本記事は、2017年に行ったヨーロッパ一人旅の記録を振り返るものであり、ドイツの町フュッセンでの滞在を中心に、当時の思い出をゆるりと綴っていく。
これがシンデレラ城、画質悪くてすません
旅の期間は2017年初頭、およそ1か月。
東欧・バルト三国・アイスランドなど、これまで訪れたことのなかった国々を巡る冒険だった。
今回の旅には、
- 旅仲間(以下「エリ」)との同行
- 初めてのレンタカー運転
- 人生初のテント泊
という3つの大きな挑戦があり、まさに忘れがたい出来事の連続であった。
本記事では、その旅の始まりから順に振り返っていきたい。
ノイシュバンシュタイン城でさようなら
タイトルからしてすでに情緒過多であるが、どうかご容赦いただきたい。
アホみたいではあるが、筆者の当時の心情を如実に表している。
いや、むしろ逆に文学的ではないか?(笑)
さて、旅は続く。
リヒテンシュタインからノイシュバンシュタイン城まではおよそ2時間の道のり。
だが、もはやこの時点で筆者に観光客的なテンションは一切残っていなかった。
「うわ〜写真撮っとこ♪」などという浮かれた気持ちは跡形もなく、ただひたすら田舎道を走り続ける。
周囲には牛と草原、そしてときどき謎の小屋。
それを延々と繰り返す風景。
いわば癒やしの無限ループである。
↓ こんな道を数時間走ることになるのだ ↓
(※写真があるなら貼りたいところだが、なにせテンションが死んでいたので撮ってすらいない)
ドイツでは、学校の近くや特別な速度制限看板が無い限り、一般道でも法定速度が100km/hである
さすがアウトバーンの国、田舎道ですら高速気分である。
逆に70キロくらいでちんたら走っていると、後ろのBMWに煽られる始末。
途中、一度マクドナルドに立ち寄る。
ここで甘いものを補給。
日本人観光客が頼りにする、旅先のオアシスである。
筆者「こんなもの食べてていいのか…?」
サンデーを頬張りながら、妙に達観した発言をしている自分に気づく。
おそらく疲れとノスタルジーと糖分のミックス効果である。
こうして、ノイシュバンシュタインへと向かう道中は、「観光」というよりも、「静かな移動と自分との対話」になっていた。
そして、もうすぐ旅友エリとの別れがやって来る。
どこまでも続く直線道路の先に、別れの影がちらつく。
マックの甘さが、妙にしょっぱく感じた。
ドイツの格安スーパー"LIDL"
旅の途中、今晩の食事を調達すべく我々が向かったのは、ドイツ南部の町フュッセン。
そしてそこで立ち寄ったのが、庶民の味方、格安スーパーのLIDL(リドル)である。
ドイツと言えばビールでもソーセージでもない。
リドルである。
そしてリドルと言えば、何よりも安い!
「安いぞ!」「まだ安い!」「それでも安い!」という三段活用が飛び交う、庶民経済の聖地である。
店内はこんな感じである (写真を載せたくなるレベルの安さと陳列)
さて、筆者はここで800g入りの缶詰を5つ購入。
価格はなんと1〜2ユーロ/缶という驚異のコスパ。
このラインナップである:
- 今晩の晩ごはん
- 明日の朝食
- 明日の昼食
- 明日の晩ごはん
ついでにもう1缶(たぶん“予備”とか言って買った)
つまり4食連続・缶詰生活、しかもすべて味が違うという「バリエーションの暴力」。
そして缶詰1つにつき800g。
冷静に考えると、小さなレンガ並みの重さである。
購入時の筆者はテンションMAX。
筆者「全部食べられるとか神かよ……!」
だが後に訪れるのは、当然のように後悔であった。
まさかのバーナーが壊れるという冷静な未来予想図を、この時点の筆者はまるで描いていなかった。
とはいえ、リドルには感謝しかない。
旅人の胃袋と財布を同時に満たすその姿勢、筆者は敬意を表したい。
リドルよ、いつもありがとう。
今もきっとどこかで誰かが、あなたの缶詰に夢を見ている。
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ノイシュバンシュタイン城へ
駐車場に車を停め、これからノイシュバンシュタイン城へ登る。
まずは、これまで共に旅をしてきた旅友エリの荷物を宿に置き、その後、ブリュッセルで一瞬だけ再会したレナと合流。
こうして三人で、いよいよシンデレラ城のモデルと名高い、ノイシュバンシュタイン城を目指す。
エリは道中、何度となくこう主張した。
エリ「私、シンデレラ城とか全然興味ないんですよー」
これには筆者も少々困惑した。
というのも、エリは以前モンサンミッシェルには大興奮していたのである。
幻想的な建築物には反応し、シンデレラ城には無反応──どういうことだ?と脳内に「???」が並ぶ。
筆者「……えーと、まあ興味なくても行きましょか」
と、そんな軽いやりとりを交えつつ、我々は城へと続く緩やかな坂道を登っていく。
ひたすら、ひたすら、登る。
途中の景色は美しく、空気は冷たく澄んでいる。
当初の予定では、「ノイシュバンシュタイン城と夕焼け」という黄金の組み合わせを拝むはずだった。
だが現実は非情で、到着した頃にはあたりはすっかり真っ暗であった。
とはいえ、有名なマリエン橋から見た城の姿は、暗がりの中でもしっかりと幻想的であった。
シンデレラ城ことノイシュバンシュタイン城
観光パンフレットのような完璧な絵面ではないが、それが逆に「旅のリアル」を演出していた。
そして――
ここでエリとレナ、ふたりと別れる。
ここからついに筆者の完全な独り旅が始まるのである。
筆者「ここまで長い間、おれの旅に付き合ってくれてありがとう」
別れ際、寂しさを感じつつ、心の中でふたりの安全を祈った。
だが、その後の展開が壮絶だった。
筆者がチェコの首都プラハに置き忘れた荷物を回収してもらえるよう依頼した帰りの地下鉄で、スリに遭う。
パスポート、スマホ、ありとあらゆる物を盗られ、強制帰国。
いや、もう何も言えない。
本当にありがとう、そしてすまない、レナ……。
南無。
そしてエリと再会したのは、それから10ヶ月後のことであった。
人生とは、旅とは、出会いと別れとハプニングでできているらしい。
バーナー死す
ノイシュバンシュタイン城の奥、マリエン橋からさらに少し進んだ静かな場所にて、筆者はテントを設営した。
奥にノイシュバンシュタイン城が見える
この景色、この静寂、そしてこの孤独。
どうだろう、めちゃくちゃ良くないか?
↑ちなみに、この写真は2年前に撮影したものである。筆者のお気に入りポイントだ
問題があるとすれば、バーナーの調子が非常に悪いということ。
いや、正直に言おう。
「悪い」どころではない。
これはすでに「臨終間際」であった。
筆者「……でも、使うしかないのだ…」
意地と火花をふりしぼり、なんとかお湯を沸かすことに成功。
奇跡的に缶詰(800g)を温めることに成功した。
ただし、これは本当にギリギリの戦いであった。
もう少し風が強かったら、お湯は沸かなかったであろう。
まさに“生か死か”、缶詰か冷缶詰かの瀬戸際である。
ひとまず腹も満たされたので、就寝。
筆者「おやすみなさい」
翌朝 午前3時──
アラームが鳴る。
まだ夜とも言える時間。
筆者は、レンタカーを返却するために下山を開始する予定であった。
しかし――
ここでバーナーが完全に沈黙する。
もう火が点かない。
どんなにカチカチやっても無反応。
ここに、筆者のバーナーの生涯が幕を下ろした。
筆者「……まるでエリがいる間だけ、意地で動いてたみたいですね」
誰もいない山の上、誰も見ていないのにそんなことをつぶやいてしまう。
湯も沸かせないので、缶詰は冷たいままである。
試しにスプーンで一口…行けるか?と思ったが、さすがに無理だった。
800gの缶詰があと4つ残っている。
3200gの重りをカバンに詰めた。
筆者「潔く諦めて、下山しよう」
夜明け前の山道を、一人で歩く筆者。
朝ごはん抜きで、腹は空いている。
心も少し、空いている。
それでも、旅は続く。
火が消えても、足がある限りは進むのである。
アウトバーン
※真夜中の下山中に撮影した標識がこちら↓
ノイシュバンシュタイン城の看板
ノイシュバンシュタイン城での寒空キャンプを終えた筆者は、
その足でフライブルクのレンタカー会社へ向かわねばならなかった。
返却時間は朝9時きっかり。
これを逃せば、追加でまるまる1日分の延滞料金が発生するという、完全なる資本主義の罠である。
フュッセン出発は朝5時。
目的地までの所要時間は約4時間。
筆者「5足す4は……9!完璧!♡」
などと浮かれていた筆者であったが、後に気づく──
こういう予定は、最低でも1時間前に到着するつもりで組むべきだということを。
アウトバーンを突き進め
ということで、闇のアウトバーンにて車をぶっ飛ばすこととなった。
筆者のレンタカーは、180km/hを超えるとゴォオオオオオ……という唸り声と共に車体がガクブルするという謎仕様で、命の危険を感じる。
とはいえ、道は空いていた。
渋滞もなく、130〜140km/hでノンストップ爆走モードが続く。
そんな中、一度だけ異様な光景に遭遇する。
筆者「……今、何か抜かれた?」
音もなく、振動もなく、時速180キロで爆走する筆者のレンタカーの横をスーッと余裕で抜いていった車。
それはまるで、未来から来たUFOのような静けさだった。
筆者「いったい、なんの車だったんだ……」
フライブルク、そして10分遅刻の攻防
爆走の末、無事にフライブルクへ突入──
したかと思いきや、筆者は重大なことを思い出す。
「ガソリン、満タンでの返却義務」
そう、どこの国でもレンタカーは「満タン返し」が常識なのである。
筆者、それをレンタカー屋の目の前で思い出すという痛恨のミス。
そこからは怒涛のガソリンスタンド探し、
満タンにして再び戻るという無駄な往復劇を経て──
返却時刻:9時10分。
完全にアウトである。
だが、ここで奇跡が起こる。
筆者、日本人である。
そして、ドイツ人スタッフはこう言った。
スタッフ「今回はいいよ」
筆者「セーーーーーーフ!!!!」
汗だくのまま、命からがらレンタカーを返却完了。
思わず魂が車と一緒に返却された気分であった。
ちなみに、ドイツの交通ルールはとても厳格である。
これからドイツで運転する予定のある者は、必ず以下の記事をチェックすべし。
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ハルシュタットへ
さて、筆者は今――
800g缶詰×4個、そして1~2kgの乾燥パスタという、謎のフード軍を背中に抱え、
次なる目的地、オーストリア・ハルシュタットへと向かう。
これは旅であり、同時に軽い登山訓練でもある。
筆者「食料だけで登山部の合宿レベルやん……」
疲労と缶詰の重さに耐えながらたどり着いたその場所。
目の前に広がるのは、夢か現実かと見まごう絶景。
そう、ここがハルシュタット。
湖面に映る町並み、切り立つ山々、澄んだ空気。
全てが完璧で、美しさが過ぎる。
まるで世界遺産に背負われるような気持ちになる。
(※なお筆者は缶詰とパスタを背負っている)
次回、「世界遺産のベンチで缶詰を開ける男」あるいは「缶詰 vs パスタ、最終戦争」──ご期待いただきたい。
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