本記事は、2017年に行ったヨーロッパ一人旅の記録を振り返るものであり、スロベニアでの滞在を中心に、当時の思い出をゆるりと綴っていく。
旅の期間は2017年初頭、およそ1か月。
東欧・バルト三国・アイスランドなど、これまで訪れたことのなかった国々を巡る冒険だった。
今回の旅には、
- 旅仲間(以下「エリ」)との同行
- 初めてのレンタカー運転
- 人生初のテント泊
という3つの大きな挑戦があり、まさに忘れがたい出来事の連続であった。
本記事では、その旅の始まりから順に振り返っていきたい。
JamnikのSt. Primoz
Kristinaとの涙の別れを経て、筆者はいよいよ「世界一美しい教会(※筆者調べ)」こと、St. Primož教会へと向かう。
場所はリュブリャナからわずか54km。
距離的には余裕、道も整備されており、常識的には「明後日ここでテント泊する予定なんだから今日は行かなくても良くない?」という判断になる。
だが、筆者は行くのである。今すぐに。
なぜなら心がそう言っているから。
高速道路に乗り、周囲を大自然に囲まれながら広くて走りやすい道をスイスイと走行。
……していたのも束の間、山道に突入してからは話が変わった。
- 途中で路面凍結に遭い、なんとか一速で頑張る
- 前から降りてきた車と離合できずに急斜面をバック
など、旅というよりもはやサバイバルゲームと化したが、なんとか生還し、目的地にたどり着いた。
途中の山道のわきに車を停め、いざ装備チェックに入る。
明日には標高522m→1535mの雪山アタック登山も控えているため、装備はガチ。
- 冬用の登山靴に履き替え、
- 防水の冬用ズボンを装着し、
- アイゼンをバッグに詰め、
- 水・行動食・希望・覚悟などもろもろを背負いこむ。
登山道は整備されているわけではないが、先人たちの足跡が雪の上に続き、自然と「ここが正解ルートですよ」という導線になっている。
ありがたい。
そして目の前に現れたのが、丘の上にぽつんと佇む聖プリモス教会。
これがまた……絶景。
信じられないくらい美しい。
これで本当に「ただの教会」なのかと疑いたくなるほどの景観である。
教会の手前には木製の机とベンチがあり、まるで「ここで景色見ながら食え」と言わんばかり。
筆者もその誘惑に抗えず、ここで少し早めの昼食タイム。
しかし!
この旅にはまだ「ブレッド湖」というラスボスが控えているため、名残惜しいがここは軽く下見と割り切って撤収。
とはいえ明後日には再び戻り、ここでテント泊をキメる予定である。
さらば聖プリモス、また会おう。
(ちなみにこの激坂と凍結路を駆け抜けたのは筆者の愛車──マイレンタカー号である)
ブレッド湖
聖プリモス教会からブレッド湖まではわずか22km。
近い。これはもう、お隣さん感覚である。
道は広くて空いており、運転するにはこれ以上ないほど快適。
たまに「降りるとこ間違えたかな?」という軽いミスはあったものの、それも旅の味わいである。
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そして無事にブレッド湖畔のホステルに到着。
チェックインもそこそこに、筆者はすぐさま湖の散策に繰り出す。
ブレッド湖だ、放っておけるわけがない。
そんな矢先、スマホに一件の通知が──
なんと、2日前にドタキャンぶっちされたあのNinaからメッセージが来たのである。
Ninaとは
前年、オーストリア・ハルシュタットで出会ったスロヴェニア人女性。
歳も同じ、誕生日も近く、一人旅同士、話すやいなや即意気投合。
その時のエピソードはこちらで。
3度目のヨーロッパ、2度目の独り旅(2016年)の思い出を振り返る。今回はオーストリアのハルシュタットでの滞在をサクッと要約し、印象的な出来事をシェアしようと思う。筆者が初めてヨーロッパを独りで旅したのは2014年の初旬。あ[…]
この出会いがきっかけで「来年はスロヴェニアに行くか」と決意したわけだが、今回の再会のチャンス、なんと直前に音信不通になりドタキャン。
スロベニア第2の都市マリボルのモールに(フリーWi-Fiを求めて)筆者を半日釘付けにしたあのNinaである。
そのNinaから、こんなLINEが。
勝手にドタキャンして本当にごめんなさい。
まだスロヴェニアにいる?
もし帰り道にマリボルに寄ってくれるなら今度こそ会って一緒にランチくらいしましょう。
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
筆者、もちろん即レスである。
「めっちゃ嬉しい!絶対寄る!〇日の△時くらいにマリボル通る予定!」
と、感動の再会(予定)に胸を弾ませながら、ブレッド湖の外へ飛び出した。
【後日談】
結局〇日なっても返事が来ず、Wi-Fi難民の筆者は何の用もないのにショッピングモール「EUROPARK」のベンチで3時間、ただ返信を待ち続けた。
筆者「詐欺か美人局にでも遭ったのかと一瞬思ったほどである。」
さて、気を取り直してブレッド湖を散策する。
ネット上の写真を見ては妄想していたあの絶景──
そう、それが今、筆者の目の前に広がっている。
(出典:Happy To Visit)
まずは湖を一周してみよう。
実はこの湖、周囲約6kmなので、歩いても1時間半程度でぐるっと回れてしまう。
湖沿いの道はちゃんと整備されており、ずっと湖を眺めながら歩けるので最高である。
途中、スロヴェニアの国民的スーパーマーケット「Mercator(メルカトル)」を発見。
筆者「これ、あのメルカトル図法と何か関係あるのか?」
という無意味な疑問を抱きつつ先へ進む。
ブレッド湖畔にあるブレッド城へ。
湖を見下ろすように建っているのが、ブレッド城。
湖面から約130m上の断崖にあり、11世紀初頭にはすでに文献にその名が登場しているというスロヴェニア最古級の城である。
とりあえず城のてっぺんまでは上ってみた。
が、中に入るには入場料が必要ということで、財布と相談し、今日は外観だけで我慢することに。
湖一周の旅、再開。
足取りは軽い。なぜなら道中には素晴らしい景色が続いているからだ。
湖を見ると──
凍っている。
しかもその上で遊んでいる人たちまでいる。
筆者「こいつら……氷、割れるって思わへんのか?」
と思いながらも、筆者自身も心なしか氷に惹かれて近づいていた。
だいたい45分ほど歩いたところで、湖の半分地点に到達。
疲れも出てきたが、それ以上に気持ちが満たされていた。
むやみに山に入らないこと!
さて、ブレッド湖で撮影したいと決めていた、ある”絶景スポット”があった。
が、問題は一点──
どこかわからない。
方角不明、標高不明、名前すら不明。
Googleマップ様も「知らんがな」と言っている。
しかし、筆者の心は燃えていた。
登山靴を履いており、服装は汗をかいても大丈夫な仕様。
気温は低いがテンションは高い。
筆者(心の声)「いつ行くの?今でしょ!!」
ということで、地図も持たず、下調べもせず、雪山に手探りで突入。
あまりに脳筋ムーブである。
ここで注意しておきたい。
絶対にである。
というのも、筆者の親友が実際に雪山で行方不明になっている。
笑えないリアルである( ˘ω˘ )
そこで一度冷静になる。
まずは湖を歩いて一周し、なんとなく「あの辺が登山口か?」という目星だけつけることにした。
明日の早朝、朝日に染まるブレッド湖を撮影するため、万全の態勢を整える作戦である。
と、ここで衝撃の発見があった──
「あそこから湖面に降りれるのだな、OKAY!!」
筆者もついにその氷の入口を発見。
凍った湖の上では、普通にみんなスケート靴履いてスケートしたり、氷の上でアイスホッケーをしたりしている。
犬まで氷の上でドリフトしている。
テンション最高潮である。
言っておくが、氷の厚さなど知らない。
このまま歩いたら足元からバリッと逝って、ブレッド湖の底で魚たちに歓迎されかねない。
にもかかわらず、周りはピクニック感覚で氷上パーティー状態である。
ただみんなが立ってるから自分も立っている。
水が凍っただけの足場に、ただそれだけの理由で立っている。
これが群衆心理というやつか。
不思議と怖さはなかった。
氷上スポーツの普及率、欧州つよすぎ問題。
日本において「スケート靴を持っている人間は?」と聞かれたら、たぶん9割以上が「え?貸し靴じゃダメ?」と答えるだろう。
筆者もそのひとりである。
そもそも靴選びより先に転ぶ。
だが、ヨーロッパ、特に寒冷地帯の人々は違う。
スケート靴?あぁ、玄関に転がってるよ。みたいなノリである。
たとえばオランダ。
スピードスケートの世界王者を何人も輩出するスケート王国である。
なぜか?
冬になると運河が凍るからである。
運河が凍る→滑る→みんなスケート通勤通学→気付いたら世界王者。
もはや文化であり、日常であり、交通手段である。
オランダにおけるスケート靴は、日本で言うところの自転車か下駄である、知らんけど。
オランダの首都アムステルダムの運河
(出典:Velvet Escape)
そんな氷上文化、スロヴェニアのブレッド湖でも当然健在である。
「湖が凍った?よし、ホッケーやるぞ!」
という感じで、子どもも大人も滑り始める。
滑り出すと止まらない。
氷の祭り状態である。
そして筆者も、数回だけスケート経験がある。が──
めちゃくちゃ怖かった。
筆者、滑るというより滑らされる。
自力で動いているというより重力の奴隷。
氷の上では理性もプライドもすべて削ぎ落される。
とりあえず転ぶ。しかも後頭部から。
だが、ブレッド湖の上ではそんな筆者の不安をよそに、老若男女が笑顔でターンし、ストップし、ホッケーしている。
まるで「氷?なにそれ、美味しいの?」とでも言いたげな滑りっぷり。
筆者、氷の上に立つだけで精一杯。
立ってるだけでもう自分を褒めたい──そんな午後であった。
ブレッド湖は早めに暗くなるので注意
ブレッド湖。美しい。感動的。そして──
やたらと暗くなるのが早い。
この湖、周囲をぐるっと山に囲まれているため、太陽が「さて、そろそろ本気出すか」と思い始める頃には、もう湖が真顔で夕方になっている。
筆者「え、ちょっと待って。太陽、仕事してなくない?」
太陽「してるよ。山が本気出してんのよ。」
ということで、気がつけばまだ15時台なのに完全に日没ムード。
カフェのランプがオシャレな照明から防犯灯に見えてくる時間帯である。
こういうときに懐中電灯やヘッドランプがあると便利であるが、筆者はもちろん──持っていない。
ちょっと暗くなるのが早すぎて焦った筆者はブレッド湖を横断することに。
そのあと例のスロヴェニア名物「メルカトル(スーパー)」に立ち寄り、色々と買い物をする。
疲れていたので、ホテルに戻ったら即寝。
旅先では睡眠欲が最強である。
普段より3時間は早く寝ているのに、なぜか最高に気持ちいい。
──これが旅先寝落ちという禁断の快楽である。
ブレッド湖のパノラマ
翌朝の日の出前、まだ夜と朝のあいだ、みたいな時間。
空がネイビーで、星がまだギリ残っている。
昨日の間に下調べしておいた登山口へ車で向かい(早朝なのでさすがに歩くのはツラい)用意していざ入山。
筆者「よし、いざ登山開始だ!」
山「ようこそ地獄へ(にっこり)」
「これもうクマ出るやつやん」と思いながら、ヘッドランプと雪山用の装備で山に入る筆者。
途中、木の根っこに足を取られながらも、なんとか30分でビュースポットに到着。
そして、いよいよ──
朝日、爆誕。
太陽が山の向こうから「おはよー」と顔を出し、ブレッド湖を黄金色に染め上げる。
撮りたかった風景(ネットに落ちていた写真)
──SNSで見た写真と同じ景色、なのに筆者のカメラロールには一切再現されていない現実。
筆者「俺の写真、なんか…モヤっとしてんな」
太陽「お前のレンズが曇ってんだよ」
事件発生:車が沈黙
さて、いい景色を見たら下山。
そしてレンタカーに戻ってエンジンをオン。
……キュルルルル、ピッ、ピッ、ピッ…
謎の警告ランプ点灯──エンジン、完全沈黙。
筆者「ちょ、マジやめて!ここ、山奥!動物しかおらん!!」
最初は「ドアが開いてます」警告かな?と開けたり閉めたりしてみたが、全然消えない。
むしろ点滅が早くなって怖い。
焦った筆者、とうとう海外ローミングをON。
通信料と共に心拍数も爆上がり。
Google先生に泣きついて調べまくる。
数分後──
筆者「なんかわからんけど、解決した。」
原因は忘れた。
だが、動いた。
それでいいのだ。
クレーム・レジーナ(クレームシュニタ)
下山後、Kristina一家から「スロヴェニア来たならこれ食べんと始まらんで」と強めにプッシュされた伝統ケーキ──「クレームシュニタ(別名:クレーム・レジーナ)」を食すため、ブレッド湖畔のカフェに突撃。
メニューを見る。
ケーキたちがガラス越しにこちらを誘惑してくる。
「食べて?」
「ほら、私サクサクよ?」
「チョコソース、かけていいのよ?」
──うるさいわ。
とりあえず、王道のクレームシュニタを選択。
これがまた、めっちゃウマい。
どれくらい美味しいかというと、「一口食べたらもう“語り”が始まってしまう」レベルである。
フォークでサクッ、口に入れるとシュワッ、そして脳がとろける。
筆者「…これは罪の味やな。」
ケーキランキング、改訂される
どうでもいい話だが、このスロヴェニア旅を経て、筆者の心の「ケーキランキングTOP3」が公式に更新された。
- レアチーズケーキ
- サクサクのアップルパイ
- クレームシュニタ or ザッハトルテ
──なお、ショートケーキは予選落ち。ドンマイ。
凍った湖とスロヴェニア人の反応
その後、再びブレッド湖へ。すると──
氷の上に大量の人。
まさに“地元民と観光客による氷上フェスティバル”開催中である。
凍ってる。
しかも歩いてる。
滑ってる。
スケートしてる。
果ては犬まで滑ってる。
驚いた筆者、すかさずKristinaとMonikaに連絡。
2人ともスロヴェニア人。
Kristina「え、凍ってるの!?見たことない!」
Monika「私も聞いたことない!」
筆者「えっ、えっ、毎年凍るんちゃうの!?」
──結論としては、どうやら毎年凍るわけではない“レア現象”らしい。
ただし、2人がそこまでブレッド湖マニアでなかっただけ説も否定できない。
海外での冬山登山
ブレッド湖から車を走らせること約30分。
到着したのはスロヴェニアのもうひとつの絶景スポット、ボーヒン湖(Lake Bohinj)である。
聞くところによれば、この湖もまた「鏡のように美しい」と評される絶景らしいが──
残念ながら、筆者はその写真をどっかで紛失してしまった。
旅の証が消えた。
ただの記憶になった。
目指すは標高1,535mの山小屋。
“Vogel”と書いて「フォーゲル」と読みそうになるが、「ヴォーゲル」である。
筆者はもうワクワクが止まらない。
メルカトル(また出た)でパスタとチーズとスープの素を買い、水は──
雪を溶かせばいい。
大気中のゴミ・排気ガス・微粒子などをたっぷり凝固させた物質なので、理科的には「ほぼ汚水」と言える。
だが背に腹は代えられない。
駐車に苦しむ外国人
登山口近くで駐車スペースを探して彷徨う筆者。
ボーヒン湖自体は非常に有名なので停車するスペースがなかなか見つからない。
「仕方ない、あの車とあの車の間に縦列駐車するか…」
コワイコワイコワイ、しかも坂道での縦列やし地面は凍ってるし。
そんなトラウマ駐車を経て、今回は奇跡的にスッと停められた。
筆者、ちょっとレベルアップした気分である。
登山開始!
冬用登山靴を履き、ストレッチをし、荷物を背負い、いざ出発。
ちなみにボーヒン湖の標高は522m、目指す山小屋は1,535m──
つまり標高差はおよそ1,000m以上。
しかも、登山地図がない。現在地も不明。道も不明。
筆者「うん、登るには最高の条件だな(震)」
夏はとても美しい山なのです↓
(出典:Mount Vogel Day Hike)
夏ならば美しい稜線が見えるであろう道も、冬は一面雪。
誰の足跡かわからぬトレースを頼りに進みつつ、「さすがに暗くなる前に幕営や」と判断し、テントを設営。
食事はスープ。
スロヴェニア語で「スープ」はjuha(ユハ)。
今日のユハの具は──パスタ。
最近栄養失調気味である、ちなみに朝も昼も晩もずっとパスタ。
筆者の細胞が、徐々に「アルデンテ」になりつつある。
バナナの行方
え、20kgのバナナはその後どうしたのかですって?
聞かれるまでもない。
あのバナナたちは、もはやバナナを超越した存在になってしまった。
栄養価は高く、カロリーもあり、手軽に食べられる。
まさに旅の最強装備──それがバナナである。
筆者は数日前、一瞬間分の非常食としてスーパーで約20kgのバナナを購入した。
非常食として、エネルギー源として、あらゆる意味で完璧なミールだと信じていた。
突然ですがクエスチョン
20kgのバナナを買って今日で3日目、しかし実際に食べたのは初日に数本のみ。
それはなぜか、三択からお選びください
1. 冷凍バナナになっていた
2. バナナに飽きた
3. バナナが虫に食われていた
正解はズバリ1番、冷凍バナナになっていた!!ドーーン
スロヴェニアの2月、日中でマイナス3~4℃、夜間ではマイナス8~10℃という極寒。
筆者がバナナたちを保管していた場所は──
車のトランク。
つまり、天然の冷凍庫である。
結果、バナナ20kgは見事にカッチカチ。
バナナ、鈍器化する
「運転中にちょっとバナナでも…」と後部座席に手を伸ばし、一本取り出したところ──
バナナ、折れる。皮ごと真っ二つ。
筆者(心の声):「えっ、いま折れた?これ、棒状の武器??」
鈍器化したバナナは食べるどころの騒ぎではない。
剥こうにも皮が剥けない。そもそも皮ごと硬い。
股バナナ戦法
どうしても食べたい筆者は考えた。
「そうだ、体温で解凍しよう。」
運転中、すぐに食べたい2本のバナナを股の間に挟んで温めるという戦法を実行。
※画像生成AIのポリシー上、股間にバナナを挟むという構成が認められなかったため、太ももの上に置いている(笑)
その結果、じわじわと柔らかくなり、なんとか食せる状態に。
しかしここで新たな問題が発生。
股間がかなり湿った。
結露で下着が濡れ、そのまま外に出たところ…冷気で股が冷凍される。
筆者「うおぉぉおぉお寒っ!!冷たいぃぃぃっ!!」
完全に自業自得である。
山頂
夜――満天の星空が広がっていた。
カメラ素人の筆者にとって、この壮大な星空を写真に収めることは不可能であった。
悔しさで涙を流しそうになる(´;ω;`)が、心のシャッターは切ったのである。
雪に覆われた激急坂。
スキー板の裏に滑り止めテープを貼り、優雅に登るスキーカップルが視界に入る。
一方、筆者はワカンもスノーシューも持たずに、ただひたすら足を雪にズブズブ埋めながら登っている。
筆者「ラッセル?知らん!」
もちろんピッケルなど持っているはずもなく、まさに裸一貫の登山である。
せめてもの救いは、テントを置きっぱなしにして最低限の荷物だけ背負っていたこと。
軽量化、これぞ登山の基本である。
そして到着!!!!
標高1535m。
ざっと1000mほど登ったことになる。
壮観である。息は切れているが気分は最高だ。
いつかはスロヴェニア最高峰、トリグラウ山(2864m)にも挑戦したいと夢見つつ…
山小屋にはカフェがあり、冷えた体に温かい飲み物が嬉しい。
おっと、ここにもクレームシュニタの文字が見えるではないか。
筆者「はい、頂きます!」
旅のご褒美は甘くて美味しいケーキに限る。
30分ほどまったりして、いざ下山へ。
テントは無事。誰にも荒らされていないことに安堵する。
再びSt. Primozへ
さて、ボーヒン湖での雪山修行(?)を終えた筆者は、再び聖プリモス教会(St. Primoz)を目指すことにした。
距離にして約50km、車でおよそ1時間ほどの道のりである。
到着したのはちょうど日没前。
山々が赤く染まり始め、空は金色から群青へと静かに変わりゆく。
これはもう、最高のテントタイムである。
手早くテントを張り、飯を作り、写真を撮り、星を眺める。
そして、シュラフにもぐりこみ、そのまま夢の世界へ……
と思ったら、夜中の2時にまさかの激痛で覚醒。
耳が……耳がぁぁ!!
「な、なんやこれは…耳の中がめちゃくちゃ痛い……」
水が入ったような不快感、鼓膜のあたりでキュウゥッと音がする。
鼻をつまんで「フンッ!」と圧力をかけるも、状況は改善せず。
痛みは続く。
いや、増していく。
「これが噂の外耳炎?内耳炎?いやもう“耳地獄”でええやろ」
寝てられるわけがない。
というわけで、再びカメラを手にして外へ出る。
星空は相変わらず圧倒的。
教会のシルエットとともに、静謐な美を放っていた。
このSt. Primoz教会、筆者は勝手に「世界一美しい教会」と命名している。
誰がなんと言おうと、筆者の中ではNo.1なのだ。
より詳しい情報はこちら。
今回は、筆者が勝手ながら「世界一美しい教会」に認定した場所、スロヴェニアのSt. Primoz(セイント・プリモス)教会について紹介したいと思う。訪れたのは2017年1月29日。時期が時期だけに寒さは刺すようだったが[…]
Monikaとの初対面──スロヴェニアの天使、再び現る
そしてついに、人生の友とも言える存在──Monika(モニカ)と、首都リュブリャナで初めて対面した。
Kristinaの時もそうだったが、どうやらスロヴェニア人というのは総じて親切ポイントが限界突破しているらしい。
Monika(以降モニ)も例に漏れず、まるで日本からの巡礼者をもてなす巫女のような気配りと笑顔で筆者を迎えてくれた。
ちなみにモニは、自家用車ではなくバスに乗ってわざわざ筆者のためにリュブリャナまで来てくれた。
長旅で疲れていたはずなのに、そんな素振りは一切見せず、満面の笑みで「ようこそ」と迎えてくれるその姿勢に、すでに感動。
そして筆者が「さて、どうやって移動しようか」と考えるよりも早く、モニはスマートフォンをスッと取り出してタクシーを手配。
そのまま自然な流れでタクシー代まで支払ってくれた。
「えっ……あの、これ……本当にいいの……?」と口ごもると、
モニは微笑みながら、
「あなたはわざわざ日本からスロベニアまで来てくれたゲストなのよ。今日は私に任せて」と一言。
この一瞬で、筆者の心の中に「この人を一生大切にしよう」という決意が芽生えたことをここに報告したい(笑)
スロヴェニアの美しさは自然だけではなかった。
そこに生きる人々の温かさこそが、本物の宝だと、筆者はこの時深く実感したのだった。
向かった先は、モニがあらかじめ予約してくれていたオシャレなレストラン。
タクシーで到着した時点で、すでに貴族プレイ感が半端ない。
そして筆者がさりげなく財布を取り出そうとすると、モニがニッコリと一言。
「わざわざスロヴェニアまで来てくれたんだし、今日は出させないわよ。旅はまだまだこれからなんだから」
…というわけで
おごってもらいました(笑)
結果、スープ・肉料理・デザート・ドリンク付きのフルコースを、まるっとごちそうになる。
筆者、感激のあまり空に向かってフヴァーラ(スロベニア語でありがとう)とつぶやく。
こうして、モニとの初対面はスロヴェニア流もてなし大作戦の幕開けとなった。
この調子で行けば、筆者はこの国で胃袋をつかまれて帰れなくなるかもしれない。
ヨーロッパでは食事を残すのは悪いことでは無い?
事件は、リュブリャナのレストランで起きた。
料理も終盤、モニの皿の上にはまだ半分ほどのメインディッシュが残っている。
美味しそうな肉料理が、目の前で静かに冷えていく。
これを見て平常心でいられる20代の体育会系男子がどこにいる。
筆者(心の声)
「それ、食べへんの? じゃあ、おれが…いや、我々は初対面。慎重にいこう。」
強引に行ってはならない、文化的礼儀とはそういうものだ。
「もうお腹いっぱい? おれ、食べよっか?」
正直、モッタイナイとか言う前に美味しかったので食べたかっただけなのだが、初対面だったのであまり強くは言えずに疑問形にした。
ところがモニは、こちらの想像を超える切り返しを見せてきた。
モニ「大丈夫よ。ヨーロッパではね、無理に食べきる必要なんてないの。
残すことは悪いことじゃないわ。
だってまだデザートがあるんだもの。美味しく食べるには、お腹にスペースを残しておくのが正解なの。」
……なんと…!
筆者(心の声)
「えっ、それって…マナー!? もしかして『残すのが正義』みたいな世界線来た!?(゚Д゚)」
彼女は何事もないように手を挙げ、店員を呼んでスッと皿を下げてもらった。
無駄な動きが一切ない。
洗練された「食後アクション」である。
食事を残すのが悪いことじゃない?ふ、バカな( ̄д ̄)
筆者(回想)
「出されたものは残すな。米一粒に神が宿っているぞ。残すのは悪。全部食え。おかわりも可。」
筆者はそんな教育を受けてきたのだが。
そう、ご存知の通りこれは完全に昭和の教育である。
おかげで筆者は今も皿の上を砂漠にする職人芸だけは健在だ。
むしろヨーロッパでは「満腹になるまで食べる」ほうが野暮とされるようだ。
彼らにとって、食事とは味わうものであり、消化の競技ではないらしい。
なるほど、勉強になった。
ありがとう、モニ。
そしてその肉料理、できれば全部食べさせて欲しかった。
だが世界的にはそうではないらしい。
2022年8月に結婚式の打ち合わせでイタリアに行った時にも、同じような感想を持ったことを思い出した。
「食事は残さず食べなさい」それ日本だけかも?
詳しくはこちらの記事で↓
※本記事は、前記事(➁サマータイム?ダンス?ガソリン代?日本料理屋?←イタリア旅行で受けた衝撃)の続きです。旅行に至った経緯は前記事に書いてあるが、超簡単にまとめるとこうなる。我々夫婦は、来年(2023年5月)イタリアで結婚式を[…]
リュブリャナ城アゲイン
どうやらスロヴェニアのシンボルはドラゴンらしい。
街の橋、看板、グッズ、果てはビールのラベルにまで、やたらめったらドラゴンがいる。
「おまえら、そんなにドラゴン好きか?」と思わずツッコみたくなるレベルだ。
筆者はこうして再びリュブリャナ城へ向かうこととなった。
つい2日前にも別の女性と行ったのだが(←これは大きな誤解を招く表現である)、人は忘れる生き物である。
前回は足で登ったので、今回は文明の利器――
ケーブルカーを使用する。
これがまた楽である。テクノロジー万歳。
到着後、特に目的もなく適当に城内をぶらつく。
だが十分に楽しめた。
その理由は…その理由は隣にモニがいるからだ。
ん、いや間違った。
いや、別に間違いではないのだが、もっと別のことを言おうと思っていた。
なぜなら筆者には、わずかながら「西洋建築の知識」という武器があるからだ。
そう、そう言いたかった。
「ん、あのアーチはゴシック時代か。と思ったらロマネスク的な特徴もあるな。ふむふむ、おもしろい。」
リュブリャナ城、見れば見るほど細部に味がある。
西洋建築の勉強、ガチでおすすめである。
建物の「写真を撮るだけ」から、「意味を理解しながら味わう」に変わるこの差は、旅の充実度にまるで雲泥の差がある。
そして、そう。筆者ほど「もっと西洋建築を知ってから来るべきだった…!」と悔いた旅人はおそらくこの国にいまい。
ヨーロッパ約30ヵ国をバックパッカーとして旅をしていたある男がいた。帰国後、その男は徐々にある大きな後悔に頭を抱えるようになった。なんで西洋建築を勉強して行かなかったんだと。西洋建築を勉強した[…]
ドラゴンもいいが、柱も見ろ。
建築、ほんまに奥が深いのである。
有名人が来たらしい
リュブリャナ城を下り、城下町に差しかかると、なにやらただならぬ雰囲気が漂っていた。
テント、機材、スタッフ、警備員、そして異様なまでの人だかり。
どう見てもこれは祭りだ。
いや、祭りの「準備段階」か?
モニもよくわかっていなかったようだが、どうやらプロのマウンテンバイク選手か何かが来るとのこと。
それを聞いた筆者の感想は一言。
筆者「へぇ~(知らんがな!!)」
とはいえ、これだけ人が集まっていれば「何か」はあるのだろう。
しかし準備中とのことだったので、いったん撤収。
モニが提案してくれた近くのカフェへ向かうことにした。
お店の名前はMAKALONCA(マカロンツァ)である。
スロヴェニアの首都で、同い年の女性とカフェで優雅にランチタイム――という字面だけ見れば、完全にデートである。
だが現実は、心の中が妙にザワザワしていた。
「えっ、こんなに優しくされていいんやろか? 同い年の女性やのに、タクシーもレストランも、全部奢られてるんやけど…」
あまりに申し訳なかったので、このマカロンツァでは意地でもお会計を出させてもらった。
もはや筆者のプライドをかけた戦いであった。
そして再びイベント会場へ。
するとさっきよりもさらに人が増えていた。
もう「歩く」というより「流される」に近いレベル。
有名人効果おそるべし。
ちなみに筆者はこの競技に一切興味がなかった。
名前も顔もわからん選手が自転車に乗ってどうこうしてるだけである。
が、隣で目をキラキラさせてはしゃぐMonikaを見ると、なぜかこちらも幸せな気持ちになったのだから不思議だ。
「…まぁ、旅ってこういうもんやな」
ブダペストへ
いよいよリュブリャナを離れる時が来た。
モニと名残惜しい別れを済ませた後、筆者は車中泊を一晩挟み、一路ハンガリー・ブダペストへと帰還する。
最後まで安定のBeeRides
まるで漫画の最終章で急に強くなる主人公のように、筆者の運転技術もこの一週間で大きくレベルアップしていた。
行きはおっかなびっくり、エンストしまくって動かし方すらわかっておらず、シフトレバーとにらめっこしながらの運転だった。
レンタカー屋のスタッフに助手席に乗ってもらって10分ほど公道で教習してもらっていたくらいだったが、帰りは違う。
高速道路で合流もスイスイ、縦列駐車も余裕のピタリ賞。
まるで別人である。
そして、旅の出発点であるBeeRides(←レンタカー屋)に車を返却。
店員は笑顔――というか、半笑いだった。
おそらく「こいつ、来た時と顔つきちゃうな」と思っていたのだろう。
確かに筆者の目には旅で得た“経験値”が宿っていた(と思いたい)。
筆者(得意げに)
「事故もなく、無事に戻って来ました!いや〜ほんと、いいドライブでした!」
そう言いながら車を降りた筆者の目に、あるものが映る。
……ん?
ホイールカバーが、無い。
(゜.゜)ドユコト?
右前輪だけ、むき出しの鉄とゴム。
まるで歯が一本足りない笑顔のような悲しきビジュアル。
「えええ? いつ!? どこで落とした!? てか落とした覚えも衝撃も何も無かってんけど… これは確実に罰金あるやつやん」
完全に動揺。心の中はもはやパニックである。
だが、奇跡は起きた。
返却処理が終わっても、請求書には何も書かれていなかった。
ホイールカバーの「ホ」の字も無い。
ゼロ円。白紙。ノーチャージ。
「……え?もしかして、“見なかったことに”してくれた?いや、違う。これはたぶん保険や。」
そう、BeeRidesはあのAlianz(アリアンツ)というヨーロッパ屈指の超大手保険会社と提携している。
おそらくホイールカバー1枚くらいの損失、アリアンツの手にかかれば“鼻で笑うレベル”なのだろう。
筆者「アリアンツ、愛してる。」
こうして筆者のスロヴェニア1週間の旅は、ホイールカバー1枚を失っただけで、無事に幕を閉じたのである。
世界一美しいマクドナルドへ
そして次なる目的地は、世界一美しいマクドナルド。
場所はハンガリーの首都ブダペスト。
建築マニアも納得のアールデコ様式に彩られたこのマクドは、ハンバーガーの香りと歴史的威厳が同居する不思議な空間である。
世界一美しいマクドナルド in ブダペスト西駅
筆者はそこで、ある人物と待ち合わせをしていた。
その名もエリ。
「こんなかわいい子と、おれみたいなゴリラが一緒にいていいのか?」と自問自答してしまうほど、エリはかわいいのである。
実はこのエリと、筆者はこのあと3週間もの長旅を共にする予定だった。
出会ってまだ3ヶ月。
正直、「え、旅ってそんな感じで始めちゃっていいの?」という感は否めない。
筆者「いやーでもまあ、かわいいし、しゃーないな(謎の理屈)」
もちろん彼女について書きたいことは山ほどある。
いや、山脈レベルである。
だが筆者は賢明である。
というか、身の安全を第一に考えている。
筆者「……多くは語らぬ。怒られるから。」
この世界一美しいマクドナルドを皮切りに、筆者とエリの珍道中が始まった。
恋か?友情か?トラブルか?
その答えは、まだ誰も知らない――
本記事は、2017年に行ったヨーロッパ一人旅の記録を振り返るものであり、チェコの首都プラハでの滞在を中心に、当時の思い出をゆるりと綴っていく。西洋建築を無学のまま入り、何がスゴイかもわからずに5分くらいで退出したプラハ城の大聖堂[…]