本記事は、2017年に行ったヨーロッパ一人旅の記録を振り返るものであり、リヒテンシュタイン公国の首都ファドゥーツでの滞在を中心に、当時の思い出をゆるりと綴っていく。
ここが首都か?と思うほど人っ子一人いない
旅の期間は2017年初頭、およそ1か月。
東欧・バルト三国・アイスランドなど、これまで訪れたことのなかった国々を巡る冒険だった。
今回の旅には、
- 旅仲間(以下「エリ」)との同行
- 初めてのレンタカー運転
- 人生初のテント泊
という3つの大きな挑戦があり、まさに忘れがたい出来事の連続であった。
本記事では、その旅の始まりから順に振り返っていきたい。
リヒテンシュタイン公国とは
「リヒテンシュタイン?なにそれ、チーズの名前?」と聞いてきそうな読者のために説明しておこう。
この国は、スイスとオーストリアの狭間に挟まった極小国家である。
大きさはたったの160平方キロメートル。
これはつまり、山形県南陽市と同じくらいである。
え、どこ?って?
安心してほしい、筆者も調べるまで知らなかった。
国の全貌を地図で見てみよう。
「こんな小さい国、誰が気づくねん」とツッコミたくなる。
もしスイスがカレーで、オーストリアがライスなら、リヒテンシュタインは福神漬けだ。
だが存在感は強い。
なぜなら、お値段も国民の平均年収も超一流なのだ。
リヒテンシュタイン公国の基礎知識
まあマイナーな国なのでリヒテンシュタイン公国の簡単な基礎知識をおさらいしておこう。
面積:山形県南陽市と同じくらい(笑)
首都:ファドゥーツ(Vaduz)
国語:ドイツ語
主要産業:精密機械&医療機器産業
通貨:スイス・フラン
世界一静かな首都『ファドゥーツ』
スイスより車を走らせ、草原の一本道を進むと、突如現るは看板一枚。
「え、もうリヒテンシュタイン?」
「ここが国境?これだけ?」
筆者、思わずツッコミを入れる。
そう、これがスイスとリヒテンシュタインの国境である。
国境の威厳?それは皆無。
ただ看板がポツンと佇み、何事もないかのように道沿いに立つのみ。
さて、到着したるは首都ファドゥーツ。
車は大きな教会の横、無料の駐車場に停めた。
散策すべく歩み始めるも、距離はせいぜい300メートル。
そして聞こえる音は……シーン。
いや、シーーーン。
鳥の鳴き声も車のクラクションも、近所の犬の吠え声も一切なし。
シーーーン
筆者、心の中で叫ぶ。
「ここ、ほんとに首都!? いや、無人都市か?」
世界一静かな首都、その名に恥じぬ静けさ。
もしホラー映画をここで撮ったら、音響効果いらず間違いなし。
リヒテンシュタインの首都に池上彰が!
そのとき、我々はしばしの別行動をとっていた。
エリとは仲良しだが、旅先ではちょっと距離を置きたくなるときもある。
すると10分ほどしてエリがゼエハア言いながら戻ってきた。
そして開口一番、トンデモナイことを言った。
エリ「ちょっRYOさん!(汗) 池上彰いましたよ!いや、ほんとに!わたし、ちょっと話しました!!」
筆者(心の声)「は?嘘やろ?こんな閑散とした首都に池上彰が!?99%ウソやん(笑)」
なにせリヒテンシュタインである。
人もまばらなこの小国に、あのニュース解説の巨匠・池上彰が、まさかしれっと歩いているとは到底信じがたい。
筆者は鼻で笑った。
エリ
「いやほんとです!」
「まだ近くにいると思います!」
「一緒に行きましょう!」
「早く早く」
しゃーないから半信半疑でついていったが、案の定、誰もおらん。
筆者「いや、もういいって。冗談やろ?なあ?」
エリに聞こえるか聞こえないかくらいの、性格が悪いやつがやりそうなボリューム感でぼそぼそ言っていたところ、エリが静かにキレた。
エリ
「もーそんなん言うんならRYOさんとこ戻って来んかったらよかった。」
「池上彰いると思ってRYOさんにも会って欲しいと思って急いで戻ってきたのに。」
「もういいです。」
「車戻りましょう。」
完全にガチトーンである。
これはマズい。
筆者、内心で土下座しながらこう思った。
筆者(あ……怒らせた……もしかして、ほんまにおったんか……?)
かなり気まずい雰囲気で、もはや会話も無いままエリが筆者の少し先を歩きながら車の方向に歩き始めた。
あ!!?
エリが突然叫び、後ろ姿の2人組(通訳兼カメラマン+池上彰)に駆け足で向かっていったのだった。
するとまさかの本物の池上彰、ここに降臨。
なんか池上彰と親し気に話しているエリ。
筆者、完全に固まる。
どうやら、さっきも本当に会っていたようだ。
筆者、激しく動揺。
人生初のテレビ有名人との遭遇に握手もせず、写真も撮らず、ただ少し話して別れた。
そして正直な印象を書くと、「けっこう無愛想」だった(笑)
筆者「あ、こんにちは(汗)」
池上彰「あ、こんにちは。」
筆者「まさかこんなところで有名人に会えるだなんて!!??」
池上彰「あ、それはどうも。」
筆者「ファドゥーツへは何をしに!!???」
池上彰「まあ、取材ですね。」
筆者「あ、そうなんですね!!へぇ~」
池上彰「あ、はい。…お二人はご夫婦ですか?」
筆者「いえ、友達です!」
池上彰「あ、そうですか。」
池上彰「○月✕日の△時から今日のインタビューが放送されるので是非観てくださいね。」
筆者「あ、はい!!汗」
まあ、有名人だし、確かリヒテンシュタイン公国の国王?大公様?にこれから会いに行くという事で、ちょっと急いでたのかもしれない。
池上彰と別れたあとは、エリの機嫌も戻り、筆者も小さく反省しつつ、2人で笑いながら車へと戻った。
リヒテンシュタイン、恐るべし。
内陸国に寿司屋
先ほども紹介した通り、リヒテンシュタインは筋金入りの内陸国である。
四方八方、見渡す限り山と陸。
魚の影すらない。
それなのに──である。
これはもう、ヨーロッパ大陸の七不思議のひとつに認定しても差し支えない。
「海? ありません。寿司? あります。」
そんな看板が立っていても驚かないレベルである。
いや、ちょっと待て。
いったい何をどうやって仕入れているのだ。
冷凍技術の進歩が著しいと頭ではわかっていても筆者の胃袋がまだ理解できていない。
空輸か?
山を越えて魚が歩いてくるのか?
あるいはアルプスの雪解け水で育てた幻の淡水マグロなのか?
寿司の看板を見た瞬間、筆者の頭には「寿司」という漢字がスイスの山岳地帯を滑落していくイメージが浮かんだ。
しかも、仮に一皿1ユーロなら行ってもいいかな……などと、財布のひもが緩みかけた自分がいたことも否定できない。
それほどまでに、内陸国の寿司屋というパワーワードには謎の魅力がある。
まあ、ネタの正体は勇気ある者のみぞ知る──である。
ノイシュバンシュタイン城へ
さて、旅はまだ続く。
我々は次なる目的地、ドイツのノイシュバンシュタイン城を目指す。
あの有名な「シンデレラ城のモデル」とも言われるお城である。
もう景観だけで胃もたれしそうなほどロマンチック。
チーズとビールの国が本気を出した観光資源、それがノイシュバンシュタイン城である。
そして、ここドイツ・フュッセンで、長らく旅をともにしてきた友人エリとお別れとなった。
約3週間、ほぼ二人三脚。
いや、実際は筆者がスタスタ先を歩き、エリが無言でついていく構図だったが、それでも別れは寂しい。
さらにここで追い打ちのように、筆者のバーナー(キャンプ用ガスコンロ)が完全に天に召された。
シュー……と切ない音を立てたあと、火が出ず、無言で沈黙。
ああ、さらばエリ。
さらば炎。
これからは冷えた缶詰と共に旅を続けるしかない。
ノイシュバンシュタインの壮麗な城を前に、筆者の心は妙に「侘び寂び」で満ちていた。
本記事は、2017年に行ったヨーロッパ一人旅の記録を振り返るものであり、ドイツの町フュッセンでの滞在を中心に、当時の思い出をゆるりと綴っていく。これがシンデレラ城、画質悪くてすません旅の期間は2017年初頭、およそ1か月[…]