシシを追いかける間、ヤコブは台所でスパイスをブレンドしていた。

まるでRPGの戦士と魔法使いである。

そんな二人の性格の違いはこんなエピソードからも垣間見ることができる。

ある日のこと、ヤコブが煮物料理を作っていると、狩りを終えお腹を空かせたエサウが帰ってきた。

目の前の美味しそうな料理を見て、エサウは、

「頼む、食べさせてくれ」

と懇願する。するとヤコブはすかさず、

「それなら兄さんの長子権(※)を譲ってください」

と交換条件を出した。

とにかく空腹を満たしたかったエサウは、

「長子の権利などどうでもよい」

と豆の煮物とパンにありついた。

※長子権とは、祝福の言葉とともに父親の財産や家長の地位を受け継ぐ権利で、その一族の全てを手に入れる権利と言ってもよい。

口約束とはいえ、そんな強大な権利を空腹を理由に「譲る」と口にしてしまうような単純さがエサウにはあったのだ。

レンズ豆のスープとパン一個で取引成立。

さてそんな兄弟だったが、父のイサクはエサウをかわいがり、母のリベカはヤコブを溺愛していた。

イサクは伝統にそって当然エサウに家督を譲るつもりでいたが、リベカは「ヤコブこそ家督を継ぐべき」だと考え一計を案じる。

ある日、父イサクは長男エサウを呼び寄せ、

「死ぬ前にお前に祝福を与えたい。狩りで仕留めた獲物でまず料理を作ってくれないか」

と頼んだ。エサウが野に出たのを見計らったリベカは、

「その肌を隠し、エサウのふりをして料理を届けに行きなさい」

とヤコブに入れ知恵をした。

年を取ったイサクは目がほとんど見えなくなっていたので、毛皮を着たヤコブをエサウだと勘違いし

「多くの民がお前に仕え、多くの国民がお前にひれ伏す。お前は兄弟たちの主人となり、母の子らもお前にひれ伏す」

と祝福を与えたのだった。

こうしてヤコブは堂々と祝福ゲット。

兄弟の上下が完全に逆転した瞬間である。

これを知ったエサウ、激怒。
全毛穴から怒りを放出。

一度与えた祝福は取り消すことができないため、財産も名誉も横取りされたエサウは激怒し、ヤコブを殺そうとする。


激怒しちゃった兄エサウ

エサウ「ヤコブゥゥゥゥ、ぶっ〇す!!」

命の危険を察知したヤコブは即逃亡、目指すは母の兄ラバンのもと。

ラバンも新たな働き手が来たとばかりに大喜びでヤコブを迎えたが、そのうちヤコブはラバンの次女ラケルに好意を持つようになる。


親戚のラケルが好きでたまらないヤコブおじさん

「ラケルを妻に欲しい」

というヤコブに、ラバンは

「七年間無償で働いたら結婚を許そう」
(え?ブラック過ぎる…)

と約束をした。

そんなこと言うやつが約束守るわけねぇぇぇ(゚Д゚;)

↑これは筆者の個人的な感想である。

ヤコブ、今度はブラック親戚企業で地獄の労働生活に突入。

この後、さらに衝撃の「結婚詐欺」事件が勃発するのだった……。

「旧約聖書」の中で「12」という数字が"完璧"とされる理由

ヤコブは7年間の無償労働の末、ようやく愛するラケルとの結婚式を迎えた。

ラバン、ちゃんと約束守るやつやったんかいΣ(゚Д゚)

「ラバン、さすがに約束を守るか…?」と思いきや、

夜、寝室に入ってきたのは姉レア。


姉のレアが新婚初夜のお相手だった

ヤコブは、働き手の欲しいラバンの策略にまんまと引っかかったのだった。

やっぱりか!!!

ヤコブは猛烈に抗議するも、

「この土地には姉から先に嫁ぐ習慣がある」

と巧みに言いくるめられたヤコブは、結局ラケルを得るためにさらに七年間、ラバンに酷使された。

ラバン、鬼すぎる!!!

ラバンの狙いは、「妹を嫁にやる前に、姉をさばいておく」作戦。
そして、「この土地では姉が先」という謎ルールを持ち出してくるあたり、交渉力エグい。

そんな過酷な労働生活の中、ヤコブの家庭事情も爆発的に進展。

妻2人+女奴隷2人=計4人の女性と関係を持ち、次々と息子を産ませていく。

  1. 姉レアとの間に
    1. ルベン
    2. シメオン
    3. レビ
    4. ユダ
    5. イサカル
    6. ゼブルン
  2. 本命ラケルとの間に
    1. ヨセフ
    2. ベニヤミン
  3. レアの女奴隷ジルパとの間に
    1. ガド
    2. アシェル
  4. ラケルの女奴隷ビルハとの間に
    1. ダン
    2. ナフタリ

こうして計12人の息子をもうけたのである。

そしてこの12人の息子のうちの10人と、11男ヨセフの子である「マナセ」と「エフライム」がイスラエル十二部族の祖だとされている。

「12」という数がしっかり保たれているあたり、聖書の帳尻合わせ能力はすごい。

「イスラエル12部族」の家系図がこちら。

旧約において「12」は、神に選ばれた秩序や完成の象徴であり、
以降も「12部族」「12使徒」「12門」などで頻出する。

要するに――

ラバンにこき使われ、女たちに振り回されたヤコブのおかげで「12」は神聖な数字になったのだ!

ありがとう、ヤコブ。

君の苦労は数字になった!


このようにラバンに散々こき使われたヤコブだったが、持ち前の策略と根性で着実に財産を増やし、二十年ぶりに家族とともに故郷に戻る決意をする。

しかし気になるのは兄エサウの存在…

幼いヤコブ「兄さんっっ!ははは」

幼いエサウ「ヤコブ!ほらほらぁ(*´▽`*)」

もうあの頃のような二人には戻れないだろう。

なんせ激怒して自分を殺そうとした兄である。

「自分を殺そうとしていた兄が、まだ怒っていたらどうしよう……」
「復讐されるのではないか」とヤコブは道中散々思い悩んだが、エサウは想像以上にサッパリとした性格だったようだ。

エサウ「お!おかえり、弟よ!」

旧約聖書 わかりやすく ユダヤ人
弟ヤコブを許す兄エサウ

まさかの号泣ハグ。

エサウ、実は器のデカい兄貴だったのだ。

地にひれ伏して謝るヤコブを迎え入れ、二人は和解を果たすのでした。

"天使との格闘"の後、名実ともに「イスラエルの祖」になったヤコブ

そんな二人の再会の前日、ヤコブは不思議な体験をしていた。

夜、ヤコブが一人でいると、どこからともなく正体不明の見知らぬ男がやってきて突然組みかかってきたのだ。

ヤコブ「うぉっ!誰やねんお前ッ!!?」

格闘は夜通し終わらず、夜明け近くになっても続いた。


てめぇ、なんだいきなり!!!!ハアハア

ヤコブは汗だく、息も絶え絶えになりながらも、食らいついて離さなかった。

体力の限界を超えてもなお向かってくるヤコブに、相手は

もうよい。

お前は神と戦って勝ったのだから、これからはヤコブではなく、イスラエルと呼ばれる。

と告げ立ち去っていったのである。

なんと格闘の相手は天使だったのだ。

旧約聖書 わかりやすく ユダヤ人
格闘の相手はまさかの天使だった

ここに至るまでヤコブの人生は騙し騙されの連続だった。

ヤコブの行為は決して褒められたものではなく、どちらかと言えば兄エサウの方が善人に見える。

しかしヤコブはどんな苦境に陥っても決して諦めることをせず、それは全てにおいて過酷なこの地で権力者として生き抜くためには重要な資質だったのだ。

それゆえ神はヤコブにこそ祝福を与えたのである。

こうしてヤコブは名実ともに「イスラエルの祖」となったのだった。

ちなみに「イスラエル」という名前は、
「神と戦い、勝利した者」または「神と共に戦う者」という意味を持つ。

ヤコブは、もはやずる賢いヤリチン野郎ではない。

神に認められた、「祝福を継ぐ者」=「イスラエル」の祖になったのである。


次回予告:ヤコブ一家、エジプトへ!

楽園と思いきや…?そこから始まる“400年奴隷コース”の幕開けとは?

「『苦難』はヤコブ一家の"エジプト移住"から始まった!」へ続く!!

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旧約聖書 ヨセフ ヤコブ エジプト

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