【ヨーロッパ旅行記】スイスのツェルマット【16/24】

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本記事は、2017年に行ったヨーロッパ一人旅の記録を振り返るものであり、スイスのツェルマットでの滞在を中心に、当時の思い出をゆるりと綴っていく。

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筆者が世界で最も美しいと思う山がこのマッターホルン

旅の期間は2017年初頭、およそ1か月。

東欧・バルト三国・アイスランドなど、これまで訪れたことのなかった国々を巡る冒険だった。

今回の旅には、

  1. 旅仲間(以下「エリ」)との同行
  2. 初めてのレンタカー運転
  3. 人生初のテント泊

という3つの大きな挑戦があり、まさに忘れがたい出来事の連続であった。

本記事では、その旅の始まりから順に振り返っていきたい。

朝焼けのマッターホルン

さて、ついにこの時が来た。

長年焦らしに焦らされてきた聖地ツェルマット上陸である。

何度も言ってきた。
いや、言い過ぎた。
もう耳にタコどころか、イカの塩辛レベルになっている人もいるだろう(そこのあなた、そう、あなたのことだ)。

ツェルマット。

筆者がこれまで訪れた中で最も美しいと感じた町である。

え?ほかにも美しい町はあっただろうって?
いやいや、ここはマッターホルンの麓

そう、あの断崖絶壁のイケメン山が、町からチラ見えどころかガッツリ拝めるというのだからポイント高い。

まるで町全体が「どうだ、美しいだろう?」とドヤ顔している感じだ。

アクセスはスイスの首都ベルンから車でおよそ2時間半。

高速をビュンと飛ばせば、あっという間…とはいかず、車窓の絶景に見とれて思わず減速しがちになる。

※動画の音量注意。
心はスイスでも、鼓膜は日本仕様だ。

夕方から夜にかけてのスイスのドライブ。

これはもう、ただの移動ではない。

“人生のエモーションを噛みしめる旅”である。

あまりに美しすぎて、「ここで人生終わってもいいかも…」とか一瞬思ってしまうが、マッターホルンを見ずに死ねるか、という矛盾が脳内を支配する。

というわけで、ツェルマット。

全人類、いや、少なくともカメラ好きと山フェチは絶対に行くべき場所である。

レンタカーはテーシュ駅(Tasch)に駐車

さて、ここで一つ問題が発生する。

筆者も声を大にして言いたい。

ツェルマットへはガソリン車の乗り入れが禁止である!

理由?もちろん環境への配慮だ。
「美しい山に煙モクモクは似合わん!」ということだろう。

ゆえに、地図の通り、Taschまでは車で行くことができるが、TaschからZermattまでは必ず電車に乗らねばならぬのである!!!!

そのため、Tasch駅に車を停めて電車で移動するのが基本中の基本である。

Taschに車を停めてZermattへ電車で

心配ご無用。

Tasch駅には巨大で広大な駐車場があるので、よほどの繁忙期でもなければ、駐車場探しで心が折れることはないだろう。

改札前にはツェルマット行きのチケット販売機が置いてある。

見た目は最新鋭、ピカピカの機械なのだが……

この機械がなかなかの曲者で、筆者たちはこれのせいで電車を一本逃したのである。

筆者「このポンコツがぁぁぁあ!!」

ちなみに乗車時間はおよそ20分前後である。
意外に短いので安心してほしい。

ツェルマット駅に着くと、心優しきWolliくんがお出迎えしてくれた。


撮影:相棒のエリ

そして、今から雪山に向かう筆者の服装。
日本語で言うなら、まさに「完全装備」である(笑)。

Matterhorn hostel

ツェルマットは今回で三回目。

知っている道をスタスタと進み、ツェルマット駅から徒歩15分。

到着したのは、かの有名な「Matterhorn Hostel」である。


Matterhorn Hostel

2年前、筆者はこのホステルで運命の出会いを果たした。

受付の女性に一目惚れし、何度か見たはずの彼女の顔が離れた瞬間から全く思い出せないという現象に悩まされることになった。

人はそれをと呼ぶ。
あるいは軽い記憶障害か。

詳しくはこちらで説明している。

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さて、今回同行していた友人のエリには事情を伏せ、「ビール奢るから、ちょっとここ寄ろう」と言ってホステルに潜入。

ホステル兼バー、それがこのMatterhorn Hostelである。

戦場は二つ。受付か、バーか。

もしあの女性がまだここで働いているなら、どちらかにいるはずだ。
……そう、ストーカー気質と呼ばれても仕方がない。

だが筆者は声を大にして言いたい。

一目会えるなら会いたかっただけなのだ!!!

この時の筆者の気持ちは、恋をしている読者諸君ならわかるだろう。

結果的に、例の女性の姿はなかった。

もう二度と会えないんだな、と悟りながら、ビールを静かに飲み干す筆者。

このあと2時間弱の雪山登山が控えているにもかかわらず、である。

正気の沙汰ではない。

だが旅とは、正気を失った者だけに開かれる扉でもある。


店内の様子

筆者が一目惚れしたその彼女に初めて出会ったのは、【Reception】と書かれた右の扉の先にある受付カウンターだった。


左の扉がバーの入り口、右の扉がホステルの入り口

結局、彼女には会えなかった。
諦めた。潔く諦めた……ふりをした。


エリ、登山準備を始めるの巻

いざ雪山へ

ここからは雪山登山である。

所要時間およそ2時間。

この時点で既に夜の9時20分

さらに言うと、アイゼン(※氷上を歩くためのスパイク)が1セットしかない。

エリと筆者の分で2セット持ってきていたはずだった。

しかしながら、なぜか片方を車に置いてきてしまった。

「重いから無意識に置いてきた」というのが本人談だが、正直笑えない。

筆者とエリはそれぞれ片足だけにアイゼンを装着し、まるで三本足のカニのようなぎこちない足取りで、氷の登山道を登っていった。

なお、この道。
あとで写真も載せるが、本気で滑ったら山肌をスライドして谷底へ直行コースである。

Googleマップではスネガ展望台へは大回りのルートしか表示されない。

そのため、下に示した地点を起点とすれば、ほぼ一本道で展望台へ行ける。

ここまで来ればもう安心。
あとはザクザクと雪を踏みしめながら、ただひたすらに歩けば良い。

山あるある「あと少し!」

ようやく、テントを張ることができる平地に到達した。
雪山を登ること約2時間。ようやく、である。

ちなみに、スネガ展望台へはケーブルカーを使えばたったの10分ほどで着く。

だが、歩きとなると話は別だ。

距離以上に体力と気力を削られる。

筆者にとってこの道は、実は今回が3度目。
そのため道中、

「あー、ここかー。よし、もう少しやな」
「最後のこの急な坂さえ登ればゴールや」

などと、ある程度ゴールの位置が把握できていた。

精神的には楽だった。

しかし、同行者のエリにとっては完全な未踏の地。

真っ暗な雪山、延々と続く上り坂、先が見えない恐怖。

そして追い打ちをかけるように、温かい食事もない。
パンもカップ麺もなし。

あるのは寒さと雪と、黙々と歩く時間だけである。

ここで筆者は気づいた。

「ああ、エリのことをこんなに愛おしいと思ったのは、旅の中で今日が初めてだ」と。

1時間半が経過した頃、ついにエリの心が折れかける。

「ねー、RYOさーん、まだですかー」
「もう足動かないですよー、ほんま無理ですってー」
「いつ着くんですかーーー!!」
「さっきからずっと”あとちょっと”って同じこと言ってるじゃないですか」
「もーー!ねーーー。」
「RYOさーーーん(グスン」
「ちょっ、マジでゴールどこなんですかぁぁ!!!????」

と、最後の30分は完全に壊れたオルゴールのように、同じ言葉を繰り返していた。

これは……正直、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、可哀想なことをしたと思っている。

ここで一つ大事なことを述べておきたい。

覚えておきなさい!!

登山者が言う「あと少し」は、ほとんどの場合あと少しではないのである。

山では時間も距離感も、平地のそれとは違う。
それを知らぬ者は絶望し、知っている者は笑ってごまかす。

とはいえ、我々は着いたのだ。
2時間にわたる雪山登山を乗り越えて!

今ここにいる。

それがすべてである。

雪山のチゲスープが神

登頂後、時計の針はすでに23時30分を指していた。

辺りは完全に闇に包まれ、風は肌を刺す冷たさである。

そんな中、友人エリが取り出したのは——

「この日のために取っておいた」という特製チゲスープであった。

湯気の立つスープから立ちのぼる香りが、凍えた体と心を一瞬で溶かす。

一口飲んだ瞬間、我々の口から出た言葉はこうである。

「う、うま過ぎるぅぅ…(泣)」

チゲスープは、まさに神であった。

ふたりして笑い合いながら、黙々とスプーンを動かす。

レストランの味でも、インスタ映えでもない。

ただ、生きてここにたどり着いた者にだけ許される味が、そこにはあった。

そしてそのまま、何のためらいもなく泥のように眠りについた。

だが筆者には任務があった。
「夜明け前に起きてスマホとカメラをセットし、充電の様子を見守る」という重大な任務である。

カメラがこの寒さで機能を停止しないか。
スマホがバッテリーを消耗して沈黙しないか。
気が気でない。

まあ、正直なところ——
この一瞬を撮るためにここまで来たようなものである。

電気製品は常に温かく

朝の詳細な時刻は定かではないが、体感として午前6時頃には起床した。

テントの外はすでにうっすらと明るく、空が朝日に染まりはじめている気配があった。

スイス ツェルマット
午前7時16分に撮影

山は、美しい。

とりわけ筆者が最も好きなのが、空が仄かにピンク色に染まるこの一瞬である。

寒さも眠気も一旦忘れさせてくれる魔法の時間だ。

さて、起きて最初にやるべきは——

三脚にスマホをセットし、タイムラプス撮影のスイッチを入れることである。

しかしここからが本番だ。
ただスイッチを押すだけでは、スマホはこの極寒の環境に耐えられない。

スマホは必ず、常時モバイルバッテリー接続で。

これは登山系撮影者の鉄の掟である。

理由は明快。

氷点下の冷気にさらされたスマホは、バッテリーが驚くほど早く死ぬからだ。

100%で満充電されていたはずのスマホも、寒風に晒されると30分後には0%になっている。
マジで。

このため、スマホはモバイルバッテリーに繋いだまま三脚にセットすることが必須。

そしてそのモバイルバッテリーの本体は、できればテントの中に引き込んでおくのが望ましい。

なぜか?

とにかく寒いと電気製品は秒で死ぬからである。

北極圏でのトラウマ

筆者にはトラウマレベルの体験がある。

かつて真冬の北極圏を歩いていたとき、電池残量100%のスマホが(ポケットの中に入れていたにも拘らず)わずか10分で3%まで落ちたのだ。
いや、笑いごとではない。本当に。


あとはココアでも飲みながら、
神が創りしマッターホルンの朝焼けを拝むのみである。

ただし、油断して体を動かしすぎてはいけない。

なぜなら、モバイルバッテリーのケーブルに引っかかってスマホが動けば、タイムラプスは全て水の泡になるからである(笑)

朝焼けのマッターホルン

マッターホルンの夜明けを見届けたあとは、少しだけ仮眠を取った。

スイス ツェルマット
マッターホルンの山頂に朝日が差し始めたシーン

極寒の中で早朝に目を覚ますのは容易ではないが、この景色のためなら話は別である。

再び目を覚ましたときには、すでに辺りは完全に明るくなっていた。

テントの外に顔を出すと、朝日を浴びたマッターホルンが威風堂々とそびえ立っている。

そして何より嬉しかったのは——
スマホがまだ無事に動いていたことである。

「やったーーーー!!(((oノ´3`)ノ」

エリと肩を抱き合って喜びを分かち…とはならず、エリは普通に寝ていた。

しかし筆者は朝からテンションMAXである。

極寒の中で3時間以上も動き続けるスマホなど、文明の奇跡としか言いようがない。

タイムラプス撮影を終了し、ようやく朝食に取りかかる。

凍える手でバーナーをセットし、お湯を沸かしながら空を見上げる。

そして、そのとき撮影されたマッターホルン朝焼けのタイムラプス動画がこちらである👇

超絶美麗。
美しすぎて声が出なかった。
これを見た瞬間、「ああ、生きてて良かった」と本気で思った。

正直、登山のキツさとか寒さとか全部ふっとんだ。
この景色の前では、人間の苦労なんて本当にちっぽけである。

な、エリ?そうだよな?

マッターホルンが最高過ぎた・・・

さて、我々が一夜を明かしたテントがこちらである↓

――と、後ろを振り返ると、そこにはスキー場のリフトが堂々とそびえていた。

そう、スネガ展望台とはスイスでも屈指のスキーリゾートなのである。

我々はそんな場所で、まるで山小屋の一部のようにテントを張っていたというわけだ(笑)

再びマッターホルン側を振り返る。

そこにはもう、テントはなかった。

撤収完了である。

そしてそのまま、マッターホルンを眺めながら軽く散歩に出かける。

どこまでも続く雪原。
空気は澄み、音すらも凍るような静けさ。

だが、心は満たされていた。

山は人を試すが、同時に人を癒す。

そしてマッターホルンはその頂点に君臨している。

もうね、最高過ぎなんだよ、君は。

こちらがスネガ展望台のケーブルカー駅である↓

筆者はこの駅を2年前に利用している。
便利な乗り物だが、今回改めて料金表を見て即座に引き返した。

物価が高いのは知っていたが、さすがに「町まで降りるだけでこの値段!?」とツッコミを入れざるを得なかった。

スキー客たちは、優雅にマッターホルンを背景に滑走している。

これほどの絶景を見ながら滑れるスキー場が、果たして世界にいくつあるだろうか。

これぞ「贅沢」というやつである。

スネガ展望台から徒歩で下山

さて、いよいよ下山開始である。

雪山の絶景を惜しみつつ、少しずつツェルマットの町へ向かって降りていく。

スイス ツェルマット

「昨日おれらが登ってきた道を、そのまんま降りてるだけやからな」

と、エリに自信満々で説明する。

スイス ツェルマット

「あ、この階段も登ったな」
「ここ、昨日めちゃくちゃしんどかったとこやん」

そんな会話を交わしながら、マッターホルンを正面に眺めつつどんどん標高を下げていく。

道中には、ちゃんと整備されたトレイルがあるにはあるが、足を踏み外すと即・病院送りのレベル。

マッターホルン ツェルマット

美しい景色に包まれた下山ではあったが、この日も予定はぎっしり。

ツェルマットから例の「ハイジの町」マイエンフェルトへ移動し、再び登山&テント泊が控えていた。

まるで“登山リレー”である。

さらに下ると、高級感漂う別荘のような家々が建ち並ぶエリアに入る。
「こんなところに住めたら、人生バグやな」と思いつつ通り過ぎる。

そして、以前GoogleMapで示したハイキングルートの起点ポイントへと到着。

ここまで来れば、もう町はすぐそこだ。

再び、「Matterhorn Hostel」に帰還。

もちろん、あの女性が受付に立っていないか、ダメ元で入口をチラ見。

……はい、いない。

では、行こう。

マッターホルンを背に、町を歩く。

この町では、どこにいてもマッターホルンが視界に入る。

それが、ツェルマットという場所の凄みである。

Tasch駅に戻る

これにて、マッターホルン満喫コースは終了である。

「さすがにこれだけ堪能したら、もうお腹いっぱいやろ」と言いたいところだが。

実はこの年の年末に再びツェルマットを訪れ、マッターホルンを眺めながら年越しした。

ツェルマット マッターホルン
(大晦日のツェルマット)

ツェルマット マッターホルン
(大晦日のツェルマット)

関西弁で言うところの「どんだけ好きやねん」である(笑)

では、ツェルマット駅へと向かう。


ツェルマットの駅前


ツェルマット駅

旅を終えた者たちで駅は静かな熱気に包まれていた。

皆、心に何かを残して帰っていく。


車内の様子

電車は快適。あっという間にTasch駅に着く。


Tasch駅に到着

再び愛しのレンタカーと再会。
ここからはエンジンの力で移動できる。

文明、バンザイである。

ハイジの町、マイエンフェルトへ

さて、ここで突然だが問題である。

下の写真を見てほしい。

この中で、筆者のレンタカーはどれだろうか?


Tasch駅にある駐車場

駐車場に戻ってきた筆者、思わず困惑。

筆者「え、どれが俺のレンタカー?……全員、黒なんやけど?汗」

ナンバーなんて覚えていない。
どれも同じ顔、同じ色。
これが“黒い車地獄”である。

――しかし、即座に自分の車を見つけ出した。

正解は、奥に一台だけバックで停めてある黒い車である(^ω^)

なぜなら、欧州ではバック駐車がほとんど存在しない。

アメリカもそうだが、駐車場が広いと「頭から突っ込んでおしまい」が主流らしい。

つまり、一台だけバック駐車している車=自分のレンタカーというわけだ。

バック駐車、ここにきてまさかの識別アイテムと化す(笑)

ではいよいよ、車ごと列車に乗り込むカートレインで移動開始。

目指すは、あの有名な「ハイジの町」、マイエンフェルトである。

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マイエンフェルト ハイジの町
マッターホルン ツェルマット
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